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【絵本レビュー】 『かばのかばひこ』

作者:渡辺茂男
絵:梶山俊夫
出版社:瑞木書房
発行日:1983年11月

『かばのかばひこ』のあらすじ:

かばのかばひこくんは押し屋です。朝のラッシュアワーの時間にホームで人々を押し込むのが仕事。ただただ無心で背中を押すのです。昼からはうどん屋でアルバイト。生地を押してこねて押してこねて。押すのが大好きなかばひこくんは仕事柄背中を見るとついつい押したくなってしまうのです。

『かばのかばひこ』を読んだ感想:

職業病というやつでしょうか。それとも単に押すことが大好きなのかもしれません。好きなこと、得意なことを仕事にできるのは運のいいことだと思います。

先日友達が仕事を探したいという話をしてくれました。娘さんも来年から小学校が始まるので、まとまった時間ができるようになることもきっかけになったのでしょう。ただ問題は、「何をしたらいいかわからない」ことなのです。

彼女は博士号も持っている弁護士さんで、娘さんが生まれる少し前までは法律事務所で働いていた人です。私に比べたら立派なキャリアを持っている人なのに、「やりたいことがわからない」なんて変に聞こえますよね。さらに話を聞くと、彼女は法律の世界に戻りたいのか迷っていること、法律以外で興味を持ってできることがわからないことが悩みだと言いました。そしてびっくりするようなことを言いました。

「あなたはちゃんと自分のやりたいことが見えている」

そうなんでしょうか。私は自分の人生が行き当たりばったりな気がしていたのです。教育学科を出たのに記事を書く人になりたくて出版社をかたっぱしから受けたのに全滅、バイトで入った業界新聞社で写真の撮り方を教わってロンドンでポートレイトスタジオで働けるようになったのは良かったけれど、移住したスペインにはそんな業界はなく、仕方なく教え始めた日本語教師の面接に行ったら書道を教えてくれと頼まれて、やっとうまく行くのかなと思い始めたらコロナでロックダウンが続きクラスが開けなくなって、時間が余っているから子供達に絵本を読み始め、その間旦那に勧められたコーチングのコースを始めることとなり、今は絵本を使った自分探しの仕方を模索中。どう見ても「私にはこのキャリアがあります」と自慢できるものはありません。状況に応じてできることをしている、そんなふうに思っていたのに、「ちゃんとやりたいことが見えている」だなんて驚きです。

でも実を言うと、そう言われて私はとても嬉しかったんです。「どっちつかず」と言う自己批判が覆されたのですから。人生においてたった一つのキャリアを追い続ける人もいるし、いくつものキャリアを同時進行して行く人もいる。その人が満足できているならいいんですよね。しようとしていることが好きかどうかどうしたらわかるか、ですか?

それはしてみなければわかりません。でもすると決めたのは私ですから、辞めると決めるのも私なんです。試してみたけど好きじゃないのならば、違うことをすればいいのではないでしょうか。大変だけど続けたい何かがきっと見つかるような気がします。


『かばのかばひこ』の作者紹介:


渡辺茂男
1928年、静岡県生まれ。慶應義塾大学図書館学科卒業後、米国に留学。ニューヨーク公共図書館児童図書館員、慶應義塾大学教授をへて、こどもの本の仕事に専念。おもな作品には、『エルマーのぼうけん』、『エルマーとりゅう』、『エルマーと16ぴきのりゅう』(ルース・スタイン・ガネット作、福音館書店)、『かもさんおとおり』(ロバート・マックロスキー作と画、福音館書店)、『どろんこハリー』(ジーン・ジオン作、マーガレット・ブロイ・グレアム画、福音館書店)、『山の上の火』(クーランダー、レスロー文、岩波書店)などがある。創作作品には、『しょうぼうじどうしゃじぷた』(山本忠敬画、福音館書店)、『もりのへなそうる』(山脇百合子画、福音館書店)などがある。子どもの本による国際交流にも貢献し、JBBY日本国際児童図書評議会(IBBY国際児童図書評議会の日本支部)にも尽力した。


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