人生、はじまりおわる

 地頭は悪くない方だと思う。中学3年生のとき、春期講習が終わってから塾に通い始めた。数学はものすごく先の範囲までいっていて苦しかったし入塾テストは悪くて小学校から一緒の女の子に裏で馬鹿にされていた。他の子たちは全教科受けていたけれど、私は数学と英語だけ受講していた。勿体ない、と母が言うから。

 自分に文章を書く才能を見出したのはこのときだった。湖のあるこの場所では特色選抜なるものが存在していて、それは訳の分からない筆記テストと小論文で合格が決まる。今思えば、難易度をおもっきし高くしてみんな同じくらいの点数しか取れないようにすることで実質成績順で合格を決めるようなものだった。だから、成績のいい子や生徒会に所属していた子たちはみんな受かっていた。私は3と5しかない成績の平均して奇跡のオール4だったので結果はお察しの通り。

「さよるさん、文章を書くの上手いね」

 私は数英の他にリスニングと特色の授業も一応は受けていて、いつもは全く関わりのなかった国語の先生からの言葉だった。今でもその先生のことを私は覚えている。多分、一生忘れられない。

 私はピアノを弾いていた。コンクールにだって出たことがある。でも何の賞もとれなかった。それなりに弾ける程度。フルートも吹いていた。音色はあんまり綺麗じゃない。でも、絶対音感があった。チューナーなんて使わなくたってピッチを合わせられる。

 だけどそれだけだ。それが何???みたいなものだ。それで一生食っていけるほどの才能はなかった。運動は壊滅的に苦手だったけれど、何に対しても私はそんな感じだった。勉強も。

 私を裏で馬鹿にしていた塾の女の子は私と同じだった第一志望校からひとつランクを下げて落ちた。周りのひとたちもみんな落ちて私立に行った。合格報告に行ったとき、塾長は「おめでとう」ではなく「ありがとう」と言った。塾の闇を見たような気がした。

 ネットの偏差値サイトを見ると3年で1ずつ偏差値が下がっていて笑ってしまった。今でも私が通っていた高校は偏差値70弱だ。でも、トップ高じゃない。今やもう2番手ですらない。私立も含めると5番手くらい? 下がる偏差値。私みたいだ。お似合いの高校だった。

 塾に通うまで勉強なんて真面目にしたことなくて、塾に通い始めて急激に伸びた学力。そこそこの進学校の合格は私ってできるやつなんだ、という勘違いが始まった瞬間だった。

 時間が進んで高3。みんな夏休みは14時間勉強した、とか笑っていたけど、私は多分夏休み全体で10時間くらいしか机に向かっていない。朝起きて寝るまでスマホかスプラトゥーンか、みたいな生活だった。母が塾はやはりお金がもったいないと言うので英語だけ通っていたけれど、模試の成績は英語と国語だけまあまあで、数学はからっきしだった。物理理系。赤点をとりまくったけど成績に欠点はなかった。そういう教育プログラムなのだ。間違ってるよ、ジジイたち。

 英語のクラスも阪大や神戸大やらを目指すひとたちだらけのガチなクラスに放り込まれて、志望大学を言わなきゃ京大東大クラスにまで放り込まれそうな勢いだった。塾の先生に言語感覚が優れてるんだね、とお世辞を言われたけれど、英語は喋れない。もちろん日本語も喋れない。お世辞はお世辞でしかない。そういうのはもう、信用しないことに決めた。

 んで、ほとんど勉強せずに挑んだ受験はもちろん失敗した。その頃の私の頭はTwitterとゲームとスプラトゥーンでいっぱいで、不合格の文字を見ても何とも思わなかった。私って薬大生になれないんだそうなんだ。まあ、公募で受かってた心理学部行くからいいか、と。

 完全に文転してゆるゆる気分だったけれど、後期があることを知って、駄目元で受けてみることにした。その頃、私はようやく薬学への興味が芽生えていて、高校に入学して以来最も真面目に勉強した。2週間くらい。1日14時間くらい。死んだように眠っていた。

 後期はまあまあ人数がいて、この中からこんだけしか受からないのか、私は2週間野郎だからこのひとたちに勝てる気がしない、と半笑いを浮かべて試験を受けた。調子に乗った私は受かってしまった。なんだよこんな人生。最悪じゃないか。

 勘違いは加速し続けている。第一志望に落ちたことで私は人に言われなきゃ勉強できない駄目なやつなんだ、と思い知らされたのに、最後の最後で神様は意地悪をした。

 どうして。こんなに私は井の中の蛙のままなんだろう。こんなに上手くいっていたら、国家試験落ちるんじゃないかって思ってるよ。上手く行き過ぎた。もう駄目だ。終わりだよ。グンナイ。

 そういえば。

 幼馴染は成績優秀で生徒会に入っていたので特色で私と同じ高校に受かった。2人で私立高校を受けたときに私だけが特待生になって、それを聞いた彼女は私をしばらく無視するようになった。でも、特色の結果が出た途端態度が一変して「さよるも頑張りなよ」なんてグーサイン。私の方が下じゃないと気が済まない人種なのだ。ふざけるな。

 幼馴染は浪人が決まった。無駄に大きな夢を大きな声で語るやつだった。いつか失敗するだろうと思っていたよ。私みたいに。それが私よりも早かっただけだ。彼女はマクドナルドでLサイズのポテトを食べながら、前まで語っていた夢を捨てて、また違う大きな夢を語っていた。宅浪は現役のときより上の大学に行けないって実際に宅浪した先輩から聞いたけど、どうなんだろうな。その幻想をぶち壊してくれるといいな。でも、私は彼女のことが嫌いだ。私をいつまでも下に見ている。私のことを思い通りに動く人形だと思っている。陰口も沢山言われた。私に自撮りを送ってくる。可愛い……のかな。知らんけど。二股すんな。そしてそれを私に相談してくんな。お前の人生に私を巻き込むな。

 そんなことを言いつつも、生物基礎の問題集もらったんですけどね。マクドナルドで。使えるものは使ってく。私が彼女に利用されているように。利用し返すのだ。

 だいぶ話が逸れてしまった。兎にも角にも、私は結局大した挫折を経験しなかった。多分、これからだろう。そのとき心がぶっ壊れでもして親に多大なる迷惑をかけてしまったらどうしよう。これ以上迷惑をかけられない。だから、私の人生はもう私のものじゃない。

 ここまで長々と語ってしまったけれど、ただの自慢話みたいになっていることに気づく。なので、できるだけ誰にも見られないようにTwitterには上げないでおこう。あなただけは、私の後悔とこれからを想像してください。破滅のときを楽しみにしておいてほしいな。

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