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【絵本レビュー】 『たろうのおでかけ』

作者:村山桂子
絵:堀内誠一
出版社:福音館書店
発行日:1966年7月

『たろうのおでかけ』のあらすじ:


たろうは、なかよしのまみちゃんの誕生日に、すみれの花とアイスクリームをもって、動物たちといっしょに出かけました。みんなはうれしくって、とっとこかけだしますが、町の中ではおじさんたちに「けがをするから、だめ! 」といわれて、なかなか先を急げません。でも、原っぱにきたら、もう思いっきり……。

『たろうのおでかけ』を読んだ感想:


一人で出かけるようになったのはいつだろう。

この絵本を読みながらふと思いました。たろう君は幼稚園児ですよね。幼稚園の頃の私は、どこかで書きましたが、幼稚園から脱走したことがあります。いったいどのくらいの距離だったのかは謎ですが、朝はいつもバスが迎えに来て、帰りもバスか両親の自転車で帰っていたので、角をいくつか曲がればという距離ではなかったと思います。しかも割と大きな通りを渡らねばならず、午前中に五歳児が一人で道を走っていたのに誰にも止められなかったって、昔はのんきだったんだなあと思いきや、この絵本は私が生まれる前に書かれていたんですね。呑気でなく都会の無関心さなのでしょうか。

 お友達の家に一人で行くことはありませんでしたが、マンションの下にあったコンビニへ父のタバコを買いに行ったり、裏手の方にあった公園へ一人で行くことはありました。公園は歩いて十分くらいのところだったのではないでしょうか。うちを出て、隣のガソリンスタンドの角を曲がると相撲部屋がありました。私が公園に行く時間は力士たちのお風呂の時間と重なることが多かったようで、上の方にある窓からモクモクと白い湯気が出ているとともに、カコーンと桶が床を打つ音も響いていました。子供の私はてっきりオフと屋さんだと思っていたので、そこから髷を結った大きなお相撲さんたちが出て来るのを見た時はとてもびっくりしました。アルバムにはボールを持った小さな私と祖母、そして大きな力士が写っている写真が何枚かあります。

さて、子供の時の私はとてもおしゃべりだったそうで、そこらへんにいる大人によく話しかけていたそうです。今うちの四歳児が全く同じことをしていて、友人には「うちの息子、年増好きなの」と冗談を言っていますが、母親から私の子供時代の話を聞いたら、なんだか納得してしまいました。

相撲部屋を通って少し行くと公園があって、私は一人で遊びに行くこともありました。ある日砂場で遊んでいると、私より小さな子を連れたお母さんがいて、私はチャンスとばかり(ああ、これも息子と一緒だ!)そのお母さんに話しかけました。会話のほとんどは意味不明だったと思います。でも一つ鮮明に覚えているのは、砂の中に飯盒があったことです。私はそのお母さんに、「これ、飯盒だよ」と言いました。お母さんはびっくりしたように、「そんな言葉よく知ってるわねえ」と言ってくれたのですが、それがとても嬉しくて、後の会話は全く覚えていません。

私の両親はアンチキャンプ派で、私はキャンプに連れて行ってもらったことはありません。現在残っている絵本の中には飯盒が出て来る話もありません。さらにうちはテレビ禁止だったので、一体どこでそんな名前を聞いたのか、過去に戻って聞きたいくらいです。そんなことはさておき、そのお母さんが安心してくれたことがとても印象的だったんでしょうね。私は今でもその会話とそのお母さんの驚いたような声をしっかりと胸にしまってあります。

公園で大人にばかり話しかける息子にちょっとイラついていましたが、『たろうのおでかけ』によってそれがどこから来たのかわかりました。公園で私の息子に話しかけられているお母さんたちには、ちょっとだけ我慢してもらうとしましょう。

『たろうのおでかけ』の作者紹介:


村山桂子
1930年、静岡県生まれ。文化学院卒。お茶の水女子大学幼稚園教員養成課程修了後、幼稚園に勤務。第2回全国児童文化教育研究大会童話コンクール入選。主な作品に、『たろうのばけつ』『たろうのおでかけ』『たろうのともだち』『おかえし』『ひつじのむくむく』(以上、福音館書店)、『はねーるのいたずら』『きょうだいぎつねの コンとキン』(ともに、フレーベル館)、『もりのおいしゃさん』『コンタのクリスマス』(ともに、あかね書房)などがある。



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