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小説家志望がすすめる青空文庫の面白い作品 その3 香倶土三鳥「お金とピストル」

 前回から随分と時間が空いてしまったが、第3回目の今回は超短編の作品「お金とピストル」を紹介する。作者の名前を見てピンと来る方も来ない方も、興味を持っていただけたら幸いだ。

 前回の「屋根裏の散歩者」を選ぶ過程で香倶土三鳥「オシャベリ姫」という作品を知った。こちらの作品も面白かったのだが、第2回を公開した後に見つけた「お金とピストル」を、個人的に気に入ったため今回はこの作品を紹介したい。

 まず、あらすじを説明する。泥棒がある家に押し入り、ピストルを突き付けながら金を要求。しかし、その家の主は守銭奴で泥棒にある提案を持ちかける……というものだ。それでは、推しポイント3つ!

推しポイント1:「え、もう?!」短すぎて一瞬で読み終わる

お金とピストルの1

 今回のあらすじを短いと感じた方もいらっしゃるかもしれないが、それには理由がある。なんとこの小説、全448字しかないのである。原稿用紙換算しても、1枚ちょっと。本当に一瞬で読み終わってしまうのだ。「小説を読みたいけれど、長いのはちょっと」とお思いの方には、ぴったりと言えるだろう。

推しポイント2:謎の疾走感!秀逸過ぎるオチ

お金とピストルの2

 短いながらも、この作品に起承転結はきちんとある。その上、読者をぐいぐいと引き込むスピード感と驚きのオチもあり、読後にはジェットコースターに乗った後のような、不思議な疾走感を覚えること請け合い。

推しポイント3:香倶土三鳥って誰?意外な作者の正体

お金とピストルの3

 この作品を青空文庫で検索すると、作者は夢野久作となっている。実は香倶土三鳥(かぐつちみどり)とは、九州日報で掲載していた際に夢野久作が使用していたペンネームなのだ。夢野久作と言えば、三大奇書の1つでもある「ドグラ・マグラ」の印象が強いだろう。しかし、この作品はそれとは作風が異なるため、夢野久作作品に触れたことがある方も、無い方もぜひ手にしてみて欲しい。

 一時期よりは外出しやすくなったとは言え、依然として家に居ることを推奨される昨今に、退屈を覚えることもあると思います。しかし、前回紹介した「屋根裏の散歩者」も今回の「お金とピストル」も舞台は家です。外に出ないまま、ぜひワクワクを味わっていただけますと幸いです。

 皆様の読書が、より豊かなものとなりますように。


青空文庫 夢野久作「お金とピストル」https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card46720.html

〈絵と文 足羽椋子〉

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