「BUMP OF CHICKEN~アルエ~」偏見レビューpart3

父親の葬儀の喪主は兄が務めた
慣れない喪主にあたふたしている兄を私は物珍しそうにほくそ笑んでいた
火葬場の喫煙所で兄と二人きりになる
煙草を忘れた兄は私に
「一本くれ」とばつが悪そうに言った
私が無言で差し出すと「変な煙草だな」とそのまま私から火も受け取った

火葬場のこのわずかなやりとりを除いては兄と20年近く口をきいていない
大袈裟ではなく実際にそうなのだ
何故そんな風になったかはまた別の機会に話すとして、私は兄に憧れていた
幼少期から唐揚げにマヨネーズをかけて白米をばくばく食べていた私はまんまると太っていて、反対に剣道部の兄はスラリと痩せていた(そりゃもちろん食って運動しなければ太るのは当たり前なのだが)
兄が着ている服、兄が持っている漫画やゲーム、とにかく兄がすることなすこと全部が正解のように感じていたのだ
 
私が中学生の時(兄は私と三つ年が離れている)、兄はバンプオブチキンにハマっていた
兄がよく私の部屋から漫画を勝手に借りていくので取り返しに部屋に入ると彼らのアルバムやシングルが積まれていたのだ、確か当時は映画ワンピースの主題歌に選ばれたことで私は知った


兄は友だちでもねえのにボーカルのことを藤原君と呼んだり、むやみやたらと前髪を伸ばしたりしていたのを覚えている
私はこの頃になると兄に負けぬぞと勝手な対抗心を抱いていたように思う
俺の方がいろんなバンドを知っている、俺の方が面白い漫画を知っている、そんな幼稚な対抗心だ
兄がバンプオブチキンにハマっている内心、「お前が聞いているその『アルエ』って曲はな、アルファベットのRAのことでこれはエヴァンゲリオンの綾波レイの頭文字なんだ!!そしてその綾波レイは筋肉少女帯の『どこへでも行ける切手』という曲から生まれたキャラなんだぞ!!だから筋肉少女帯を聞いている俺の方が偉いんだ!!」と本人には言わずに内心で勝ち誇っていた

 
私は兄と20年近く口をきいていない
それはいまだに変わらない
現在兄がどこにいるのかも知らないし、結婚しているのかなんの仕事をしているのかも定かでない
確か父の葬儀の日に同棲している彼女と別れたと親戚に話していたのを盗み聞ぎして指をさして笑ったことはあった
別になにか確執があったわけでもなくなんとなく話さずに過ごしてきた今、私には小さな夢のような、いや夢というには大げさで、計画のようなものがある
実家に帰省してたまたま私と兄と妹(なんと妹とも私は将来口をきいていないのだ!)の三人がそろったら、チェーン店でも良い、お酒を飲みたい
30年近くまともな会話のなかった私たちはお酒を交わしたらどんな会話をするのか(そもそも彼らがお酒を飲めるのかすら知らないが)
私が幹事をしよう、トークだって回そう、なんならその席の会計は私が持とうじゃないか
もしそんな機会に恵まれたら兄に「アルエって綾波レイの曲だって知ってる?」と聞いてみようと思う


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