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”もの”と”こころ”の架け橋とは

こんにちは!セントラルユニの西尾です。
今回は情報と医療環境という視点で、研究開発をしている本田学先生のお話です。昨年のクリティカルケア学会での講演内容から、
”情報医学の視点から考える病室環境”についてお伝えいたします。

病室の環境と音=情報、ユマニチュードがどう関係してくるのか?そもそもなぜ、情報に注目して研究をされているのか?アカデミックな内容ですが、紐解いていくと、「なるほど!」と全てが繋がり納得感が深まりました。

本田先生は”情報医学の視点から考える病室環境”というテーマを3つに分けてお話されました。

  1. 情報という名の「環境」

  2. 情報環境から健康を考える

  3. 病室環境への情報医学からのアプローチ

今回は1.情報という名の「環境」について紹介させていただきます。

ものとこころの架け橋


情報という名の「環境」

まずは、私たちにとっての環境について分解しています。

表のように、
あってはならないもの
なくてはならないもの
人間の適応できる可能性に分けて考えると、

物質とエネルギー環境については研究が進んでいるが、情報環境についての必須な条件についてはほとんど検証が進んでいなかったのです。

この問題意識は「筑波病」という現象をきっかけに、1986 年ごろから急速に注目を集めました。

「筑波病」
筑波研究学園都市に大学や企業の研究施設を集約し、研究者にとって人工的に計画された理想的な環境をであったにも関わらず、研究者の自殺が相次いだ現象で、自殺率は当時の全国平均の倍以上となった現象。

この現象を通して、 人間の脳にとっての健康を考える際には物質とエネルギー以外の問題、「情報」を考える必要があるという議論が出てきました。

心はどこにあるのか?

私が文章を書いているこの瞬間も、脳では無数の神経細胞のつなぎ目にある化学反応によって、心や感情を生み出し考えています。

つまり、心の動きというのは物質の現象であるとも言えると先生はおっしゃっていました。脳の中では化学反応と情報処理は表裏一体で、物質と情報は等価性をもつと。

わかりやすいケースが、薬が効いていないにも関わらず暗示によって効果があったような気がしたり、良い結果が得られたりするプラセボ効果です。
結論から言うと、情報を与えることによって引き起こされるプラセボ効果は、気のせいではなく、物質的なモルヒネを投与した場合と同じ効果を持つ
という実験で実証されているそうです。

痛みに効く全く同じ薬をAさんには痛みに効く暗示、Bさんには効かない暗示で薬を塗ります。二人に同じ痛み刺激をあたえると、
 
・暗示にかけられているAさんは痛みスコア40%
・暗示にかけられていないBさんは痛みスコア60%
 
と暗示にかけられている方が痛みが少ないと感じました。これは典型的なプラセボ効果だが、痛みの評価をするときに、痛みを感じなくなる神経をブロックする薬を入れた状態で評価するとAさんのプラセボ効果が効かなくなってしまったのです。

プラセボ効果の実証実験

この実験は、暗示という情報が痛みを軽減させる効果があると言える。という実証となったそうです。

脳は情報がなくなると健全に働かなくなる

逆に、情報の遮断が、異常を引き起こすこともわかっています。

例えば、霊長類の子どもを家族から隔離したところ、自閉症や統合失調症に似た状態を呈したり、1960 年代に行われた感覚遮断実験では、健康な被験者を、音や光が一切入らない、体と同じ温度・比重を持つ液体に入れ皮膚からの刺激もほとんど与えず、呼吸だけできる状態にしたところ数分で幻覚・幻聴が生じ、40分程度で錯乱状態になったりしたそうです。

こちらは、私たちの脳は情報がなくなると健全に働かなくなるということがわかる実証でした。
 
こういった実験を重ねる中で、人間にとっての良い環境を考えるときに、物質とエネルギーだけでは不十分であり、情報という概念も含めて、考える必要があるのではないかという考え方が生まれ、1989 年に大橋力氏によって情報環境学として提唱されるようになったのです。
 
今回はここまで。

本田先生は、講演の中で『ものとこころの架け橋』という言葉を使っていました。情報は心を司る脳にとって必須で、健やかな生活を送るための環境を考える時に、なくてなならない要素のひとつだということが、実験の歴史を知ることで納得ができました。
 
次回は、その大切な情報と健康についてのお話をします。
 
本田先生についてはこちら >>https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r7/member/honda_manabu.html

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