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NFTプロジェクトを行うに際しての法的留意点

最近話題になることの多いNFTについて、その仕組みおよびユースケースと、NFTプロジェクトを行うに際しての法的留意点(ステークホルダー間の関係の規律、知的財産権、レギュレーション等)をご紹介いたします。NFTについて法的観点から検討する際の手がかりとなれば幸いです。

1.はじめに

NFT やWeb3 という言葉が、新聞等のメディアでも日常的に取り上げられるようになり、世間の注目を集めています。AsiaWise では、日本およびアジアを中心とした海外でのNFT / Web3 分野での事業展開や投資を実施または検討されるクライアントに対して、弁護士と税理士および必要に応じて外国の弁護士等と連携した上でアドバイスを提供しております。本稿では、日本において特に関心が高いと思われるNFT に関して、特に実務上問題となる法的留意点について解説します。

2.NFTとは何か

NFT(Non-fungible Token:非代替性トークン)とは、発行数が単一であり、かつ分割ができない性質を持つトークンです。すなわち、同じ種類のトークンが1 枚しか発行されず、かつ、その1 枚を分割することもできない(例えば、0.5 トークンだけの譲渡はできない。)ということになります。
NFT はイーサリアム*¹上においては ERC721 と呼ばれる規格に従って実装されており、ERC721 の規格においては、各NFT が固有のID を持ち、NFT の固有のID は特定のアカウントのアドレスおよび特定のメタデータと紐づけられ、更に多くの NFT においてはメタデータに保存されたトークンURI を通じてブロックチェーン外に保存されたコンテンツのデータと紐づけられています*²。これを図示すると以下のようになります。


NFT の現在の用途として良く知られるのは、アート(画像、音楽、動画等)に紐づけられたものです。しかし、NFT は原理的にはどのようなものにも紐づけることができます。
例えば、ある学習プログラムを終えた者にNFT を発行して学習履歴の証明として使うことや、特定のコンテンツへのアクセス権やイベントへの参加権を特定のNFT の保有者のみに与えること(一種のユーティリティの付与)も行われています。

3.法的な留意点

NFT プロジェクトを行うに際して、法務リスクを軽減するための方策をとっておくことはプロジェクトの成功のために重要です。実際に摘発されるリスクがあるか否かも重要ですが、今後の資金調達や場合によってはM&A の際に、権利関係が不明確であったり、または法令違反のリスクがあることによって相手方が取引を躊躇する可能性があることにも留意が必要です。
法務リスク*³を軽減するための具体的な検討事項としては以下のものが挙げられます*⁴。

(1)関係者間の役割分担と権利関係

NFT プロジェクトを発展させるためには、開発者、企画者、クリエイター、編集者、マーケティング担当者、投資家など多くの関係者の協力が必要になります。
関係者間では、一般的に下記のような事項が問題となり得ます。

・発行会社としての法人設立*⁵
・協力者間の業務委託契約または共同事業契約(役割、費用、報酬等の取り決め)
・著作権は誰が保有するか
・二次流通から得られた利益*⁶の分配
・守秘義務や競業避止義務
・(該当する場合は)ファンド等からの出資に関する契約

これらについて、後の争いを防止するために、事前に法的な契約書という形でまとめることが適切です。ただし、スピード感が重要なNFT/Web3 の業界において、いかに無駄なく必要な事項を合意するかが重要になります。

(2)著作権その他の知的財産権

著作権その他の知的財産権に関して、一般的に、下記のような事項の検討が必要になります。

・発行主体が著作権等の知的財産(IP)を保有しているまたはNFT 化に必要なライセンスを受けているか
・NFT に使われるコンテンツは、第三者のIP を侵害していないか
・NFT の購入者その他に与えられるライセンスの内容またはライセンス付与の方法*⁷
-NFT を販売するマーケットプレイスの規約の検討

(3)発行するNFTが暗号資産または有価証券に該当しないか

NFT が純粋な一点ものである限りは、対価の弁済のために不特定の者にして用いることはできず、また1号暗号資産と呼ばれるBTC やETH 等のような決済手段等の経済的機能も有しないと考えられるため、資金決済法上の暗号資産には該当しないと考えられます。
もっとも、類似のNFT を多数発行するような場合には、個別のプロジェクトごとに慎重な判断が必要となります*⁸。
また、実質的にNFT の販売によってプロジェクトのための資金調達を行い、NFT 保有者に対してプロジェクトによって得られた利益を分配するような場合は、金融商品取引法に定める集団投資スキームに該当し、同法の有価証券に対する規制が適用される可能性があることにも留意が必要です。

[注]
*1 イーサリアム以外のブロックチェーンにおいてもNFTは発行されており、仕様の詳細が異なるものもありますが機能的にはほとんど同じであるため、本稿ではイーサリアムについてのみ説明します。

*2 これとは異なり、画像データを直接スマートコントラクト内のトークンURIに書き込むフルオンチェーンNFTと呼ばれる方法もあります。ただし、ブロックチェーン上にデータを書き込むコストが高いことから、少なくともイーサリアム上のフルオンチェーンNFTは、単純な絵柄の画像データを書き込む程度のものに制限されます。

*3 ここで述べる法務リスクだけでなく、課税関係の検討および会計処理方法の確認も重要ですが、本稿では割愛します。

*4 本稿で述べた他、特にいわゆる「ガチャ方式」を用いる場合で実質的に発行主体と購入者の間で賭博を行っていると評価できる場合がありうるという問題がありますが、本稿では割愛します。また、ビジネスモデルによっては、消費者保護法(景品表示法等)の検討や、NFTに付随するユーティリティの提供に関して利用規約の策定や各種規制の検討が必要となります。

*5 個人でプロジェクトを行う場合、万一、プロジェクトにより第三者に損害を発生させた場合は、個人が無限定(責任額の上限なし)の責任を負うことになります。また、個人としてでは、外部からの投資を受けることが困難な場合が多いです。したがって、最初は個人でNFTを発行している場合でも、関係者を巻きこんでプロジェクトを進める段階で法人設立を検討することが通常です。

*6 NFTマーケットプレイスの設定等によって、NFTが発行者から最初の購入者に販売されたとき以降のNFTの転売時にもNFTの発行者が一定のロイヤリティを得られる仕組みを導入することが可能であり、これが二次流通からの利益と呼ばれています。

*7 NFTの画像等の著作物に関して、購入者に対して個人的利用を超えて商業的利用まで認めるか、または購入者に限らずパブリックに対して一切の著作権による利益を放棄するCreative Commons 0 (CC0)まで採用するか等が典型的な検討事項となります。

*8 加えて、プロジェクトの内容次第では、前払式支払手段に該当するかの検討が必要になる場合もあります。


著者:谷昌幸
AsiaWise法律事務所 カウンセル
弁護士(日本)
<Career Summary>
司法修習終了後、西村あさひ法律事務所及びコーポレート法務のブティック法律事務所において、主にM&A、クロスボーダー法務の分野で研鑽を積んだあと、個人的に興味を持ってきたBlockchain/Web3やデータ/DX分野とクロスボーダー×法務の掛け合わせの分野で世界に貢献したいと考え、AsiaWise法律事務所に加入。
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