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【絵本レビュー】 『999ひきのきょうだいのひっこし』

作者:木村研
絵:村上康成
出版社:ひさかたチャイルド
発行日:2004年3月

『999ひきのきょうだいのひっこし』のあらすじ:


住んでいた池が狭くなった999匹の兄弟たち。お引っ越しの途中で、ヘビに出会ったり、トンビにさらうわれたりの大騒動。

『999ひきのきょうだいのひっこし』を読んだ感想:

昨日に続き大家族のお話ですね。999匹の兄弟なんて、名前をつけるだけでも大変そうです。

このところ息子の友達数人が立て続けに引っ越すことになり、「ひっこし」という言葉に敏感になっている息子です。さらには「ぼくもひっこす」とまで言い始めているのですが、友達が遠くに行ってしまうことを実際はどう思っているのでしょう。

私の家族は引っ越しが多く、高校卒業までに七回は引っ越しました。幸い学校を替えることはなかったし、地元の学校に行ったことのなかった私は友達との別れを本当の意味で体験することはありませんでした。でも、友達が遠くへ行ってしまったり、転校してしまったりして会えなくなったという経験はあります。一体あの子たちはどうなったんだろうと今でも考えることがあるので、きっと子供なりに寂しかったのかなと想像します。

幼稚園の時Nくんというとても仲良しの子がいました。Nくんには二人弟がいて、その二人にもとても優しくしていたのを覚えています。初めてお泊まりに行ったのものんくんの家でした。家で遊んでいるとぐらりと床が揺れ、私は何が起きたのかわかりませんでした。

「じしん!」というのんくんと共に立ち上がると、のんくんのお母さんが私たちを玄関のドアの方に呼びました。私たちは一列になって開いたドアの枠の中に立っていました。

「地震で建物が倒れてもドア枠は残るから安全なの。」
そう教えてくれたのんくんのお母さんの言葉を今もしっかりと信じている私です。

のんくんのうちで初めてヤクルトも飲みました。私のうちは甘いものが全面禁止だったので、ヤクルトなんて見たこともなかったのですが、のんくんは優しくアルミの蓋の開け方を教えてくれました。なんとまあ美味しかったこと!私は一気に飲み干すと、図々しくももう一個おねだりしたのでした。こんなに美味しいものが世の中にはあるだなとびっくりしたものです。

黒鉛筆で銀色を作り出すのもNくんが教えてくれました。みんなでウルトラマンの塗り絵をしていた時のことです。ウルトラマンは赤と銀ですよね。赤鉛筆はあるのに、銀色はありません。私が困っているとのんくんが言うんです。

「銀はこうやるんだよ。」
彼は黒い色鉛筆を掴むと斜めに持って、ウルトラマンを薄く塗り始めました。

「ちょっと黒っぽいよね。」と私が言うと、

「まだまだ。それからこうするの。」

のんくんは人差し指をペロッと舐めると、おもむろに塗ったばかりの薄い黒色の上をこすり始めました。

あれれっ。みるみるウルトラマンの肌は光り始めるではないですか。のんくんの弟たちと私は指を舐め舐めウルトラマンをこすったのです。見事に光る銀色のウルトラマンができました。この方法も学校の図工のデッサンの時に使いました。

私がのんくんが好きだったかって?いえいえ。私にはちゃんと好きな子がいたんです。でものんくんは大切な友達でした。私の脳みそを開かせてくれる、そんな友達だったと思います。

でものんくん一家は幼稚園の卒業とともに、お父さんの仕事の都合で山梨へ引っ越してしまいました。当時私は山梨という場所がどこにあるのか知らず、ただもう会えないということだけが理解できました。ただ、山梨という地名だけはその後も忘れなかったので、いつか訪ねに行こうとでも思っていたのかもしれませんね。とっても優しかったのんくんは、一体どんな大人になったんでしょう。いつか会えたら、ヤクルトと銀色の作り方の話をしたいと思います。彼は覚えているでしょうか。



『999ひきのきょうだいのひっこし』の作者紹介:


木村研
1949年鳥取県生まれ。児童文学作家。日本児童文学者協会会員。手づくりおもちゃ研究家。『999ひきのきょうだいのおひっこし』が、2012年ドイツ児童文学賞にノミネートされ、子どもたちの選ぶ「金の本の虫賞」を受賞。



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