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【絵本レビュー】 『トラといっしょに』

作者:ダイアン・ホフマイアー
絵:ジェシー・ホジスン
訳:さくまゆみこ
出版社:徳間書店
発行日:2020年8月

『トラといっしょに』のあらすじ:

美術館でトラの絵を見たトム。自分でもトラの絵を描いてみると、その夜、トラが現れて夜の世界にお散歩に連れて行ってくれます。ちょっぴり怖がりのトムですが、トラの強さと勇気に触れるうちに成長していきます。
この絵本はフランスの画家アンリ・ルソーの実際にある絵から生まれてきたものです。

『トラといっしょに』を読んだ感想:

素敵な色のイラストが息子のお気に入りとなりました。絵をほとんど描くことがない子なのに、イラストの好みはあるようです。

私も子供の頃は絵心がなく、絵を描くのが苦手でした。美術館に絵を見に行くことはありましたが、画家の名前さえ知らずに、広告の絵が気に入れば行くという風でした。小学校高学年のある時、電車の広告で見た絵画が気になり父に言うと、二つ返事でチケットを買ってくれ、その週末に行くことになりました。

絵画展は多分レンブラントだったと思います。その時はもちろん誰だか知りませんでしたが、大人になってから美術館で再会した時に「あ、この作風!」と記憶が蘇ってきました。父が絵画に興味があったかどうかは知りません。父は私と出かけるのがただ単に嬉しかったのでしょう。突然家からバス停までの道を競争しようと言い出しました。当時の父は50歳超、私は運動会で六年間リレーの選手でしたから、勝てる気は満々でした。距離は一本道で50mほど。賭けが好きな父は、私が勝ったら。。。と条件をつけてきました。「簡単カッパの屁」と思った私でした。

いざ走り始めると、父はワオキツネザルが移動する時みたいな、半分横っ飛びで跳ねるように走るのです。私は父がふざけているのだと思い、そんな様子を横目で見ながらスピードを上げました。

ところが、抜けないんです。なんとしたことか追い越せそうで越せません。もうバス停はすぐそこ。私は焦り始めました。焦ったら足も空回りして、先に進めません。結局父を抜かせず負けてしまいました。ワオキツネザルに負けた私の悔しさは、何十年も経った今でも口の中に苦く残っています。

さて、肝心の美術展です。バスと電車を乗り継いで着いたギャラリーは、たくさんの人出でした。私は人だかりの中を縫うように歩き、経っている大人たちの下から作品を見ていきました。暗い背景の中に佇む人々の絵は、まるで今にも動き出しそうで、私は魅了されていました。そこにいるのは何百年も前の人たちなのにとても生き生きしていて、急にぺろっと舌でも出しそうな気がして、ドキドキしながら見ていたことを覚えています。

出口付近で父が待っていて、「どうだ、面白かったか?」と聞き、私が頷くと満足そうにエレベーターの方へ行ってしまいました。父は一体楽しんだのでしょうか。

そのあとは甘党の父に連れられ喫茶店に入り、父はいつものモンブラン。私は初めて見るケーキを頼みました。そうしたら、ケーキに筒状のものが刺さっていて、父に聞くと「チョコのビスケットだろ。」との答え。思い切ってかじったら。。。ちょっとピリッとする木の枝みたいでした。
「これ食べ物じゃないよ。木の枝。」と言う私に、
「おお、そうか。」と微妙な含み笑いを浮かべながら答える父。
その後何年もして知ったのは、あの時の木の枝はシナモンスティックだったということでした。父がそれを知っていて私に試させたのか否かは、今では知る余地もありませんけどね。

『トラといっしょに』の作者紹介:

ダイアン・ホフマイアー(Dianne Hofmeyr)
1959年生まれ。南アフリカのイラストレーター、作家、アーティスト。プレトリア大学で神学、シュテレンボッシュ大学でジャーナリズムの学士号を、ケープタウン・テクニカル・カレッジでグラフィック・デザインのディプロマを修得。また美術教師の資格を取る。聖職者、グラフィック編集者を経て、創作活動をはじめ、10代向の小説と絵本を多数出版。日本で紹介されている絵本に、「ふしぎなボジャビのき」「はるかな島」(ともに光村教育図書)など。ロンドン在住。

 
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