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ディズニーランドであった心温まる物語【第2回】

こんにちは。あさ出版noteにお越しいただきありがとうございます!

 先週に引き続き、入場制限がかかり、なかなか行くことが難しくなってしまった「東京ディズニーリゾート」であった、心温まる物語をお届けします。

 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ入場できる人数も限られています。
しばらくは、リゾートに足を運ぶ以外のかたちでも、あの特別な世界を楽しむことになりそうですね。

 さて、今回ご紹介するお話も、ディズニーならではのお話です。。。ハンカチのご準備をお勧めします。

今週は「雨上がりのマジック」というお話しです。

第1回はこちらです


雨上がりのマジック

「だから気をつけなさいって言ったでしょ!!」
 女性の大きな声が聞こえたと思ったら、男の子が弾けるように泣き出しました。
足元には、無残にもソフトクリームがぐちゃっと落ちています。
ああ、落としちゃったんだな。状況を理解した僕は、すかさず男の子のそばに駆け寄り、トイブルーム(ほうき)とダストパン(ちりとり)で、パパッとソフトクリームを片づけました。そして、膝をついて、涙目の男の子の目線に合わせて、「ソフトクリーム落としちゃったんだね。大丈夫だよ。ちょっと待っていてくれる?」と伝え、隣にいるお母さんにも「すぐ戻りますから、待っていてくださいね」と声をかけ、急いでソフトクリーム屋さんに向いました。

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 売り場のキャストに事情を話し、新しいソフトクリームを作ってもらった僕は、一目散に男の子のもとへ戻りました。
「お待たせしちゃったね。はい、どうぞ!!」

 膝をついて、まだ頰を涙で濡らしている男の子にソフトクリームを差し出すと、「本当にいいの?」と訴えかけるような瞳でこちらを見つめています。僕は、男の子の手を持ってソフトクリームを手渡しながら、
「大丈夫だよ。もしまた落としちゃったとしても、お兄さんたちが、すぐに新しいのを持ってくるから(笑)」
 と言ってみても、男の子の表情はこわばったまま。よほどソフトクリームを落としてしまったことがショックだったのでしょう。
 お母さんにも「食べてくださいね」と笑顔で伝え、その場を離れましたが、その男の子のことが気になって仕方がありません。
 このままだと、せっかくのディズニーランドの思い出が、あまりいいものにならないかもしれない。どうにかして男の子の笑顔を取り戻したい……。
でもこれ以上、カストーディアルである自分にできることなどありません。
どうしようか……と悩んだところで、持っているものは掃除の道具だけ……。

う〜ん……ん!? 
足元にあるのは、さっきまで降っていた雨でできた小さな水たまり。
あっ!!
あることを思いついた僕は、男の子のところへ戻り、
「ボク、ちょっとこっちへ来てくれるかな。おもしろいものを見せてあげるよ」
と、水たまりのそばまで連れてきました。
そして、トイブルームのブラシ部分を、水たまりに浸
ひたし、その男の子にほほ笑みかけてから、水につけたブラシを筆に見立て、地面にササッと円を描きました。
「お兄さん、何を描いてくれるんだろうね?」
楽しそうにそう言って、しゃがみこんだお母さんの横で、立ち尽くす男の子。

いったい何が始まるんだろう? 


興味を持ってくれたのかはわかりませんが、男の子の表情に、少しですが変化があったような気もします。
「よし!」と気合いを入れて、もう一度ブラシを水につけ、今度は黒丸を一つ。
「あ! ミッキーのお鼻だ〜!」
弾んだ声をあげたのは、男の子です。
こちらを一心に見つめる男の子の視線を感じながら、次々に線を走らせます。
水たまりの水を使って、ミッキーマウスの似顔絵を描く――。
とっさの思いつきとはいえ、ミッキーの絵は子どもの頃からよく描いていたので、ブラシの操り方さえ感覚をつかめれば、かなりうまく描ける自信がありました。
鼻、口、顔の輪郭、二つの耳を描いたところで、
「うわ〜スゴーい。上手〜!!」
男の子が手をたたいて歓声をあげました。近くを歩いていたほかのゲストたちも、彼の声に気づき、「なんだ、なんだ?」と僕たちの周りに集まってきました。
初めてのことにドキドキしながら、頭を黒く塗り、最後に瞳を描いたらできあがり。
「はい! ミッキーマウスだよ。
ミッキーが君に『元気出して思いっきり楽しんでね!』って言ってるよ」

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汗だくになりながら男の子に向かってそう言うと、
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
満面の笑みで応えてくれました。
その言葉にホッとした瞬間、
パチパチパチパチパチ……。
周りで見ていたほかのゲストのみなさんから、たくさんの拍手が起きました。
見回すと、みなさん温かい笑顔を僕に向けてくれています。
「ありがとう」「素敵な瞬間に出会えたよ」
そんな感謝の言葉までも――。
僕はこみあげてくるものを必死でおさえながら、
「ありがとうございます。ありがとうございます!!」
何度も言って頭を下げました。

トレーニング中に先輩が言っていた


「僕らは、ゲストの思い出づくりのお手伝いをしているんだよ」
という言葉の意味がようやくわかった気がしました。
同時に初めて、カストーディアルという仕事に誇りを持つことができました。
それだけではありません。
僕は、もう一つ大切なことに気づきました。
常にゲストのために働いている僕たちですが、一方でゲストからたくさんの感動や喜びをもらっていたのだと。

by  元カストーディアルキャスト


今回のお話しはこれで終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました。

 今はガイドブックにも載るほど有名なお話しですが、元々はキャストの方の機転で始まったサービスだったのですね。このお話しで初めて知りました。ディズニーランドでは、日々さまざまな物語が、生まれています。

他にも、全26のステキな物語を収録していますので、お手に取っていただけると嬉しいです。

来週もティズニーランドのお話をお届けしますので、どうぞお楽しみに!




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