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本当の孤独には逃げ込めない

身寄りも知り合いもいない大阪に単身、引っ越してきて、就職先も7人ほどの小さなIT会社で、趣味を共有するような仲間も一人もいない、孤独な生活をしばらくの間、送っていた。

元々、群れることが好きではなく、学生時代も敢えて一人になろうとしていたくらいなので、この状況はむしろ心穏やかだと思うほどだった。実際、この状況を求めて誰も知り合いのいない大阪へやって来たというのが本当のところだった。

地元横浜では飲食関係の仕事に就いていたので、毎日、自炊するのが楽しくて、創作料理などを毎日一人楽しんでいた。幸い、小さな会社で、仕事がなく、毎日、残業せずに帰宅することが可能だった。

毎日、少量の買い物をして、なるべく外に出るようにしていた。あるとき、朝陽がキレイだと気がついて、日の出とともにウォーキングも始めた。

自宅マンションの側に、昔ながらの小さな商店がある。買い物に行くとき、ウォーキングに行くとき、必ずその商店の前を通るのだが、杖をついたお爺さんがいつも商店の前に立っていた。その商店の主人だ。もうだいぶ高齢で、杖なしでは歩けないようだった。

地元横浜にいた頃は、実家住まいだったので、買い物にもいかないし、家と学校、職場の往復しかなく、近所の人とすれ違うことも稀だった。すれ違っても、お互いに挨拶もない、これが当たり前の日常だった。

商店のお爺さんは、私を見掛けると必ず会釈をした。食虫植物やロックフラワーのように、反射で挨拶してるのだと思い、私は大変に失礼だが、気にもとめていなかった。

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