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【絵本レビュー】 『そうべえときじむなー』

作者/絵:たじまゆきひこ
出版社:童心社
発行日:2018年6月

『そうべえときじむなー』のあらすじ:

寒いのでたき火をしているそうべえたち。気球を作って暖かい南の国へ行こうとしたが燃やすものがなくなって危機一髪! 助けてくれたのはきじむなー。渡してくれたのは隠れ蓑。これ幸いと、お百姓さんの弁当を盗み食いする4人。怒ったきじむなーは隠れ蓑を燃やしてしまうが、そうべえたちはその灰を体中にぬって婚礼の宴会へしのびこみ……。琉球の人たちの優しさにふれたそうべえたち。

『そうべえときじむなー』を読んだ感想:

私はまだ沖縄に行ったことがありません。ここでは「まだ」と行っておくことにします。それは沖縄が、いつも行ってみたいと思っている場所の一つだからです。

子供の頃からなぜかアイヌと沖縄の文化に惹かれ、いつもはちっとも見ないニュースでも、アイヌとか沖縄と聞くと注意を向けていたのでした。私は前世でこの二つの地域に住んでいたのでしょうか。そういえば、伝統的な入れ墨のパターンなどを見ても、アイヌと沖縄の文化には共通点があるという研究がされていますね。さてはポリネシア文化にも通じるとも言っていたので、私がこの二つの文化に惹かれるのには理由があるのかもしれません。

さて、難波のズッコケ四人組を送り返したきじむなーが言います。

りゅうきゅうの ひとたちの やさしいこころを、
ヤマトの くにへ つたえて おくれよ。

いたずらをしても罰することなく許してあげる。でもそっと背を押して、やって来た場所に返すのです。

私たちには、自分と違うものを異様に感じる変なセンサーがあるようです。マルチカルチャーな都市と謳っているベルリンでさえ、「インテグレーションコース」といういわゆるドイツ文化への融合を目的とするコースがあります。私はしたことがないのですが、ドイツ国籍の人と結婚したりドイツ国籍を取りたい人は勧められているようです。こう言ったものは、一見すると「どんな文化も来ていいけど私たちみたいに暮らしてね」という条件が引かれているようにも感じます。

もちろん国の運営なので、やって来た全ての国の文化を考慮していたらきりがないのでしょうが、そうすると真のマルチカルチャーな都市って存在するのかなと疑問を感じてしまいました。

国単位では無理でも、個人的な人間関係ではオープンでありたいと思っています。何年海外に住んでも抜けていかない日本人的な基盤というのがあることに気づくのですが、その基盤で他の文化を判断しないように気をつけたいです。

「これって常識でしょ」というとまるで全世界がその価値観を持っているように聞こえますが、実際は言った人自身とその周囲の人との同意事項でしかないのです。自分でない人とコミュニケーションをとって合意点を見つけていくことは、正直面倒だし疲れます。だから既に同じような考え方をしている人たちと友達になった方が楽だし、ある意味合理的ですよね。

合理的。。。これが友達を作る大元の基準なのかとちょっとがっかりしますけれどね。合理的でない友人を作る方法の一つは、コミュニケーションですね。とことん話し合って相手を理解する。理解した上で優しさが生まれてくるのではないでしょうか。

私の母は十五、六年前に宮古島のマラソン大会に行きました。明らかに外から来たランナーだとわかるような様相の母と伯母に、八百屋のおばさんはビニール袋を渡し、「黒砂糖持っていきなさい」と言ったそうです。母は最初砂糖を売ろうとしていると思って断ったそうなのですが、おばさんが真意で言っていたことがわかり恥ずかしかったと話してくれました。その同じおばさんは、母と伯母の名前を聞くと翌日プラカードを持って店の前で応援してくれていたそうです。とても驚いていた母の様子は、私の記憶に今も残っています。

これが例にはならないでしょうし、琉球の人たち全員が優しいとは言い切れないけれど、歴史的にも大変さを味わって来た沖縄の人は、もしかしたら他の人を受け入れる方法を知っているのかもしれません。

優しい心はどうやって育てることができるのでしょうね。


『そうべえときじむなー』の作者紹介:

たじまゆきひこ(田島 征彦)
1940年大阪府堺市生まれ。画家。京都市立美術大学染織図案科卒。「じごくのそうべえ」で第1回絵本にっぽん賞受賞。世界絵本原画展金牌、小学館絵画賞、ライプチヒ国際図書デザイン展銀賞受賞。他に「そうべえごくらくへゆく」「そうべえまっくろけのけ」(以上童心社刊)などがある


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