失言クイーンとウクライナへ旅するカエル

会社にやたらと失言の多い同僚がいる。
悪気はないようなのだがデリカシーがない。本気にしろ冗談にしろ。

バーンアウトで病欠していた同僚に「バカンスどうだった?」とか。
社長の娘(本人はきちんと仕事をしているし癒着は全くない)に「社長の娘の権限で会社で好きにできて良いよね!」とか。
子供のいない私に「私にとっての娘と貴方にとっての犬は同じだね!」とか。
相手が微妙な表情をするとすぐにハッとして「そういうつもりじゃなくて!」とか言って謝る。
そう、悪い人ではない。なんなら朗らかで良い人だし、仕事もよくできる。
ただひたすらにデリカシーがなく失言が多いだけで。

欧米人、特にフランス人はものをハッキリ言うイメージがあるかもしれないが、意外と繊細に気を遣う人もすごく多いし、自分の意見を言う文化だからと言って好き放題言っていいわけではない。

さて、今日。

私の部下のウクライナ人が、来週からウクライナに一時帰国するという。戦争直前に亡くなったお祖母様の相続の書類が色々あるとか、キエフにいるお父様に会いに行くとか。もちろん有休は許可したが、危険な長旅だ。
真面目でしっかり者の彼女のことが気がかりで、日本の風習だけども…とウクライナに無事カエル、その後フランスにまた無事カエル、と祈りを込めてカエルのぬいぐるみをプレゼントすることに決めた。もちろん、カエルのプレゼントの意味を説明する手紙も添えて。

オフィスで「来週ウクライナ出発だしね、その前にプレゼントだよ!」と言って手紙とぬいぐるみを渡した。
同じ部屋にいた失言の多い同僚、ウクライナ人の彼女がお礼を言う前にすかさず一言!

「もう二度と会えないかもしれないから、お別れのプレゼント?」

おい!!!!!!!!

ブラックジョークにしても酷すぎる。一瞬の静寂の後皆で笑い飛ばして済んだし、色々と言い訳もしていたけれど、、オフィスの失言クイーンの冠は間違いなく彼女のものだ。私は今日そう確信した。

因みに、手紙を読んで私の説明を聞いたウクライナ人の彼女は大層感激し、荷物も多いであろうにカエルもキエフまで連れていってくれるとのこと。
ウクライナ語では、たくさん旅をする人のことを「旅するカエル」と呼ぶのだと教えてくれた。なんたる偶然。
旅するカエルよ、彼女と彼女と共に旅をする皆を守ってくれたまえ。
この善良な人達に一刻も早く平和が訪れるように願わずにはいられない。

フランスの某雪国で夫と二人暮らし。毎日こつこつ生きていけたら良いけど。旅行、アート、料理、ロック、漫画などが好き。