アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術叢書」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術とし…

アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術叢書」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人文一般もカバーしつつ、まだ日本では広く知られていない各国の作家やアーティストなどにもスポットを当てていきます。

マガジン

  • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸

    日本人として中国に長く暮らし、書や篆刻の文化、中国古美術品の世界にも造詣が深い和田廣幸氏。書と篆刻の魅力、日中の文化比較、書画作品の批評などを独自の視点で綴る。

  • 「見えない日常」木戸孝子

    家族の親密な関係性を収めたシリーズ「Skinship」が、このところ欧米の数々の写真コンテストで高い評価を受けている写真家の木戸孝子氏。同作のテーマに至るきっかけとなったのは、彼女がニューヨークでの生活で思いがけず遭遇した〝逮捕〟だったーー。

  • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵

    写真家・宍戸清孝とライター・菅井理恵による写真エッセー「法華経の風景」です。日本各地の法華経にまつわる土地を撮影し、エッセーを添えます。

  • 「地に墜ちた衛星」劉子超

    中国のノンフィクション作家・劉子超による中央アジア旅行記『失落的卫星』(2020年)の翻訳です。同作は中国で豆瓣2020年ノンフィクション部門第1位に輝き、第6回単向街書店文学賞(年間青年作家部門)も受賞しました。

最近の記事

『水墨の詩』の著者・傅益瑶氏が講演(神戸・4月21日)

文・アジアと芸術digital編集部 「アジアと芸術」のシリーズ1作目として刊行した『水墨の詩』の著者・傅益瑶さんの講演会が4月21日、神戸市内において第三文明社の主催で開催されました。  講演タイトルは「水墨画と法華文化を語る」ーー。『水墨の詩』の編集に携わった南部健人さんが進行役を、文筆家の東晋平さんが解説を務め、40年以上に及ぶ傅さんの日本での画業を法華文化の視点で辿りました。講演の抄録は、6月1日発売の月刊『第三文明』7月号に掲載予定です。  会場で『水墨の詩』

    • 書評『お調子者のスパイス生活』1〜4 矢萩多聞著/文・菅井理恵

      ※  フライパンに油とクミン、カルダモン、シナモンを入れて火にかけると、ふつふつと油が泡立ち、勢いよく香りが立ち上がる。自宅で「インドカレーもどき(と呼んでいる)」を作るようになって、俄然、スパイスに興味を抱くようになった。  画家であり、装丁家でもある矢萩多聞さんの『お調子者のスパイス生活』シリーズは、2022年10月に1冊目、翌年7月に2冊目、10月に3冊目、そして、2024年1月に4冊目が刊行されていて、それぞれにテーマとなるスパイスが決められている。  私の自宅

      • インタビュー「〝自閉症のアーティスト〟として」星先こずえ(切り絵作家)

         ヘッダー写真)こずえさん(右)と母・薫さん(左) これまでとは異なる制作のプロセス ――「Social Art Japanプロジェクト」は「アートの力で社会課題を発信する」とのコンセプトのもと、19名の障害者の方が在宅勤務で作品を制作されています。こずえさんは2020年に1人目の社員アーティストとして入社されました。在宅とはいえ、勤務として制作するようになって何が変わりましたか。 こずえ 月に2点の作品を会社に提出するんですが、そのうちの1点はSDGsに関わるものを描

        • 湖畔篆刻閑話 #2「書は人なり(書如其人)」和田廣幸

          ヘッダー画像:節録 荃廬先生「西泠印社記」部分 2021年  私が初めて中国の地を訪れたのは、大学3年の1985年、年の瀬の時期のことでした。大学書道部の訪中団に参加して、8日間の日程で北京・桂林・上海の地を訪れたのです。  寒々とした北京の空港に降り立った瞬間、まず目に飛び込んできたのは、「北京」と大きく書かれた毛沢東の手になる真紅の文字でした。この瞬間、なぜかまざまざと現実の中国の姿を垣間見た思いがしました。専用のバスから眺める中国の街は、色とりどりの筆文字の看板で溢

        『水墨の詩』の著者・傅益瑶氏が講演(神戸・4月21日)

        マガジン

        • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸
          2本
        • 「見えない日常」木戸孝子
          9本
        • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵
          12本
        • 「地に墜ちた衛星」劉子超
          20本

        記事

          見えない日常 #9 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 8〉はこちら Chapter 9  ボーイフレンドがベイルアウトして職場に戻ると、彼の給料は2倍に増えていた。ボスは、彼の大切さを身にしみて感じたらしい。「君にはずっとここで働いてほしい」と言ってきた。いられるものならいたいのだけど……。  アメリカの裁判のシステムは日本とはだいぶ違う。まず弁護士が、刑を軽くするために、検事と何度も交渉をする。交渉が終わると、弁護士が電話をくれて交渉の結果を伝えてくれるので、被告人は法廷で何を言われるかを知ったうえ

          見えない日常 #9 木戸孝子(写真家)

          法華経の風景 #12=完「五島慶太ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵

          ヘッダー画像:渋谷・東急百貨店東横店跡  100年に1度の再開発が行われている東京・渋谷。忠犬ハチ公像の前には海外からの観光客が一列に並び、記念撮影の順番を待っていた。駅前のスクランブル交差点を無数の影が交差する。その向こうに見えるのは、「SHIBUYA109」。印象的な名前は、東急の読みを数字の「いちまるきゅう」にあてて付けられた。  渋谷の発展と深く関わる東急は、2022年に100周年を迎えた。事業の根幹は鉄道事業を基盤とした「まちづくり」。その源流を辿ると、実質的な

          法華経の風景 #12=完「五島慶太ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵

          インタビュー「詩人の目で切り取った世界を、さまざまな形で表現したい」チェン・ウェイティン(現代美術家)

          台湾から日本へ ――チェンさんは台南のご出身だそうですね。  生まれたのは台南ですが、台湾では何度も引っ越しをしました。屛東、高雄、台北、台中で暮らし、今は東京に生活拠点を置いています。まるで遊牧民のように住むところを変えてきました。何度も新しい環境に身を置くなかで、それぞれの違いを敏感に感じ取れるようになりました。街の匂い、雰囲気、人と人との距離感など、そうした違いを私自身とても楽しんでいます。  移動を繰り返すうちに、その土地の細部に注目する癖がつきました。空の色や

          インタビュー「詩人の目で切り取った世界を、さまざまな形で表現したい」チェン・ウェイティン(現代美術家)

          湖畔篆刻閑話 #1「中国での書の復権」和田廣幸

          ヘッダー画像:無為 2019年 道路曰遠侍前曰希秋風曰起吾志曰悲  四半世紀に及ぶ北京での生活に終止符を打ち、日本の琵琶湖畔のこの地に移って来て、早いもので既に5年が経とうとしています。 「有山有水」(yǒu shān yǒu shuǐ:山あり水あり)のこの地は、中国の首都・北京での「生き馬の目を抜く」ような日々の生活とは打って変わり、穏やかな自然にすっぽりと抱かれた、まさに陶淵明の「帰去来辞」さながらの生活といえるでしょう。  篆刻の聖地ともいえる「西泠印社」は、昨年建

          湖畔篆刻閑話 #1「中国での書の復権」和田廣幸

          見えない日常 #8 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 7〉はこちら Chapter 8  ボーイフレンドはまだ保釈金を払えず、ライカーズアイランドにいた。何人もの囚人から、「外に出て戦わないと刑期が長くなるよ」と教わっていたので、私も彼も必死で知恵を絞った。彼は、友人、知人ひとりひとりに事情を話し、お金を貸してくれるようお願いすることを決意した。  ライカーズからは、決められた時間に外に電話をすることができた。それぞれの収容者にアカウントがあって、そこに外の人が入金すれば、そのお金でライカーズの中から

          見えない日常 #8 木戸孝子(写真家)

          法華経の風景 #11「本阿弥光悦ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵

          ヘッダー画像:光悦寺/光悦垣  雪を払いながら茶屋に入ると、女将さんが柔らかな京言葉で迎えてくれた。あいにくの天気で客は私たちしかいない。辛味大根のおろしそばを頼むと、曲線が美しい光悦垣に目が留まった。  書や漆工芸など様々な分野で革新的な作品を生み出し、琳派の祖と称される本阿弥光悦。光悦が好み、その名が付いた透かし垣は、割り竹を菱形に組み、頂部に竹の束をのせている。緩やかな曲線を描く頂部は、細く割った竹を節まで緻密に合わせていて一本の太い竹のよう。その様は、コラボレーシ

          法華経の風景 #11「本阿弥光悦ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵

          展覧会「初期鍋島と花鳥図屏風」東京黎明アートルーム/ 美術館ルポ・高橋伸城

          ヘッダー画像:狩野派「花鳥図屏風(右隻)」、16世紀 あっと驚く意外な組み合わせ  数日前に降った雪がまだ残っていた。庭先に咲いた椿の花が陽光に映える。  JR東中野駅の西口を出て、静かな住宅街を南に向かって歩いていく。5分あまりで右手に見えてきた茶色いタイル張りの建物が、東京黎明アートルームだ。  同館は2005年、「TOREK Art Room」の名称で美術品の展示をスタート。2015年10月、「東京黎明アートルーム」として改めて開館した。  これまで開催されてき

          展覧会「初期鍋島と花鳥図屏風」東京黎明アートルーム/ 美術館ルポ・高橋伸城

          寄稿「敦煌・莫高窟と人類の未来」東晋平

          樊錦詩と敦煌  2023年秋に開催された「2023 大阪・中国映画週間」で、『大いなる愛:敦煌』(原題『吾愛敦煌』)が上映された。日本での上映は10月27日11時からの一度だけだと知って、1本の映画を見るためだけに会場となったTOHO梅田シネマズまで足を運んだ。  この映画は、1998年から2015年まで敦煌研究院の第3代院長をつとめた樊錦詩(Fan Jinshi/現・名誉院長)の歩みを、俳優を使った劇映画として再現した作品。脚本と監督を手掛けたのは苗月(Miao Yue

          寄稿「敦煌・莫高窟と人類の未来」東晋平

          見えない日常 #7 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 6〉はこちら Chapter 7  保釈金を払って拘置所から出てきたーーというのは仮釈放の状態で、いろんな容疑が足し算されて、私とボーイフレンドには7年ほどの刑期になる罪状が付けられたままだった。  文化の違いに起因する誤解や言いがかりのようなものばかりで、思わず笑ってしまったものもあった。例えば、「子どもがTakakoのお尻の穴に指を突っ込んだ」と書かれているのだ。警察はたぶん、子どもにもいろいろと聞いたのだろう。そういう書き方をするといかにも卑

          見えない日常 #7 木戸孝子(写真家)

          傅益瑶著『水墨の詩』を刊行 「アジアと芸術叢書」第1弾

          (文・アジアと芸術digital編集部)  東京を拠点に、世界で活躍する画家・傅益瑶さんの日本初となる作品エッセー集『水墨の詩』を、この1月に刊行しました。本書は、弊社が新たに立ち上げたレーベル「アジアと芸術叢書」の第1作となります。  1979年に留学生として来日して以来、日本で画業を営みながら、アジアや欧米の各国で展覧会を開催してきた傅益瑶さん。本書では、日中の第一級の文化人らとの交流から、ライフワークである全国の寺社への襖絵・障壁画の奉納と「日本の祭り」シリーズの制

          傅益瑶著『水墨の詩』を刊行 「アジアと芸術叢書」第1弾

          見えない日常 #6 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter5〉はこちら Chapter6  拘置所から出てすぐに、世界がカラーになっていることに気がついた。それまで私は長い間、モノクロ写真を撮っていた。周りの景色を、意識しないまま、白から黒までのトーンで見ているほど経験を積んでいた。それが急に、全部カラフルになったのだ。目の前で起こる出来事が、ざわざわしながら視界にカラーで飛び込んで来て落ち着かない。  それだけじゃない。しばらくの間は、自分のするあらゆる行動が間違いじゃないかどうか怖くて、ビクビクしていた

          見えない日常 #6 木戸孝子(写真家)

          法華経の風景 #10「鑑真ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵

          ヘッダー画像:東大寺・大仏殿  東大寺の大仏殿は、とにかく大きい。だが、751年に創建(※1)された時、建物の正面の幅は現在の1.5倍にあたる約88メートルもあったとされる。  754年4月、大仏殿の前に臨時の戒壇が築かれ、鑑真による授戒が行われた。最初に「菩薩戒」を受けたのは聖武太上天皇、そのあとに光明皇太后と娘の孝謙天皇が続いた。「菩薩戒」は自己の悪を抑え、利他行(自己の善行の功徳によって他者を救済すること)に励む人が受ける大乗仏教の戒で、僧俗は問われなかった。  

          法華経の風景 #10「鑑真ゆかりの地」 宍戸清孝・菅井理恵