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10年代最高のドリームポップWild Nothingを布教したい

みなさんこんにちは。

00年代後半ぐらいからインディーロックの一大トレンドとしてのし上がり、今ではインディーロックといえばこれって言われるまでになったドリームポップとかいう音楽ジャンル。

このドリームポップというジャンルからは素晴らしいアーティストが数多く出てきたわけですが、じゃあその中で最高のアーティストは誰になるだろうか?

ブーム発足当初からシーンをリードしてきたBeach House, Deer Hunter, The Pains of Being Pure at Heartあたりか?シンセポップ的色合いの強いWashed Out, M83あたりか?ギターロックがベースのDIIV, Beach Fossils, Real Estateとかなのか?個人的にはどれも違うと思う。

じゃあ一体誰なのか?

正解はWild Nothingだ。

孤高のロックバンド Wild Nothing

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Wild Nothingはヴァージニア州の学園都市ブラックスバーグでバンド活動に明け暮れいていたジャックテイタムが、2009年に自身のソロプロジェクトとして始めたバンドだ。バンドという体ではあるがメンバーは実質テイタム一人だけなので、そういう意味では小山田圭吾のコーネリアスみたいな感じだと思ってもらえれば問題ない。

2009年にリリースしたEPがインディーズ界隈で話題を呼び、翌年リリースのデビューアルバム「Gemini」が高評価を得る。特に偏屈メディアとして名高いピッチフォークからは新人ながら10点満点中8.2点という高評価に加え、その週リリースされたアルバムの中で最も評価の高いアルバムのみに与えらえるベストニューミュージックの獲得、その年のベストアルバムでは49位という快進撃を見せた。

特にこの時期はピッチフォークを主導にドリームポップ自体がかなりもてはやされていたということもあり、Wild Nothingはドリームポップを索引する期待の若手という風に見られるようになる。

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ただWild Nothingの凄い所はここから。「Gemini」ではベッドルームポッパーだった彼は、やがてベッドルームを飛び出しより広いサウンドスケープを手に入れ、今ではドリームポップという枠を飛び越えメロディメイカーとして卓越した才能を見せるようになりました。

今回の記事では現時点までにリリースされている4枚のオリジナルアルバムを中心にそのキャリアを見ていこうと思います。

1st Gemini

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デビューアルバムにしてWild Nothing及びジャックテイタムの名を世界中のインディーロック好きに知らしめた一枚。

サウンド自体は王道のドリームポップにして、ベッドルームポップ特有の埃っぽい感じがある。特にドラムなどは打ち込みなことに加え、ギターのジャングリー感(ドリームポップの中でもクリーンなギターサウンドでジャカジャカやってる感じのサウンドは、自分の見解が正しければ海外ではジャングリーと呼ぶ)などが他のアルバムと比べて際立っているのもベッドルームポップぽさを想起させている要因だろう。

そのため楽曲自体は後期の楽曲と比べるとより荒削りかつシンプルなものが多いものの、逆にそのローファイさがインディーオタク心をそそらせたため、10年代ドリームポップを代表する歴史的名盤という立ち位置を築き上げたといった感じはある。

ジョニーマーあたりからの影響が伺えるギターワークとても良きで、上記のローファイなサウンドと絡むことで、まるで雲の中を行き来するような幻想的なサウンドを楽しむことができます。

このアルバムからは何と言っても「Summer Holiday」と「Chinatown」の2曲の存在がかなり大きい。前者はデビュー曲にしてシューゲイザーチックなストロークが印象的な一曲、対して後者はシンセや角ばったドラムサウンドなど後のキャリアへ通ずるような一曲。両者ともにドリームポップを代表する名曲として語られることが多く、ドリームポップ系統のプレイリストなんかでも高確率で入っていることが多い。


2nd Nocturne

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前作「Gemini」で期待の新星としてドリームポップ界隈で一躍注目を浴びることとなったWild Nothingは、2年の歳月を経て発表された新たなアルバムにおいて更なる進化を遂げることになった。

それが最高傑作と名高い2作目「Nocturne」だ。このアルバムはピッチフォークから10点満点中8.3点とベストニューミュージック獲得という快挙はもちろんのこと、ビルボードのNew Artist & Alternative New Artistチャートという聞いたこともないような謎のチャートでも1位を獲得。

前作では打ち込み主体のベッドルームポップ的なサウンドから一転し、今作は生演奏重視となったことでよりサウンドは明瞭なものになった。そうすることで前作で見られた幻想的な世界観が失われたかというとそうではなく、逆に明瞭なエコーや分厚さといったところで美しさに磨きがかかったサウンドが特徴とった。

前作が雲の中を行き来するようなアルバムだとしたら、今作は空全体を駆け巡るような幻想旅行的な趣のある作風だといえるだろう。各楽器のバランスコントロールの塩梅さが非常に絶妙な上に、ジャックテイタムが持つポップミュージックへの情景、特に80年代のUKインディーロックへのあこがれが上手く昇華されたことで、それがよりメロディメイカーとしての才能に拍車をかけた感じはあります。

ストリングスを導入した1曲目「Shadow」でリスナーをその内面世界に没入させることで始まるこの幻想旅行は、「Midnight Song」、「Through the Grass」といった浮遊感のある楽曲でより摩訶不思議な世界へといざなう。「Only Heathe」、「Disappear Always」といったインディーロックライクな楽曲もあれば、「Counting Days」、「Rheya」のようなシンセポップもあり、「Paradise」といった稀代の名曲も飛び出してくる。

残念なことにこのアルバムはどういうわけかサブスクに搭載されていない。しかし非公式ではあるもののYouTubeにアルバム音源が投稿されており、そちらはインディーロックのアルバムながら1065万再生という驚異的な数字を残している。ドリームポップのみならず10年代インディーロックの金字塔として後世にまで伝えたい名盤の一つ。


3rd Life of Pause

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「Gemini」、「Nocturne」と連続して傑作を発表したことでドリームポップの中心人物として位置づけられるようになったWild Nothing。しかし「Nocturne」リリース後に事件が起きる。

2013年発表のEP「Empty Estate」がリリースされるのですが、これがいかんせん問題作すぎた。特にバンドの代名詞ともいえる幻想的なサウンドは後退し、よりアグレッシブなサウンドへとシフト。特に先行曲としてリリースされた「A Dancing Shell」ではゴリゴリのシンセファンクを展開しており、いままで好意的なレビューが多かったピッチフォークが本作に懐疑的なレビューを残してしまうほどだ。(これ以降ピッチフォークはWild Nothingに対して辛口評価を下す傾向に走る)

とはいえテイタム本人は「Empty Estate」に対してかなり好印象を抱いており、なんなら「Nocturne」は不満しかなかったとまで発言をするようになる。この時点でテイタムはドリームポップという枠から、よりメロディメイカーとしての資質を伸ばそうとしていたのかもしれない。

そしてオリジナルアルバムとしては4年ぶりという長い期間を経て発表された3作目「Life of Pause」ではどこか影のある作風ながらも、ソングライティング面での成長をうかがえる一枚となった。

世界中から絶賛された「Nocturne」からの呪縛と苦悩からか、脱「Nocturne」を念頭に作られた今作は、モータウンサウンドなどのソウルミュージックを大胆に取り入れた艶っぽいサウンドが特徴だ。それに加えて彼の持ち味の一つだったシンセポップなところは、よりWashed Outなどのポストチルウェイブっぽくアップデートされており、最早ドリームポップという枠には収まりきらないフェーズにまで進化していた。

そしてこれまたうざいことにこのアルバムもサブスクに搭載されていない。そしてYouTubeには普通に非公式で全曲投稿されているというUSインディーロック界隈の闇。アルバムで聴いてほしいのはもちろんなんだけど、そんな時間ねーよって人にはとりあえず「Whenever I」という曲だけ聴いてほしい。今作の特徴を最も表している名バラードであり、ジャックテイタムによる美メロを存分に堪能できる一曲だ。


4th INDIGO

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前作でドリームポップからへの脱却ともいえる動きを見せていたWild Nothingではあるが、その後家の外にプライベートスタジオが設置されよりクリエイティビティに重きを置いた活動が出来たらしい。

そんなこともあって難産となった前作と比べ、比較的早いスパンでリリースされた4作目「INDIGO」は原点回帰に近いアプローチがなされながらも、前作で本格的に花開いたメロディメイカーとしての才能が上手く発揮された良質なポップアルバムとなった。

先行曲でリリースされた「Letting Go」ではグッドメロディはさることながら、冒頭のジャングリーなギターが奏でるイントロが初期のバンドを彷彿とさせ、早くもバンドにとっての新たなキラーチューンとなった。

エバーグリーンな透明感のあるサウンドは、ジャックテイタムが紡ぐ美しいメロディと抜群に相性がいい。「Shallow Water」なんかは「Nocturne」で見せた明瞭かつ幻想的な世界観を、今のWild Nothingが鳴らしてみたって感じの懐かしいようで新しい一面を聴かせてくれる。個人的には「Through Windows」の清々しいまでにポップな感じもたまらない。

そしてWild Nothing流シンセポップの完成形ともいえる楽曲がこのアルバムで生まれることとなる。「Partners In Motion」だ。まんま〇ashed Outじゃねーかって声はとりあえず無視して、こう聴くと「Empty Estate」とかで見られたシンセファンクっぽい感じなんかもあって、アーティストとしてしっかり成長しているんだなと感じられる。


総括

今年の頭には久々のEP「Laughing Gas」もリリースしたWild Nothing。アルバムを出すたびにメロディメイカーとして着実に成長している彼の今後が楽しみである。

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