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アジアビジネス入門66「シン・ゴジラとシン・国際貢献」@アジア人材エコシステム(1)

庵野総監督が込める「シン・ゴジラ」の新解釈

 日本語の接頭語に新たに加わった「シン」だが、その用法は庵野秀明総監督が製作したシン・ゴジラがまずは想起される。評論家の武田徹・専修大学教授によると、シン・ゴジラの「シン」には同音の「震」「神」「真」の漢字の意味が重ねられているという。放射能を帯びた巨大怪獣は東日本大震災による核災害のメタファーで、文明都市を破壊する姿は驕った人間を罰する神を彷彿させるといわれる。
 庵野総監督の関わった作品は、シン・エヴァンゲリオン、シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーと続くが、漢字の「新」が新しくリニューアルされた感じがするのに対し、カタカナの「シン」には新しい解釈が加えられてバージョンアップしたニュアンスが込められている。

制度改正で削除された国際貢献の文言

さて、シン・ゴジラにシン・国際貢献をタイトルに加えたのは、今年4月から東海大教養学部の万城目正雄教授の指導のもと、外国人材受入れとアジア人材エコシステムについて調査・研究することと関係がある。
 外国人材を受け入れる技能実習制度と特定技能制度の改正案の国会審議が4月16日からスタートした。創設から30年経った技能実習制度には目的(国際貢献)と実態(人材確保)に乖離があるとの指摘とともに、「転籍もできず、人権問題が起きている」との批判が出ていた。新改正案では技能実習制度を発展的に解消し育成就労制度に代わることになった。そして、育成就労制度の目的は、技能実習制度の「技術移転による国際貢献」から「人材確保と人材育成」となった。
 人口減少時代を迎え、日本各地で人材不足の悲鳴が聞こえる。その対応策として、人材確保と人材育成を重視した外国人材受入れにするとのロジックである

必要なアカデミックな論考

 しかしながら、創設から30年続いた技能実習制度の目的である国際貢献の検証が不十分なまま、この文言が新制度では削除されたは残念でならない。やはり、外国人材受入れの目的は、人材確保、人材育成、国際貢献の三本柱であるべきだ。制度には光と影がある。果たして30年続いた技能実習制度に技術移転による国際貢献の成果はなかったのか、検証され客観的な裏付けはされていたのか。研究者の視点から、アカデミックの客観的な論考がなかったことも国際貢献が削除された要因の一つだったのではないかとの振り返りがある。まずは、社会科学的なアプローチによる検証を進め、新しい解釈でシン・国際貢献を捉えなおすことが必要でないかとの問題意識からスタートしたい。

自発的な国際貢献が日本の存立に必要

 そのヒントは、東日本大震災の被災地、宮城県気仙沼市の菅原工業が、受け入れた技能実習生が研修を終えて母国・インドネシアに帰国しても働けるようにジャカルタ郊外にプラントを整備し、元実習生らとともにリサイクルアルファベット事業を行っていることにある。
 シン・国際貢献とは日本とアジアの持続的な発展のため、アジア人材エコサイクルを築くことではないだろうかとの問いかけである。この仮説を調査・研究しながら、世界やアジアに自発的に国際貢献することこそ、日本の存立を図っていく道であることを立証していきたい。


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