実家の居間で寝ていると、夜中に何やら気配がする。
すっすっすっすっすっすっすっすっ…　
すっすっすっすっすっすっすっすっ…　
母の足音だ。

暫くして私に近づいてきて
「ちょっと！私の通帳がないねん！」
「どこに隠したの！昨日はここにあったのに！」
などと言う。

寝耳に水、とはこのことで
私は母の通帳など隠すこともないし
なんで無いのかもわからない。

「通帳？知らんなぁ」
「嘘つきなさんな！なんで無くなってるの！」
「う〜ん、なんでかな。一緒に探そか〜」

電気をつけて探してみると、
さっきまで母が寝ていた枕の下から通帳が出てきた。
「あったよ。通帳」
「あ〜よかった〜。なんでこんなとこにあったんやろな？」
それは、こっちのセリフです。

この一連の流れ、数十回くらいやったかもしれない。
あるときはマットの下、あるときは引き出しの中など
夜中になると通帳が移動している。
鍵や印鑑、クレジットカード、スマホ、ICOCAの時もある。
それらは、昼間は所定の位置にあるのだが
なぜか母が寝る前に、無意識に？別の場所へ隠してしまう。
そしてどこに置いたのかを本人はすっかり忘れ、就寝。
夜中に起きた時に不安になって“いつもある場所”を確認すると、無い！と驚く。
で、家族の誰かに盗られたと考えて、辻褄を合わせようとするらしい。
本人の気持ちになってみると、大切なものを盗んだり隠したりする家族なんて
信用できなくて当然なのだけれども。

たまに、いくら探しても見つからないことがある。
その場合はずーっとあちこち探し続け、情緒不安定が朝まで続く。
「いっかい寝て、明日また探そう」と提案しても寝ないし、私も寝られない。

探しものは何ですか？
見つけにくいものですか？
カバンの中も つくえの中も
探したけれど見つからないのに

まだまだ探す気ですか？
それより僕と踊りませんか？
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか？
うふっふ〜　うふっふ〜
うふっふ〜　さ〜あ〜

これほどまでに、この歌に共鳴する日が来るとは思っていなかった。
徹夜明けに聞くと胸に沁みる。

探すことは否定せず、一緒に踊ろうと誘う井上陽水。
私はそこまで達観できないけれど
いつかカラオケに行く機会が訪れたら、熱唱してしまうかもしれない。

2022年秋ごろの出来事。