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小中学生が世界自然遺産「知床」で流氷に入って遊び、野生動物を探してきた!

専門的な知識は、ともすると説明されても頭に入らないもの。

たとえば、知床が世界自然遺産に登録された理由は「生態系」と「生物多様性」。

でも、不思議ではありませんか?北海道の東の果てとはいえ、日本の一地域です。たとえば「なぜ知床だけが、そんなにも自然豊かなんですか?」と質問されたとして、あなたは回答できますか?

安心してください、普通はわからないと思います。私(よりかね隊長)も、知床に通うようになるまでは、まったく答えられませんでしたから!

では、プログラムに参加した小中学生たちに聞いてみましょう。

実際、空港での解散時に少しコミュニケーションしたのですが、

「流氷がアイスアルジー(植物プランクトン)を運んでくるから」
「それを動物プランクトンが食べて、さらに魚が食べて」
「魚をヒグマやオオワシが食べる」

と、流氷が食物連鎖の起点になっている事実を、口々に回答してくれました。

さぞ熱心に教え込んだんだろうと思うかもしれませんが、子どもたちは「ピッキオ知床」のガイドさんから一度か二度、聞いただけ。

それでも記憶に深く刻まれているのは、そこに圧倒的な実感をともなう体験があったからです。教室での授業ではこうはいきません!


1日目

北海道・女満別空港に集合

「世界自然遺産・知床|流氷ウォーキング&野生動物探し」プログラムは、北海道・女満別空港に集合です(全国から参加できます)。

2024年開催は、8人全員が首都圏からの参加で、うち7人が同じAIR DO機利用でしたので、このメンバーは羽田空港で集合してから向かいました。

スタッフと一緒でなくとも、各航空会社は子供のみ搭乗サービスを提供しているので、心配はいらないですね。

流氷に覆われた海は、波の音が一切しない静寂の中にある!

女満別空港からは、チャーターしてある大型タクシーに乗り換えて、知床の世界自然遺産構成地域の玄関口である、ウトロに向かいます。

しばらく走ると、広大な雪原!?と思いきや、これがオホーツク海です。流氷にびっしりと覆われており、海だというのに何の音もせず、静寂に支配されています。

グリーンシーズンの野生動物探しにも参加している子は、たくさんの魚を釣った海が一変していて、驚いたはず。音が一切しない海は、大人から見ても強烈なインパクトがあります。

学校を休まなければならない日程となっている流氷事情

宿泊拠点の民宿の部屋の窓からも、すぐ目の前に流氷が見えます。

網走などオホーツク海沿岸から知床半島にかけては、流氷の地球上での南限と言われます。

海水は、塩分と膨大な体積のせいで凍結しにくいわけですが、ロシア・アムール川の河口付近を中心に、川の水で薄められた表層で氷ができやすくなっており、北から西寄りの風にのって、はるばる北海道まで流れ着きます(北海道沖でできる氷もあるそうです)。

言うなれば「ギリギリ」届いている流氷は、2月から3月上旬にかけてがピーク。学校が春休みになる頃には、もう知床周辺には青々とした海が広がっているケースが多く、流氷で遊ぶことができません。

「世界自然遺産・知床|流氷ウォーキング&野生動物探し」は2月末から3月上旬にかけて実施していますが、学校を休まなければならない日程となっているのはこのためです(とはいえ、大抵の学校では、期末テストが終わっている時期であるはずです!)。

2日目

午前:流氷の海に落ちると数分で死にます。でもドライスーツ着用で楽しい!

天候や海氷の状況に左右されやすいため、2日目はさっそく流氷ウォーキングからチャレンジしていきます。

流氷の上に行く前に、これから遊びに行く海を一望しに行きました。2024年は流氷の当たり年だったそうですが、見渡す限り、水平線の彼方までびっしり流氷に覆われており、圧巻の景色でした。

毎年、子どもたちの興味・関心に全力で応えてくれる「ピッキオ知床」にガイドを依頼しています。

事務所に寄って、ドライスーツを着用します。これを着ることで、氷点下の気温でも、落ちたら数分で死ぬと言われる極寒の海に入っても、ぜんぜん寒くありません。

首まわりなどが窮屈で、着用するのも一苦労なのが少し難点なのですが、ワクワク感が勝ります。

本当に危険なため、ドライスーツ未着用&ガイドなしで流氷の上を歩こうとするのはNGです。

始めはおっかなびっくりでしたが、すぐに慣れて、流氷の上を思い思いに散策します。

氷に茶色く見える部分がありますが、泥ではなく、これがアイスアルジー。知床半島周辺の海に、豊富な植物プランクトンをもたらしてくれる源です。

流氷が来なければ、知床は世界自然遺産に登録されなかったかもしれない、と言われるほど、重要なものです。

流氷の割れ目を見つけて、あるいは氷が薄いところを踏み割って、海の中に入ることができます。満面の笑みを見ればわかるとおり、この非日常の遊びが、最高に楽しい!

ドライスーツが冷たい水を完璧に遮断してくれて、さらにアクティブに遊び回るので、本当にぜんぜん寒くありません。

箱メガネで覗き込んで、海中の生き物を探します。運が良ければクリオネが見つかることも。

実は流氷の海は、なめてみるとほとんど塩辛くありません。塩分の薄いところから凍結して氷になるので、流氷そのものは真水に近いからです。

塩分濃度の濃い海水は比重が大きいため下層に沈み、流氷から溶け出した真水に近い水が上層に溜まります。クリオネは基本、塩分濃度の濃い下層(深いところ)にいるので、なかなか見つけにくいのだそうです。

ちなみに流氷下の海中は、どんな感じなのか? 動画でチェックできます。気になる方はぜひ見てくださいね。

流氷についての知識面のインプットは、ドライスーツ着用時に事務所内でスライドを使って行いますが、もちろんそれで終わりではありません!

夢中で遊んでいる中で、ポイントポイントで「これさっき話したよね。なんだっけ?そうアイスアルジー」など、問いかけやクイズ形式をベースに、実体験に落とし込んでいきます。

なにより、asobi基地ユニバーシティの子どもたちからは、次々と質問が飛びます。子どもたちそれぞれの興味を持つ力もそうですし、気軽に質問できる空気を作ってくれている、「ピッキオ知床」とガイドのケケ(竹下さん)のおかげでもあります。

大人の都合で押し付けられた知識は身につかないですが、自分で興味を持ったことであれば、ものすごい速さで吸収していくのが人間ですからね。

午後:大人よりも巨大!絶滅危惧種の大型猛禽類オオワシ・オジロワシを探しに行く

午後は車に乗って、野生動物探しに出かけます。みんなで双眼鏡で何を見ているかというと……

道路脇すぐの崖の上に、オジロワシがいました。写真だと遠いので、その大きさがピンとこないですよね。

実はこのすぐ後、このオジロワシは飛び立ち、私たちの真上を通って海に向かっていったのですが、大人も子どもも「でかい!」「すごい」という感動の声が自然と漏れました。

それもそのはず、環境省のホームページでは、オジロワシは翼を広げると200~245cm、オオワシは220~250cmと説明されています。

つまり、こういうこと。

大人よりもはるかに大きい!!

よこはま動物園ズーラシアで撮影したオオワシ。格好いい
手づくり模型でオオワシの大きさを実感

こんな巨大生物が、何時間も探し回ってやっと見つかるんじゃなく、車でちょっと走っただけで「あそこにいた」「ここにいた」と当たり前のように見つかるのが、世界自然遺産・知床の特長であり、すごさです。

子どもたちが夢中になっていますが、エゾシカも10頭20頭とたくさん見られます。この日は、雪の森の中で休む、キタキツネも見ることができました。

春になれば世界有数の生息密度を誇るヒグマが冬眠から目覚めてきますし、海にはクジラやイルカ類ももちろんいます。これら大型哺乳類に出会える環境は、日本の世界自然遺産の中でも、知床が群を抜いています。

3日目

一晩の南風で流氷が激減!

3日目は、スノーシューをはいて、雪に覆われた原生林に入るのですが、その前にこちらの写真をご覧ください。

流氷がごっそりない!

24時間前の同じ場所の写真はこちら。

びっくりですよね。実は南風が強く吹いて、流氷が沖合に流されてしまったんです。

流氷ウォーキングをすると実感しますが、流氷の上を歩いてもビクともしませんし、分厚い氷はとんでもない重さがあります。風だけでこんなにも流氷が動くのかと、信じられません。

流氷ウォーキングがコンディションに左右されやすい、というのはこういうことで、できるときにやっておかなくちゃいけないんですね。広い氷上で遊べて良かった!

雪の原生林スノーハイクで、人生でもう二度と拝めないかもしれない絶景に出会う

ということで、雪の原生林での野生動物探しです。

実はこの日の朝まで大雪が降っており、森に入る頃にはカラッと晴れて快晴。フレッシュなパウダースノーを思い切り楽しめる、これ以上ないコンディションになりました。

好きなだけ歩き回って、好きなだけ寝転ぶ。まっさらな雪原のキャンバスに、自由に踏み跡をつけられる快感。もう最高です。

森の中も、もちろんふかふかの雪がたっぷり。風が吹くと木々に付着していた雪が舞うのですが、太陽の光に反射して、本当にきれいです。

距離的にはそこそこ歩きますし、スノーシューでの散策は普通に歩くよりももちろん疲れます。

それでも、子どもたちから「疲れた」という声は出てきませんでした。それくらい様々なものに心奪われ、夢中になっていたということです。

そして行き着く先は、流氷に覆われたオホーツク海の絶景が見られる、断崖ポイント。

そして……

このとんでもない景色を見てください!

左手後方は、流氷が浮かぶオホーツク海。そして正面後方は、知床連山(いちばん右の最も高いピークが、有名な羅臼岳です)。

知床連山は、南北を海に挟まれている立地のため、海の湿った空気が駆け上がって雲ができることが多く、すっきりと見渡せることはそれほど多くありません。

それだけでも貴重なのに、海には流氷、そして歩いてきた雪原に足跡をつけてきたのは、自分たちだけ!こんな経験、何度も知床に通っても、なかなかできることじゃありません。

北海道から沖縄まで、年間100日近くアウトドアフィールドに出ている私・よりかね隊長ですが、

(あ、これはもしかしたら、死ぬまでにもう拝めない景色かもしれない)

そんなふうに直感したほどです。

そしてこれで終わらないのが世界自然遺産・知床。

そう、もう一つの目的は野生動物探しです。”すぐそこ” にエゾシカが現れ、間近で観察することができました。

サファリパークかと思ってしまいますが、これが世界自然遺産・知床の「通常」です。

番外編:雪と氷のナイトツアー(夜の探検)

知床の専門ガイドがつかない、asobi基地ユニバーシティのオリジナル企画です。

雪と氷におおわれた極寒の(2024年訪問時は、最低気温が−12度くらいだったようです)夜のウトロの町や、世界自然遺産構成エリアを散策します。

もちろんasobi基地ユニバーシティ式なので、大人が連れ回すわけじゃありません。子どもたちに「どこに行ってみたい?」と聞いて、予定の一切ない夜の探検に出かけます(終わりの時間だけ決めています)。

2023年夏プログラムで知床に来ていた子もいるので、まずはそのときに釣りをして大漁だったウトロ漁港へ。

2023年8月のウトロ漁港

真冬の夜に行くと、こうなっていました。

海面には流氷があるので「落ちたら死ぬ」という事実を子どもたちと確認のうえで散策。足元は凍っていて滑るわ、突風が吹いて身体がもっていかれるわ、怖いのなんの!(でも、きちんと怖がっていれば事故は起きません。油断しているときが危ない)

特に夏に釣りをした堤防の先は、吹き溜まりのようになっていて特に風が強く、体感温度がグンとさがり、おまけに雪とも氷ともつかない粒が顔にぶち当たり、痛い!1分と持たずに退散となりました😂

次は、車で少し走って、ウトロの町から、世界自然遺産構成エリアに入ります。知床自然センターの駐車場に車を駐め、自由に散策開始。

子どもたちはなかなか帰ろうとしないんじゃないかな?とも思っていましたが……意外とビビってあまり遠くに行きません😂

それもそのはず、ところどころ外灯はあるものの、少し外れれば夜の闇です。街中ではこういう「真っ暗」に出会う機会はなかなかないですからね。

もちろん寒さもあります。中には、パジャマの上にジャージを羽織っただけで来た子も😆

ふつうなら「なんでそんな格好で来たの!」と怒られそうですが、asobi基地ユニバーシティでは「やってみてわかることもあるよね」のスタンス。苦笑しながらも「寒くなったら自分で車のなかに避難してね〜」で終わりです。

(はい、もちろん他の子の半分の時間で寒くなり、車の中に戻っていました!)

大自然の奇跡「食物連鎖」を丸ごと体験できる秋・冬2回連続プログラムへ

2023年夏の知床プログラムに参加して、さらに2024年冬の知床プログラムにも来てくれた子がいます。

実は、夏プログラムでは、夏休み自由研究を作成して発表会までやっているのですが、その子は夏の時点では自由研究づくりにあまり身が入らず、消化不良な感じがありました。

私たちも無理にやらせようとはしないため、本人の興味・関心の向き具合に大きく左右されるんです。

ところが、2024年冬の流氷ウォーキング&野生動物探しに参加したあとは、様子が違っていました。学校の課題で、親はノータッチだったにもかかわらず、自分で知床のレポートを作成したそうです。

レポートを見せてもらいましたが、グリーンシーズンと冬の違い、世界自然遺産登録の理由&流氷の重要性、体験から得られた実感・感想などがよくまとめられていて、夏の自由研究とは明らかに違っていました。

(自由研究発表会では、投票で、いちばん好きだった研究を大賞に選び、賞状とトロフィーを進呈しているのですが、これなら大賞もとれたかもしれません!)

流氷こそがたくさんの野生動物を支えている

出典:日本の世界自然遺産 - 環境省

すでに紹介しましたが、知床の野生動物(特にヒグマなど大型哺乳類)の多さ、生息密度の濃さは、日本全国の世界自然遺産の中でも圧倒的です。今やこれ以上の地域は日本国内にはないでしょう。

その理由は、流氷が運んでくるアイスアルジー(植物プランクトン)。春になり氷がとけると、海中にたくさんの植物プランクトンが放出され、それをエサにする動物プランクトンが大量に増えます。

知床の代名詞でもあるサケ・マス(ウトロ漁港をはじめ斜里町は漁獲量日本一)など魚類や、クジラなど海棲哺乳類の豊富なエサとなり、さらに魚類をエサにするヒグマ、オオワシなど大型動物を支えています。

さらにはこれらの死骸や糞が、土壌に窒素やリンを供給し、植物も豊かに生い茂り、草食動物も支えているわけです。

すべて繋がる。グリーンシーズンと冬の2回体験すれば理解の深さがまったく違う

まず、秋に知床を訪れます。川にはたくさんのサケ・マスが遡上してきています。

森の中やナイトサファリでも、エゾシカ、キタキツネ、エゾリス、シマリス、エゾフクロウ……そして運が悪ければ(※)ヒグマなど、暑い夏よりも多くの野生動物が姿を見せます。

※ヒグマに出会えたら運がいいのかもしれませんが、森の中で遭遇してしまった場合は事故の心配がありますし、散策中止になってしまうので、遭遇しないのが一番とされています。逆に車に乗っている最中であれば危険はなくラッキーです

この1回目の知床訪問の時点では、子どもたちにとっては、「野生動物がいっぱい!ここはサファリパーク?動物園なの?」という印象が強いでしょう。

もちろん世界自然遺産の何たるかのインプットもしますが、どこまで実感を持てるかは、その時々・その子それぞれでしょう。

そして冬。

流氷で遊び、流氷がもたらすアイスアルジー(植物プランクトン)こそが生態系(食物連鎖)のすべての起点だということを知ります。

思い出すわけです、秋にはサファリパークかと思うほど野生動物を見たことを。そして冬にもたくさんの野生動物が見られます。

これらすべてが流氷の恵みーー圧倒的な実感と共に、大自然の営みを全身で理解できるんです。

テレビやYouTubeをみただけ、本で読んだだけ、授業で習っただけとは決定的に違う、一生モノの価値のある体験になるはずです。

「ワイルドライフ学部|世界自然遺産・知床 - 大型野生動物&流氷編」2024年秋スタート

ということで、パラダイスデーや石垣島7日間生活の「アドベンチャー学部」、東京ディズニーリゾート等をテーマにブランドコントロールやマーケティングを学ぶ「テーマパーク学部」に続き、野生動物をテーマに研究発表をする「ワイルドライフ学部」を発足させます。

第一弾は「世界自然遺産・知床 - 大型野生動物&流氷編」で、2024年秋のスタートです。知床行きの日程は以下を予定しています。

  • グリーンシーズン|2024年10月11日(金)〜14日(月・祝)

  • 流氷シーズン|2025年2月27日(木)〜3月2日(日)

募集要項等は準備中です。

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