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虫の思い出(※虫が苦手な方は読まない方が良いと思います!)

3月になり暖かい日が続くので夫と散歩していたのだが、歩いていた夫が私の顔を見るなり突然「奇跡が起きてるから写真撮ってあげる!」と言い、写真を撮ってきた。
撮られた写真を見たら、私の鼻の上で小さい虫が死んでいた。
鼻に着地した虫が、ハエ取り紙のごとく鼻の油で動けなくなり、そのまま死んでしまったようだった。
お腹を抱えて笑っている夫を横目に、今までの虫にまつわる記憶を思い返していたら、他にも残念なエピソードが蘇ってきたので、ここに書くことにする。

中学生の時、演劇系の高校に進もうとして学校見学会に行ったことがある。
そこで高校生のミュージカルの公開練習を観たのだが、私の膝の上に大きめのハエが飛んできた。
なぜか咄嗟に捕まえてしまい、そのまま逃すタイミングを失って、劇を見ている間ずっと手の中でハエを潰さないように生かしたままそっと握っていた。


劇が終わってから手を開いてみたら私の手汗でハエの翅がふにゃふにゃになっていて少し悪いことをしたと思った。
せっかく高校生のミュージカルを観に来たのに、頭の中は半分以上握っているハエのことでいっぱいだった。
そんなわけで、見学会ではハエのことに気を取られ、またダンスにも全くついていけなかったため、普通科の高校に進学することにした。


そして高校生になり、石膏のマスク(顔だけ型取りしてあるもの)を見て、粘土でそっくりに作るという美術の授業があった。
何週間か続けて制作する課題だったため、粘土が乾燥しないように濡らした手拭いを被せて、その上からビニール袋を被せた。
翌週棚の上から作品を取ろうとした時、付近にはコバエのような小さな虫が数匹飛んでいた。
湿気が多いところだから虫が飛んでいるんだな、と思い、自分の作品のビニール袋を開けたら手拭いの上に、透明で長さが1cm位の細い幼虫が10匹くらいうごめいていた。
手拭いを開けると粘土の作品や粘土板にも同じ虫たちが所々にいた。
皆の作品にもついているかと思いきや、虫が湧いたのは私の作品だけであった。


さすがに透明な幼虫は気持ち悪いので、半べそをかきながら先生と一緒に粘土の板を洗って(ほぼ先生に洗ってもらって)制作を再開した。
粘土を扱っていればよくある話なのかと思っていたが、その後彫刻科の受験生になり粘土を何度も扱うことになったが、後にも先にもあんなに虫が湧くことはなかった。

その後大学の彫刻科に入り、アトリエで夜に作品を制作する機会が増えるようになった。
木で2mくらいある人型の彫刻を作っている途中で、作品を離れて眺めていたところ作品の頭の上で何かが動いたように見えた。
よくよく目を凝らしてみてみると、大きめのゴキブリが作品の頭の上に居座っているではないか。
叩き潰すのも嫌なのでそのまま近づいて制作を始めたらいつの間にかいなくなっていた。
これだけならまだ良いのであるが、そのゴキブリは、翌日も翌々日も夜の同じような時間になると作品の頭の上に現れた。
1-2分触覚を動かしながらその場でじっとした後、おもむろに姿を消すのである。
高いところに登ってさながら遠くの景色を見ているかのようで、どことなく上機嫌そうに見えた。
どうやら私の作品はゴキブリのナイトルーティンの一部に組み込まれていたようだった。

私は虫は苦手な方である。
なんで自分の方に飛んでくるのか、なんでああいう形をしているのかなど、分からないことが多すぎて怖いのだろう。
しかし虫それぞれの行動になんらかの法則があって、それと周りの状況とが組み合わさって、例えば私の作品に登ってくるような現象が起きていたのだと考えると、少しおもしろい。
今後も冷静に観察できるくらいのほどほどの距離感で虫と接していきたい。



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