らしさ

思い返せば、中学生くらいから朝ごはんのメニューはだいたいおなじだった。
ご飯、味噌汁、目玉焼き、ベーコンorウインナー、サラダ、時々ししゃも
日曜の朝はたまに康隆がナポリタンをつくる。

その流れを汲んで、今日の朝はししゃもを食べた。
(ここで言うししゃもはカラフトシシャモ)

朝ごはんをたべて、授業をうけて、今日はそのあと派遣のバイトに登録にいく予定があった。

一生に一度しかない2020年11月12日は今のところ何も起きてない。そう分かりつつ、何か面白いことがあるだろうと思いながら新宿の登録会場に向かった。
(ギリギリの時間で)

登録会はビルのフロアで、ブラインドで仕切られた半個室で行われた。(書き慣れてる)履歴書を書いて、(聞かれ慣れてる)様々な要望や条件をはなして、結局はネットで登録するだけのものであった。
その間、隣から騒がしい声が聞こえた。
隣は、こちらとは違い広場のような空間に机が四つ置かれて口頭でテストを受ける2人と正解を言う2人がそれぞれ一つずつの机に座っていた。半個室なので、扉もなくブラインドの下から声が丸聞こえだった。
必死に聞き耳を立ててると、「プリペイドカードってなに?」「5Gっていつからだっけ?」と声が聞こえる。おそらく、新しく入った社員に知っておくべき一般常識をテストしていた。
「先輩むずいっすわー!」
「いやでも、これもあるかなって思ったんすよ!」
とかなりの声量で話してる声が聞こえていた。
こんなに大きな声で話すタイプのやつは何か口を滑らせるのでは?
もしかしたら、
何かやましい話がわかるのでは?!!
はたまた、
人材派遣会社の闇が分かるのでは?!!
いや、
もはや教えてくれ!!
でないと今日の1番期待していた収穫は何もない!

そんな思いに駆られ、派遣会社の仕事内容に生返事をして全神経を隣に向けた。

しかし時間は無常に過ぎていく。
隣は特に何も特段気になる話が出ない。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
気づけば、派遣業務の仕事説明も済み、登録会も終わってしまった。

なんてこった。
頼みの綱が終わっちった。
隣の人も声がデカくてたつや(警官)みたいだったしかない。
派遣の説明してくれた人も時々タメ口使ってくるくらいしかない。弱い。話が弱すぎる。

このままでは何もないと焦り、新宿駅東南口に佇んでいた。
何かないか、何かないか、何かないか。
ナンパするか?
人に話しかけるか?
そんな度胸はない。どうしよ、どうしよ。

「お兄さん何してるの?」
突然話しかけられた。スカウトのお兄さん(22?)だ。

「待ち合わせです。」
何か起こさなきゃと田舎モンが同居して、こういう時に言う嘘ランキング第一位を口走った。

「これから何するの?」

「飲みです。」

「お酒好きなの?」

「あんまり飲まないです。」

「ホストとかって興味ないですか?」

「いえ、あ、はい、」

「もし興味あったら声かけてください。ホストのスカウトでした。」スタスタ

しまった。きょどって何もできてない。何も起こしてない。ああ、もうどうしよ、、
「お兄さん何してるんですか?」
間髪入れずまた新たなキャッチ(21?)が話しかけてきた。
「待ち合わせです。」
「これから何するんですか?よかったら飲みません?」
「人と飲みです。」
「何時くらいまで飲みます?」
「うーん、、、、22時とかですかね。」
「あんまりお酒は飲まないですか?」
「そうですね。」
「お兄さん、(じーー👀)21とかハタチに見えますけどいくつですか?」
「17です。」
「え!さっき飲みいくって!あ、こっそり?」
「はい。」
「そすか、気をつけてくださいね」スタスタ

やっちまった。キョドッた。体験入店したいとか、ぼったくらないなら一緒に飲みたいですって言えばよかった。
どうしよ、この後はネットで説明会。このままだとヤバイ。

そう思いながら、ひとまず最寄りまで移動してドトールで説明会をZOOMで聞いた。(参加者2人)
ドトールでは、コーヒーを飲み干した後あいたカップに持参の伊右衛門を入れて飲むおばさんや、パンクバンドな見た目なのに高くて大きな声でお手本のような接客するバイトリーダースタッフ(10回中10回は居る)がいたくらいだった。

ドトールで説明会を聞き終わり、充電も切れそうなので帰ることに。
ヤバイ、ドトールから家までしかない。
轢かれるか?それは痛い。靴の先っぽだけ轢かれるかとかないか?
赤信号で気持ち程度に左足(利き足は怖い)を前にだしたが何も起こらなかった。

一歩、また一歩、家に近づいていく。(本当は自転車)
ヤバイ、どうしよ。本当に終わる。

あ!!!

そのとき、いつも気になっていた喫茶店を見つけた!

この喫茶店は入り口にSNS投稿禁止、写真禁止とトガッた張り紙がされていて(でもお店の名前はぐるぐる)少し怖いけど見た目は可愛らしくて気になっていた。

ここに入ろう。
そして、写真がダメな理由を聞こう。
そう誓ってお店に入った。

お店はイケてるお兄さんとお姉さん(下北よりは三茶ぽい)2人で切り盛りしていた。
店内はレトロ感漂いつつも、漫画が置いてあったり、テレビもあって、モノが多すぎるわけでもなく、増えてく途中な感じがした。

頼んだのはナポリタン。
康隆のナポリタンばかり食べてきたので、他人のナポリタンに少しワクワクした。(残り1個だった)

本棚をよく見ると、岡崎京子の本が何冊かあったので手に取ってみた。(リバースエッジから入ったど新規)
岡崎京子の漫画に出てくる女性はみんな自分の感性や価値観がしっかりあってとても引き込まれる。なんでか分かんないけど、漫画も一巻完結してるし、映画を見たような気分になる。(ヘルタースケルターでもなく、リバースエッジから入ったど新規)

岡崎京子のpinkという漫画を読みながらそんなことを思ってると、ナポリタンが来た。
ナポリタンにはコーンが入っていた。康隆のしか知らない僕にとってコーンははじめましてで食べてみたら案外甘くてこーんなに合うんだ!と感動した。(コーンだけに)
ナポリタンを食べ終え、セットのコーヒーを飲み、岡崎京子の漫画も読みおえ、些細な幸せを感じていた。

しかし、なにも起きてない。
そう、なにもオチがない。今日1日のオチがない。
というか、フリもない。ふってすらない。

もうここのお店の人と少しでも話して、何かしら起きるのを期待しよう。
そう胸に決めて、お会計に行った。
「お会計が¥900になります。」
「これで(千円札)」
「お返しです。ありがとうございました。」

ここで聞かねば、聞かねば、聞くんだ俺!

「、、あの、なんで写真ダメなんですか?」

「写真撮ると、シャッター音出るじゃないですか。うち、狭いからシャッター音響いちゃって、、。もっとお店の雰囲気を大切にしたいんですよね。」
そういうとお姉さんははにかんだ笑顔を向けてくれた。

今日一日、何か起こさなきゃと考えて生きていたけどそんな事件よりも、お店の雰囲気や街の空気感を感じるだけの日があってもいいかもしれない。

お姉さんの言葉はそう思わせてくれて、なにも起きてない2020年11月12日のことも受け入れれるような気がした。

(といい話風にまとめたけど、得意技の「ダラダラと中身のないことを喋る」を発動させただけなのでした。)

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