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VRによるメディア作品の未来

メディア作品とその観賞する端末(画角)の大きさはその作品世界に影響を与え、作り手側にも影響を与えることは自明だろう。芸人西野亮廣氏が以前語っていた好例がある。テレビの大画面化・高解像度化が、後ろの方でも良く見える「ひな壇芸人」を生んだ。しかしのその後スマホの普及によって小さい画面でコンテンツを見るようになり、ひな壇形式が減ったと分析していた(※1)。このように、メディア作品を見るサイズは、作品の内容に影響をおよぼす。

去年、このメディア作品のサイズを考えるきっかけがあった。2021年12月17日『マトリックス レザレクションズ』が公開した。僕は楽しみにしていたシリーズ最新作だったので、公開初日に観に行った。そして、18年ぶりとなる最新作なのだから過去作の復習すべきところを復習せずに観に行ってしまったことをチョット後悔した。これはもう一回、今度は完璧に過去作を復習した状態で観に行かなければとならないと思い、過去作を見直した。過去3作品を見直さなければならないのだが、仕事が忙しくあまり時間がなかった。僕は仕事の移動中や寝る前の10分程度の細切れの時間をフルに使って、Amazonプライムで見返した。本来ならゆっくり40インチのテレビ画面で観たかったが、5.8インチのスマホの画面(横144.0 mm✕縦71.4 mm)で見た。その際に僕は違和感を感じた。それは特に1作目『マトリックス』を観たときに強く感じたのだが当時映画館で観た時よりもスマホの小さい画面でみた方が、なんとなく格好良く感じる。という違和感だった。

スマホのない1980年代に青春時代をすごした昭和オジの世代の僕は、映画は映画館のスクリーンで見るのが一番で、漫画は雑誌でみるのが一番。映画をスマホで見たり、漫画をスマホで見るのは邪道。というようなわけのわからないイデオロギーを持っている。こんなイデオロギーのせいではないけども、普通に考えれば映画館の方が良くなるはずだ。映画館の大画面よりも小さいスマホの画面で見た方が良いというのは、なんだか腑に落ちないまま2作目・3作目と見ていった。すると何となくその違和感の正体が見えてきた。

まず僕が格好良く感じているそれは、カット割りだった。カット割りとは、カメラのアングル・構図・画面の切り替えのことだ。カット割りが、映画館の大画面よりもスマホの小さい画面でみることで格好良く感じていることは分かった。だが続いて本題だ。何故小さい画面の方がカット割りが格好良く感じるのか?という問題が残る。色々なシーンを頭の中で思い浮かべ、映画館で観た時の映像を脳内再生、スマホ画面で観た時を脳内再生を繰り返すうちに、自分なりの仮説に辿り着いた。これは、漫画の影響ではないか?というのが僕の仮説だった。つまり、スマホの画面で見た方がカット割りが格好良いと感じた原因は、スマホの画面の大きさが、丁度漫画のコマ位の大きさだからなのではないかと考えた。

ご存知のように、このマトリックスシリーズの監督であるウォシャウスキー姉妹(『レザレクションズ』はラナのみ)は、日本の漫画やアニメの影響を多大に受けた監督である(※2)。だからもちろん映像には、日本のアニメ・漫画の影響が伺える。また僕自身、映画も好きだが漫画の方が親しみがある。したがって、このマトリックスシリーズをスマホで見直した時に、その漫画的な構図が僕の体験にリンクしたのだと思う。そして大画面より、スマホの小さい画面の方が、格好良く感じたのではないかと思った。

この仮説を考えた時に新たな疑問が湧いてきた。逆に漫画のコマを映画館のスクリーンのように大くした場合、面白いのか?という疑問だ。漫画を巨大にして読んだ時、どんな体験になるのだろうか?と考えた。そして偶然だが、そんな馬鹿げたことがお手軽にできるモノもが僕の手元にはあった。VRゴーグルだ。VRゴーグルの機能の1つで、バーチャルデスクトップというものがある。自分のパソコン画面をヴァーチャルで大画面で見ることが出来る機能だ。この機能を使い、大画面で漫画を読んだら一体どのような体験になるかを試したくなった。電子書籍(kindle)の漫画作品で試したのは、『チェンソーマン』。これは漫画・アニメ批評家の石岡良治さんが 映画に影響を受けたコマ割りと言っていたことを思い出し、この実験にうってつけの作品だと考えた(※3)。そして次に『ジョジョの奇妙な冒険』こちらも、作者の荒木飛呂彦氏は映画に関して多数の著書もあり、キャラやモチーフでの映画の影響が強い映画的な作品だと考えて試してみた(※4)。

VRで漫画を見た感じの体感だが、大体1ページがB2サイズ(縦728 mmx横515 mm)。見開きでB1サイズ (縦1030 mmx横728 mm)ぐらいだと思う。VRゴーグルで見た感じを図で表すとこんな感じだ。

イメージ的にはこんな感じ

まず『チェンソーマン』の銃の悪魔が登場するシーン、読んだ方にしか分からないとは思うが、あの巨大なアメリカの銃の悪魔が日本に上陸するシーンをVRで観てみた。『ジョジョの奇妙な冒険』は、Part 4。吉良吉影VS東方仗助のクライマックスシーンを見てみた。2つとも同じような感想だったが、良い点と悪い点があった。まず良い点は、見開きページや大きく1ページ使うような大きいコマの迫力は格段に増した。迫力が増したことで同時に絵の魅力も上がっていると感じた。漫画の時には感じなかった素晴らしい絵画をみているような印象さえあった。そして悪い点だが、肉体的に辛い点だ。大きい画角は首を動かさないと読めない。僕のVRゴーグルOculus Quest 2は、だいぶ軽い方とはいえ503gある。0.5kgの重りをつけて首の運動をしているわけで、当たり前だが疲れてしまう。また視線移動も激しくなるため目もかなり疲れた。その結果、長時間テンポ良く読めなかった。

もちろんこんな楽しみ方は、作者も意図してない亜流な楽しみ方だと思う。だがこれは間違いなく今までにない体験だった。そしてこの漫画の読み方が楽しいと考える人間が生まれてきてもおかしくない位の良さはあった。だからVRで漫画を読むことによるユーザー体験の満足度増大や、アーティストの想像力の拡大は起きる可能性があると思われる。そもそも漫画は、漫画家がB4(横257 mm × 縦364 mm)サイズで書いた原稿をB5サイズ(横182 mm x 縦257 mm)の雑誌サイズに縮小しているのが一般的だ。つまり作者が書いているものを縮小して読むのが当たり前のメディアだ。もし、VRがより手軽に、より軽くストレスレスになっていくと、漫画作品をVRで原稿サイズのまま読んだり、大きくして読むようになるのではないかとも考えた。今回は漫画のみの実験だったが、映画やテレビのコンテンツにも影響を与えるのではなかと思う。例えば、映画製作者が手軽にVRで映画館サイズで試写することが行われそうな気がする。以上のことから、スマホの普及がメディア作品に影響を与えたように、VRゴーグルの進化・普及がメディア作品の作り方に影響を及ぼす可能性は大いにあるだろう。この先VRによって、メディア作品のサイズは制限が縮小し、今までにない作品が作られる可能性が期待出来る。


※1   参考 
エンタがビタミン♪|キンコン西野、ひな壇に出るのを辞めた理由の1つはテレビの変化に関係「ある時、スマホが現れた」
https://japan.techinsight.jp/2020/10/maki10171423.html/2


※2   参考 
日刊スパ|性転換したラナ・ウォシャウスキーは『らんま1/2』が好きだった
https://nikkan-spa.jp/407185

【マトリックス レザレクションズ】「身体表現」の変容をたどる(石岡良治の最強伝説 vol.45)
https://www.youtube.com/watch?v=Goa0ug5rTQw


※3 参考
批評座談会〈チェンソーマン〉
https://www.youtube.com/watch?v=uiRtfJDwOq0


※4   参考
『荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』
~『ジョジョの奇妙な冒険』に影響を与えた作品たち~
https://moviedeliberative.com/arakimovie/

マグミクス|明らかに映画が元ネタ?な『ジョジョ』の名場面4選 宇宙に放出、体にラクガキ…
https://magmix.jp/post/73331


こちらの記事は、宇野常寛さんのオンラインサロンであるPLANETS CLUB内の活動であるPLANETS SCHOOLの課題で書いたものです。
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