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【絵本レビュー】 『つるかめつるかめ』

作者:中脇初枝
絵:あずみ虫
出版社:あすなろ書房
発行日:2020年8月

『つるかめつるかめ』のあらすじ:

病気除け、台風、雷、地震……不安なときに唱える6つのおまじないを紹介。イヤなことがあったら縁起直しのおまじない「つるかめ つるかめ」。イヤな気持ちをふきとばします!

『つるかめつるかめ』を読んだ感想:

「いたいのいたいのとんでいけ!」
そう言いながら痛いところを手で掴み取って吹き飛ばす、のが私流です。そうするとまだきちんと喋れなかった息子はキョトンとして、私が指差す空の彼方をじっと見ていました。高く舞い上がって風に運ばれて言ったところで痛みとはさようなら、私たちはまた歩き出すのです。四歳になった今も、転んだりして痛い思いをするとやってきて、「いたいのいたいのして」と言うので、まだしばらくは使えそうです。

絵本の中には知らないおまじないがたくさんあって、その由来も書いてあるのですが、読んでいると古代の人たちとなんだか心が繋がったような気がしました。何か自分より大きいものを恐れる心って、いつの時代になっても同じなんですね。

「いたいのいたいのとんでいけ」も子供に使うことが多いけれど、私だって言ってもらえたら痛いのが減少するかもしれません。大人になったからって怖いことがなくなるわけではないのに、しっかりしていなくちゃならないなんてなんだか不公平ですよね。そんなことを考えながら、去年コロナが広まり始めた頃見つけたアマビエのことを思い出しました。これだって昔の人が疫病を恐れ、すがる気持ちで描いていたのだと思うと、私はもう一人ではなくて過去のいろいろな人たちに支えられているような、そんな心強さを感じました。

ところで、私には自分だけのおまじないがあります。小学校二年生の時クラスの子が「パパはママって私達より先に死ぬんだよ」と言ったことがきっかけで、私は朝になったら父が死んでいるのではないかと毎日怯えていました。何歳かは知らなかったけれど、他のお父さん達より歳をとっていたことは知っていたので、誰かが死ぬとなったらまず私の父であろうと、幼心に推測したのです。その当時の夜の挨拶は、
「明日の朝、起きた時いるよね」でした。
もちろん父は訝しげな顔をしていましたが、なぜそんなことを聞くのかとは聞かれず、ただ「おう」と答えていました。

会えると言われても、恐怖は消えません。そこで私はおまじないを作り上げたのです。事故で死んでしまった猫、いつも一緒に寝てくれていたぬいぐるみたちの名前をまるで神様のように呼んで、父をちゃんと朝目覚めさせてくれるように頼み始めたのでした。やがてそのぬいぐるみたちも古くなったり、引越しの時に無くなったりして、最終的には一つも手元になくなりました。ただ彼らは私のおまじないの中に今も生きています。私は大きな心配事があって夜をうまく超えられないように感じる時、このおまじないを唱えています。今は、一人で暮らしている母が朝無事に目を覚ますことができるようにと、夜私の守り人たちにお願いすることが多いですね。

ああ、そろそろ日本の母が起きる時間です。元気に朝が迎えられますように。

『つるかめつるかめ』の作者紹介:

中脇初枝
1974(昭和49)年、徳島県生れ、高知県育ち。筑波大学卒。高校在学中の1991(平成3)年に『魚のように』で坊っちゃん文学賞を受賞し、17歳でデビュー。2013年『きみはいい子』で坪田譲治文学賞を受賞。同作は本屋大賞2013の第4位となり、映画化もされた。著書は絵本に『こりゃまてまて』『あかいくま』、昔話の再話に『ゆきおんな』『女の子の昔話』『ちゃあちゃんのむかしばなし』、小説に『わたしをみつけて』『みなそこ』『世界の果てのこどもたち』(本屋大賞2016第3位)などがある。


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