見出し画像

銭ゲバを見たズラ(ネタバレあり)

 大通りをバイクで走る。夏の日差しが照り付けて、視界の端で街路樹が流れていく。不意に頭の中にメロディーが流れる。この曲何だっけ?と思って記憶を探ると、それはかりゆし58のさよならだった。なぜ急にその歌が思い起こされたのかは分からない。懐かしいそのメロディーに乗せられて、私は口ずさむ。
 それから当時銭ゲバというドラマを毎週楽しみにしていたよなと思い出す。大分前、もう十年以上も前なのではないかと思える。どんな話だったか。朧げながらも大雑把には覚えているのは貧乏人の松山ケンイチが成り上がるということ。なんか人がいっぱい死んだような気がする。ラストシーンが印象的だった。松山ケンイチが視聴者に向かって語りかけるラスト。

 そんな訳で銭ゲバを見返してみた。やはり見ていると過去の記憶が思い起こされ、私は話の展開を予測することができた。こいつは殺して、こいつも死んで、こいつは自殺して……
 凄いダークな内容。世の中銭ズラ。松山ケンイチこと蒲郡風太郎はそう言う。だがこのドラマは世の中銭であると同時に世の中銭ではないということも表している。銭を手に入れても蒲郡風太郎は幸せになれなかった。そりゃ貧しい時は銭が全てだ。ほとんどの悩みは銭で解決できる。だが銭を手に入れた時、世の中のあらゆる事柄から解放された時に、銭は自分を満たしてはくれない。

 風太郎が定食屋の家族が金で変わるのを見て失望するが、そんなの当たり前だ。人間追い込まれたらそうなる、ならざるを得ない。

 ラストの理想とする人生みたいのは風太郎が本当にそう思っていたのかがよく分からない。彼は自分が間違っていなかったと言って死ぬ。それがお前らのお望みだろと言って死ぬ。ラストの語りかける彼がリアルで、それまでの理想とされる人生みたいなのは、俺がこういう人生が良かったと思って後悔しながら死んだら君達は満足だろということなのだろうか。そうっぽい。風太郎はただただ現実を受け止めて、静かに死んだのだろうか。どうやら世間一般的に幸せとされる人生を送ることにも、彼は興味がなかったのかもしれない。彼は人を愛さないと言った。いろいろなことで彼は麻痺している。銭があるだけの生活は幸せではなかった。でも世の中は銭だった。

 風太郎は度々悪夢に襲われていた。だけど死を決めた朝はすっきりと起きる。

 お父さん役の椎名桔平が凄くいい。飄々として、憎たらしくて、笑えて、いいキャラ。それからミムラが美しい。彼女は美しい。今は漢字表記らしいがミムラの方がなんかいいと思う。終わり。

閲覧ありがとうございます。サポートなんてして頂いた日にはサンバを踊ろうかと思います。