Z1114 学校教育課程論【第1設題】

【第1設題】中学校あるいは高等学校のいずれかの教育課程について、その基準と編成原理、今日的課題についてまとめてください。

1. はじめに
 教育課程について論じるにあたり、教育事情を取り巻く環境については社会的な問題であるがゆえに中学校、高等学校隔たりなく取り上げるが、それぞれに違いがある点については中学校を中心にリポートする。
2. 教育課程の基準の変化
(1) 意義
教育課程の「基準」の意義を確認しておく。教育課程の基準とは「 各学校においては国として統一性を保つために必要な限度で定められた基準に従いながら、創意工夫を加えて、地域や学校及び生徒〔児童〕の実態に即した教育課程を責任をもって編成、実施することが必要である。」とされているように、学校教育における授業等に関するスタンダード(標準)であり、マニュアルの一種であると解される。以下、学校教育におけるスタンダードという点に着目して、学習指導要領の変遷を分析する。
(2) 昭和22年制定
 昭和22年に制定された学習指導要領は、中学校の教育課程において、必須科目と選択科目に分けられ、必修科目には国語・習字・社会・国史・数学・理科・音楽・図画工作・体育・職業の10科目あり、選択科目には、外国語・習字・職業・自由研究の4科目があった。授業時間数も年間1050~1190時間であり、週30時間~34時間となる。つまり、平日(月~金)は6時間授業であり、土曜日の「半ドン」を含めて34時間となる。
(3) 昭和26年改訂
 昭和22年制定の学習指導要領は、戦後の混乱期の中で、学校教育の標準を示す必要があったため、極めて短期間に作成されたものであった。そのため、昭和26年に全面改訂された。とりわけ中学校に関して言及すれば、昭和24年に「新生中学校の教科と時間数の改正」が出された。ここで国史が日本史に、自由研究が廃止され特別教育活動に変更された。昭和26年学習指導要領改訂では、この改正の路線を踏まえて教育課程の再編が行われ、教科と特別教育活動からの構成となった。必須教科は国語・社会・数学・理科・図画工作・保健体育・職業家庭の8教科であり、選択教科は外国語・職業家庭・その他の教科の3教科である。生徒の自主性を重視する路線は踏襲されることになる。この改訂で、1年間の最低総時間を1015時間としており、授業時間数に大きな変化はみられない。
(4) 昭和33年改訂
 ところが、昭和26年のような経験学習的なカリキュラムであると、児童生徒の基礎学力が低下するとともに、青少年の非行や規律の低下などが問題となり、批判にさらされるようになる。これを受けて、教育課程審議会は、道徳教育・基礎学力・科学技術教育に重点をおくように方針を示した。また、これとともに、学習指導要領の法的拘束力についても強化された。例えば、最低授業時間数を規定し、中学校では1単位時間は50分、平均授業日数は35週とし、学習指導要領の名称から「試案」が削除された。
 昭和26年の学習指導要領が経験主義であることの批判を受けて、昭和33年の学習指導要領は系統学習的なカリキュラムになったといわれている。
(5) 昭和43~44年改訂
 この時代は著しい経済成長を背景に、経済成長を担う人材育成を教育に求める声が高まるとともに、人材能力を開発する計画を推進した。つまり、教育を人的資本のための投資とみなす考え方が強まり、能力主義の徹底化が主張された。学習指導要領についても、授業時間数の表記が最低時間数から標準時間数に変化した。
 一方で、この能力主義の過熱ぶりは、今日の学力至上主義につながる原点と言わざるをえない。つまり、これが行き過ぎた競争主義の蔓延につながるためである。過度な競争主義は教育本来の目的の人間的育成が閑視された。
(6) 昭和52年改訂
 昭和52年改訂では、前述の行き過ぎた能力主義、競争主義の反省から、ゆとりのある学校生活が目標に掲げられた。中学校においても授業時間数は削減され、教育内容に関しても、数学・理科における高度な内容は削除あるいは高等学校への移行とされた。
(7) 平成元年改訂
 平成元年の改訂では、中学校の教育課程において、各教科のうち、選択教科が拡大されている。生徒の個性や適性を重んじる立場からいえば、選択の幅が広げられたといえる。
 なお、小学校の教育課程では社会と理科が合体した生活科が導入されたのはこの改訂の頃である。
(8)平成10年改訂
 平成10年改訂では、第1に、年間授業時間数の縮小と、教育内容の削減であり、完全学校週5日制が実施されるようになった。また、総合的な学習時間の時間が創設され、小中学校では、各教科・道徳・特別活動に「総合的な学習の時間」が加えられ、4領域となった。
 これは、教育課程審議会は「学力観」の転換を訴えており、学力を単なる知識量の多寡でとらえるのではなく、自分自身で学び考えることができるか否かへと転換させている。そのために、基礎・基本の確実な習得と徹底して行うべきとされている。この改訂のねらいとしては、「 ①豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること、②自ら学び、自ら考える力を育成すること、③ゆとりある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること、④各学校が創意工夫を活かし、特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること」の4点が改正のねらいとされている。
 このような改訂の結果、現在では学力低下など、新たな問題も提起されてきている。
 加えて、平成10年の改訂を見て考察されることとして、①教育の場所が学校以外の場所にも求められつつあるということ、②その受け皿として地域が学校と密接な関係を保つ必要があるということ、さらに、③教職員へ変化について十分に理解と実践を求めることができたか、という点について課題が山積しているものと思料される。
 すなわち、①および②についていえば、児童生徒の個性を生かす教育を充実するためには、「学校」という枠組みに縛られていること自体に限界を感じる。従って、個性を生かす教育を十分に実践するのであれば、地域や企業、大学といった従来の「学校」の枠組みを超えた取り組みができたか、という観点からの反省が必要である。さらに、③について言及すれば、今日、「ブラック部活問題」が取り沙汰される理由は、この学習指導要領改訂が現場に深く浸透していないことによるものであると考察される。つまり、土日を含む極めて長時間に及ぶ部活動を行う中学が多いが、これは、果たして「個性の伸ばす」という一旦を担っているのであろうか。多感な時期に一つの物事に打ち込ませることは非常に魅力的に映るが、その一方で、「家族との時間や対話」「自分自身へ向き合うこと」が著しく阻害されている。部活動を担当される教師に熱心な方が多いのは、一方で、この学習指導要領の趣旨を理解しているのか極めて疑問に感じる。そのような中、近畿大学付属高等学校バスケットボール部では、大阪府で常にベスト4に入るなど強豪校であるにもかかわらず、毎週日曜日は練習を休みにする、スターティングメンバーだけではなく全員をプレイさせるという独自のスタイルをもって活動を行っている。これは従来、すべての学校において求められるべき姿であり、生徒だけではなく、その学校で働く教職員を労働者という観点で見たときに、学校をブラック企業にしない、という点で非常に有用である。
3. 教育課程の編成原理
 学習指導要領の趣旨を鑑み、どのように日々の学校のカリキュラムを組むのか、目標を建てるのかということが教育課程の編成原理である。
「中学校学習指導要領」では、原則的事項として、以下の4項目をまとめている。①法令及び学習指導要領の示すところに従うこと。②生徒の人間としての調和のとれた育成を目指すこと。③地域や学校の実態を考慮すること。④生徒の心身の発達段階と特性ならびに能力・適正・進路等を十分考慮すること。
 これらの原則をもとに、各学校では校訓、教育目標、めざす生徒像、めざす教師像、重点教育活動などに落とし込み、さらに年間のカリキュラムを編成するとともに、学校内での公務分掌の指針になるのである。
 ビジネス用語を使えば、ロジックツリー方式で、より日々の生活にこれらの原理、原則が活かされることになるのである。

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