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【絵本レビュー】 『にゃーご』

作者/絵:宮西達也
出版社:すずき出版
発行日:1997年2月

『にゃーご』のあらすじ:

先生の注意もろくに聞かず、遊びに出かけた子ねずみ3匹。そこへ恐ろしいねこが「にゃーご」とやってきたけれど…。


『にゃーご』を読んだ感想:

知らないって強いな、と思わされる絵本でした。逆に言えば、必要以上に疑り深くなる必要もないということなのかもしれませんね。固定観念に縛られるのも、それはそれで問題になりそうですものね。

初めてメキシコに行った時私はほぼスペイン語を話せませんでした。知っていたのは数字、Hola(オラ、こんにちは)、これいくら?、あっちとそのほかいくつかの単語くらいなものでした。一人で道を歩いていると声をかけられることも多く、たいていの人は「お〜い、どこ行くんだ?」と聞いてきました。その度に「あっち!」と答えて歩き続けるので、それ以上追求されることもありませんでした。広場の市場で綺麗なスカーフやピアスを買いたい時もとりあえず値段を聞いてから、「これとこれ、〇〇ペソ大丈夫?」とロボットも顔負けの会話力で結構な値引きをしてもらいました。

ほぼ毎日私は町の中央広場に出向き、話しかけてくる人とは誰とでも話しました。コーン売りのお兄さん、靴磨きの男の子、市場のおばさんにテレビのプロデューサーと誰とでも話し、コーヒーをご馳走になることもありました。道ではできるだけ食べないようにと友達には言われていたけれど、私にはなんでも珍しくて、切ったフルーツなど以外の火を通したものは一通り食べてしまいました。メキシコ人は辛いものが本当に大好きで、茹でたトウモロコシにはマヨネーズとチリパウダー。パパイヤにもチリパウダーをかけて売っていたのには驚きでした。

友達の家の近所は毎日出歩いて知り尽くしてしまったので、ある日周囲の小さな村を見たくなり、私はミニバスに乗ることにしました。友人の家に来ているお手伝いさんが両手を広げて、十番のバスに乗るように教えてくれました。いよいよ冒険の始まりです。

びっくりしたのは、走行中ドアが開けっ放しであったことです。舗装されていない赤い土の道をガタガタしながらもかなりのスピードで走っているのに、前のドアは開けっ放し。ちょっと心配だったので、私は後ろの方に座りました。運転手さんは日本のように制服も着ておらず、時にはまだ子供じゃないかと思えるような若い人もいました。後から聞いた話では、十六歳くらの免許もないような子が運転しているときもあって、事故も多いということでした。

車内はどこを見てもメキシコ人ばかりで、アジア人どころか環境客もいませんでした。でも私はワクワクしていました。車窓から大きな石造の教会が見えました。一瞬だったけど骸骨の頭が見えたような気がしました。見てみたくなったので降りようと思ったのですが、なんとバス停が見当たりません。日本のバスのようにブザーもありません。「どうやって降りたらいいんだろう」と車内を見回すと天井近くに紐が張り巡らされていることに気づきました。一か八かで引いてみると、「リン」と鈴が鳴る音がして急にバスが止まりました。「ん?」まさか非常ベルを鳴らしたわけではないですよね、と思いながら前方を見ると、バックミラー越しに運転手さんが私を見ているのが見えました。どうやら私が降りるのを待っているようです。

私が降りると、ミニバスはまたガタガタ揺れながら土煙を上げて行ってしまいました。どうやらここのバスは好きなところで降ろしてくれるようです。

私が降りたところは小さな村で、周囲は家だらけで、売り子がいる広場もお店もありませんでした。でもその村のど真ん中に先ほど見た大きな教会があるのでした。教会には典型的は十字架はなく、その代わりに骸骨の頭が並んでいました。ふと周りを見ると周囲に人影はなく、もしここで私がいなくなっても誰も気づかないだろうな、などという考えがふと頭をよぎったのですが、私の興味は褪せたエメラルドグリーンの木の門にあいた穴から興味深げに私を見ている犬の目に吸い寄せられ、地面に寝そべるように写真を撮り始めました。その時乾いた地面を叩く足音がして一瞬「もしや!」と緊張したのですが、女性の声で「グリンガ、ロカ!(クレイジーな外国人)」というのが聞こえたので、ホッとしました。

このあと私は歩いて友人の住む中心地まで帰って行ったのですが、帰ってから言われたのは、

「怖がらせるといけないと思って言わなかったけど、あのミニバスは事故が多いのもさることながら、強盗も飛び乗ってくることがあるらしいんだって。」

これを聞いた途端、誰もいない村を一人でカメラを持ってウロウロしていた自分を思い出し、ちょっと身震いを覚えたのでした。いやはや、知らないって強いです。


『にゃーご』の作者紹介:


西宮達也
1956年静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。「きょうはなんてうんがいいんだろう」(鈴木出版刊)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。「パパはウルトラセブン」(学研刊)などでけんぶち絵本の里大賞を受賞。「おとうさんはウルトラマン」(学研刊)などの作品がある。


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