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「300万円以下の副業収入は原則雑所得?」④~意見公募結果(詳細版)

意見募集(パブコメ)結果公示(10月7日)

国税庁は「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対し、8月31日を期限として意見募集(パブリックコメント)を行っていましたが

10月7日に意見公募結果と改正通達が公示されました。

当初の改正案では、これまで一般的には「事業所得」で通っていたとされる300万円以下の副業による収入の所得区分を

「雑所得」として取り扱うとされており、副業を事業として申告してきた会社員などにとっては、税負担が増える可能性がありました。

その影響の大きさからか、意見公募に対して、郵便等によるもの4通、FAXによるもの16通、インターネットによるもの7,039通、合計で7,059通の意見が寄せられ、

結果として所得税基本通達35-2の改正案の注書きについて、修正が加えられることとなりました。

修正前の案では

「その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない」

とあった部分(太字は筆者による)がばっさりと削られ

代わりに

「その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(~括弧内省略~)に該当することに留意する」

と修正が加えられました。

この修正により、収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として事業所得に区分されることとなります。

「所得税基本通達の一部改正(案)の修正について」

意見概要と国税庁の考え方

寄せられた意見の概要と国税庁の考え方は下記のとおりです。
(「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(令和4年10月7日国税庁)別紙より)

主だったところでは

今回の改正は副業を推進する政府の方針に逆行するものではないか、という意見に対して

国税庁からは

通達改正により、所得区分の判定が明確化されることで、誰もが申告しやすい環境が整うから副業推進とは逆行しない、との考えが示されています。

様々なケースで本業か副業かは明確でないから、これをもって所得区分を判断すべきではない、という意見に対しては

"……ご意見を踏まえ、主たる所得かどうかで判定する取扱いではなく、所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられている点に鑑み、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定することとし、通達を(別添のとおり)修正いたしました"としています。

また、そもそも300万円という基準の根拠が不明、という意見については

令和2年度の税制改正で、雑所得について、前々年の収入金額が300万円を超える場合には、取引に関する書類(現金収支集計表、預金通帳、収入集計表、請求書類、経費集計表、領収書等)の保存が義務づけられたことを挙げ

令和2年度税制改正により、収入金額が300万円以下の小規模な業務を営む者については、取引に関する書類の保存は求めないとされたことを踏まえた基準である、としています。

事業所得等に関する取引の記帳と帳簿書類保存の義務

所得税法上、事業所得等(事業所得、不動産所得、及び山林所得)を生ずべき業務を行う全ての者は、帳簿を備え付けて収入金額や必要経費に関する事項を記帳するとともに、帳簿や書類を保存することが義務づけられています。(所得税法232条、所得税法施行規則102条)

さらに、青色申告特別控除(最大65万円)や、3年間の赤字の繰越しなどのさまざまな税制優遇が受けられる青色申告者については、より厳格なルールが適用されます。(所得税法56条~63条、所得税法施行規則148条)

青色申告者、白色申告者に備え付けが義務づけられている「帳簿」と「書類」とそれぞれの保存期間については国税庁ウェブサイトにわかりやすくまとまっています。

おわりに

今回の通達改正では
最終的に、事業所得への区分において、帳簿書類の保存の有無を重視することが明確にされました。

国税庁は、「御意見に対する国税庁の考え方」の中で、その根拠を下記のとおり記載しています。

所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられているところ、一般に帳簿書類の保存がある場合には、営利性や有償性、継続性や反復性、自己の危険と計算における企画遂行性があると考えられることから、帳簿書類の保存がある場合には、原則として、事業所得に区分することとし、別添のとおり通達を修正いたしました。

(「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)
に対する意見公募の結果について(令和4年10月7日国税庁)別紙)

このように、事業所得者に課せられている法律上の義務を適切に果たしているか否かを重視することとしたことで、一定の納得感が得られる改正となったのではないでしょうか。

ただ、かねてより問題視されていた悪質なケース(故意に赤字にして給与所得と相殺するなどの極端な副業節税スキーム)に対するけん制効果がどれほどあるのかは疑問です。

ひとまずは、真面目に取り組んでいる事業者が不利になる結果を回避できたことを喜びたいと思います。


お読みいただいてありがとうございます。

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