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【絵本レビュー】 『くまの子ウーフ』

作者:神沢利子
絵:井上洋介
出版社:ポプラ社
発行日:2001年9月

『くまの子ウーフ』のあらすじ:


あそぶことが大すき。たべることが大すき。そして、かんがえることが大すきな、くまの子ウーフ。ほら、きょうもウーフの「どうして?」がきこえてきます。

『くまの子ウーフ』を読んだ感想:


「ねえ、おかあさん、ぼく、わかったよ。ぼくね、なんでできてるかっていえばね。」
ウーフはうれしそうにいいました。
「ぼくでできてるの。ウーフは、ウーフでできてるんだよ。ね、おとうさん、そうでしょう。」

どきりとしました。私はもう長いこと、私が何でできているかなんて考えたことがありませんでした。毎日毎日することリストがどんどん増えていって、それをチェックすることだけにエネルギーを費やして、根本である「私」に焦点を置くことはほとんどありませんでした。

あ、一度だけ、数年前に公園で知り合ったお母さんに、「あなたが情熱を持ってるものって何」と聞かれた時です。その時もドキッとして、答えられない自分がもどかしくもあり、恥ずかしくもありました。一緒にいた友達が、「情熱?なんの話?一分でも多く睡眠をとることね!」と笑いながら言ったのに便乗しておきましたが、私はなんだか自分のことをおざなりにしているのを見透かされたようで、ちょっと心が痛みました。その後、次にそのお母さんと遭遇した時にまず教えてあげようと思って、家でも考え続けましたが、あの時以来また私はチェックリスト生活に戻ってしまっていました。またもや絵本に鋭いところを突かれてしまいましたね。

中学校、高校と私はちょっと悩んでいました。「私」って一体誰だろう。きっかけとなったのは、話す友達によって自分のキャラクターがかなり変わることに気がついたからです。ある友達は私のことを「いたずらっ子」と捉えていたようで、また他の友達は「本ばかり読んでいるおとなしい子」と捉えていたかもしれません。一日に会話をした友達だけを考えても、その一人一人といる時の私は全く別人のように感じられたのです。

「本当の私はどれなんだろう」と考えていた時に出会ったのは『24人のビリー・ミリガン』という本でした。一人の中に二十四人の違う人物が存在している多重人格者の話です。あっという間に上下巻読んだ私はまた悩みました。「私ってもしかして多重。。。?」それから私は、受験勉強の真っ最中だというのに、他の多重人格者を扱った小説やノンフィクションの本を読んでみました。読めば読むほど私は「自分」という存在の中に埋もれ、困惑していきました。それと同時に精神科医やカウンセラーという仕事にも興味を持っていきました。もちろん医大に進むにはもうすでに手遅れだったし、私の頭脳では無理だったのであっさり諦めましたけどね。

大学に入っても少しの間はこの「自分探し」に没頭していました。で、ある日ピッカーンとわかったんです。全部私。私にはいろんな面があって、いろいろな友達が私の違った顔を引き出してくれているんです。だからどれも私。自分一人でいたら気がつかないような性格が引き出されている、そう考えたらどの顔も愛おしくなって、全部いっぺんに受け入れたくなりました。

さらには、そう決めたらとっても楽になったんです。いっぱい笑ってくれる人にはおちゃらけの私、上から押し込めようとする人にはターミネーター並みの冷たい私。どれも私。だって、私は私でできているんですから。

精神科医にはならなかったけれど、パンデミックをきっかけに、私はコーチングの資格を取ることにしました。旦那のアイデアではあったのですが、私はなんだか「自分探し」に悩んでいた高校生時代を思い出し、いいタイミングだと思ったのです。私の「自分探し」をする方達との旅のお供業はまだ始まったばかりですが、毎回お話を聞くたびに、私の知らない顔を引き出されるのを楽しんでいます。時にスポ根、時に縁側で日向ぼっこをするおばあちゃん、時に公園で質問ぜめをしてくる子供。どれも私です。

ウーフ、「私が何でできているか」をまた思い出させてくれてありがとう。


『くまの子ウーフ』の作者紹介:


神沢利子
1924年福岡県生まれ。文化学院文学部卒業。詩人・児童文学者。少女時代を樺太(今のサハリン)ですごす。日本児童文学者協会賞、日本童謡賞、路傍の石文学賞、モービル児童文化大賞などを受賞。作品に、代表作「ちびっこカムのぼうけん」(理論社)ほか「あひるのバーバちゃん」「はけたよはけたよ」(以上偕成社)「くまの子ウーフ」(ポプラ社)「ふらいぱんじいさん」(あかね書房)「くまのまこちゃん」(のら書店)など作品多数。



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