Z1116 特別活動の研究【第1設題】

【第1設題】特別活動において学校行事が果たす役割を整理し、その特質をよく表していると思われる「勤労生産・奉仕的行事」の活動の例を示しながら、中学生および高校生を指導する際に注意すべき点を具体的に説明してください。

1. 特別活動の特質
(1) 学習指導要領における特別活動の移り変わり
学習指導要領は、1977年(昭和52年)改訂で「自主的、実践的態度を育てる」という文言が追加され、学校教育の中に特別活動が重要であることが示された。さらには、内容として「A生徒活動、B学校行事、C学級指導」という構成が取られた。
 また、1998年(平成10年)の改訂から総合的な学習の時間が入ったことや、各教科等で培われた能力が総合・発展される活動でもあるという文言が入ることによって、特別活動と各教科等の関連性が明確になった。
 さらに、2008年(平成20年)の学習指導要領改訂は、1947年(昭和22年)に初めて学習指導要領が刊行されてから7回目の全面改訂であり、「言語活動」や「体験活動」「学習意欲と学習習慣や生活習慣」が課題であり、具体的には、「小1プロブレム、中1ギャップなど集団への適応にかかわる問題」「生活体験の不足や人間関係の希薄化、集団のために働く意欲や生活上の諸問題を話し合って解決する力の不足、規範意識の低下」などが問題意識として注目されている。これは、これまで特別活動が重要視してきたものばかりが課題として挙げられており、子どもの実態や学年、発達段階に応じた「深く考える力」を養うことが求められているようになってきた。
(2) 今日の特別活動に求められているもの
 中学校学習指導要領第5章第1「目標」において、「心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り」という個の側面と「集団(や社会)の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする」集団の側面については、集団の側面において「人間関係」が新たに追加されたことで、よりよい人間関係を築いていくことが特別活動の重点となったと捉えることができる。
 また、知識や技能を活用して思考力・判断力・表現力等を養っていくことの重要性が指摘され、特別活動に関わらず、教科・領域すべてにおいて、これらの力が展開されることの必要性が指摘されている。
 そして、特別活動は「望ましい集団活動を通して」「なすことによって学ぶ」という二つの特質によって「自主的、実践的な態度を育てる」という中心的、中核的な目標を達成するために活動が展開されていく。今回の改訂で小学校において「自己の生き方についての考えを深め、自己を生かす能力を養う」という文言が付け加えられたことによって、中学校や高等学校における「人間としての生き方(高等学校は在り方、生き方)についての自覚を深め、自己を生かす能力を養うという目標と合わせ、小・中・高と一貫した自己指導能力の育成目標が掲げられ、その目標に向けての活動が展開される期待がある。
(3) 小括
 時代を経るごとに、特別活動の位置づけは益々重要視されるようになってきている。とりわけ、個として生きる力を育てるとともに、公共の精神や社会性を育成するバランスが求められるようになってきている。それは、教科外教育としての特別活動はもとより、教科教育をするうえでも活用されるものであって、私たちが生きていくうえで必要な「深く考える力」や「自己理解、他者理解」を育むことで相互が補完し合う関係となる。
2. 特別活動と教育課程の理論
(1) 特別活動と教育課程
 学校において編成する教育課程とは、教育基本法をはじめとする各関係法令、規則、要項等(以下「法令等」という)に定められた目標やねらいを実現するよう、学年に応じ教育の内容を授業時数との関連において総合的に組織した各学校の教育計画のことである。
 各学校においては、法令等を踏まえて地域や児童、生徒の実態や発達段階や特性を考慮し、特色ある学校づくりをすることが求められている。特別活動は特色ある学校づくりをするうえで、非常に大きな役割を担うことになる。
(2) 各教科、道徳および総合的な学習の時間等の指導との関連
 各教科、道徳および総合的な学習の時間等の指導との関連性については、指導計画を立てるうえで考慮しておく必要がある。
 特別活動における集団活動においては、話し合い活動、言語等による表現や発表、企業の企画・立案や調査活動など、国語科や社会科などの各教科で培われた能力が発揮される。また特別活動で培った自主的、実践的な態度は各教科の学習内容に良い効果をもたらし、相互補完的に学習活動が高められる。
 総合的な学習の時間については、目標や内容の違いや共通性を理解したうえで関連を図っていくことが大切である。特別活動の目標は「望ましい集団活動を通して、心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り、集団や社会の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的、実践的な態度を育てるとともに、人間としての生き方についての自覚を深め、自己を生かす能力を養う」ことにある。一方で、総合的な学習の時間の目標は、「横断的・総合的な学習や探求的な学習を通して自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に着け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的、共同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする」ことにある。両者の共通点は「自主的、主体的に」「人間としての生き方、自己の生き方」であり、相違点としては、特別活動は「望ましい集団活動を通して」取り組むことに特質があり、総合的な学習の時間は「横断的・総合的な学習や探求を学習して」取り組むことである。これらを留意しながら指導計画を作成する必要がある。
(3) 小括
 学校教育における特別活動の意義として、教科教育、教科外教育が縦割りになっているものに対し、それそれに取り組むうえで必要となる、自ら考える力や主体性、集団生活の中での取組み方など横断的な要素が含まれており、学年や年齢、時期に応じた適切な指導が求められていると考えられる。
3. 具体的な活動として、勤労生産・奉仕活動の活動例
 学習指導要領の「2 内容」のうち「(5)勤労生産・奉仕的活動」は、今回の改訂で協調された点である。つまり、中学校では、勤労の尊さについて体験活動を重視する必要がある。
 言語力の育成と活用の重視の観点から、体験活動を通して気づいたことなどを振り返り、まとめたり、発表しあったりするなどの活動を充実させていくことが求められている。「自己理解」や「他者理解」を深めていくことと関連して、「深く考えて」実践していく力を重視していかなければならないと考えられる。
 例えば職業体験活動が挙げられる。
 中学生であれば、将来の選択をする際に実際の体験は非常に有益なものであるし、実際の社会人とのかかわりは希薄であるため、非常に刺激的な経験となろう。
4. 指導上の注意点
(1) 地域の特色を生かす点
 例えば、前述した職業体験活動をする場合では、地域に根差した活動を行うことが重要となる。地元のスーパーや新聞社、警察署、消防署、本屋、旅館など、少しでも生徒生活に近い職業であれば、イメージしやすく、興味・感心が持たれるところであろう。
(2) 指導計画を作成するうえでの注意点
 学校行事の指導計画の作成に当たって配慮することとして、学校の創意工夫を生かすとともに、学校の実態や生徒の発達の段階などを考慮し、生徒による自主的、実践的な活動が助長されるようにする。授業時間数についても、実施前のオリエンテーションから、実施後の振り返りの時間まで年間計画の中に組み込む必要があろう。
(3) 実施上の注意点
 特に実施前のオリエンテーションでは、体験先の会社の情報みならず、その職業体験先の業界について調べることで、隣接業種や強豪への理解を深めることができる。
 例えば、以下のようなことがらについて各自で調査する。
・何をしている会社か(製造か販売か)。
・何で利益を出している会社か(主力商品)。
・その会社の歴史(創業年、設立年など)。
・取引先や競合他者の存在は。
 また、高校生で財務諸表の見方が理解できるレベルであれば以下のような観点からも調査させる。
・当該会社の財務分析
・会社と業界の分析(SWOT分析などフレームワークを用いる)
また、実施後の注意点としては、振り返り、当該会社にお礼状を書くとともに、体験前のイメージとの齟齬を具体的に書きだす。その違いが気づきとなり、新たな自分の価値観になる。
 これらは必ず生徒間で情報共有させるよう発表の機会を設ける。発表にあたっては、パワーポイントを使うなど、自分の考えや意見を相手に伝わるように工夫をさせることが大切であろう。

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