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【絵本レビュー】 『せかいいちおいしいスープ』

作者/絵:マーシャ・ブラウン
訳:こみやゆう
出版社:講談社
発行日:2010年4月

『せかいいちおいしいスープ』のあらすじ:

はらぺこの三人の兵隊が、ある村で食べものをわけてほしいとたのみました。けれども、村人たちは首を横にふるばかり。兵隊たちは、しかたがないので、石のスープをつくるといい出しました。えっ、石からスープをつくるだって?! いったい、どんな味がするのでしょう?

『せかいいちおいしいスープ』を読んだ感想:

きっちょむさんの海外版のようなトンチの効いた話ですね。頭は使いよう。兵隊さんも村人もみんなハッピーでwin-winなのがいいなと思いました。他人を騙したり利用するのはどうかと思いますが、知恵勝負をしてさらに友達もできる。こんなにみんながいいエネルギーを受け取れる状況ならいつでも歓迎ですよね。

先日も書きましたが、私は派遣で大手の会社に勤めていた時期がありました。海外へ行く資金を貯めるため、それまでより時給の良かった派遣に替えたのですが、大手の会社に派遣されるとは予想外でした。大きなビル全部がその会社で、ゾロゾロと入って行く全員がこの会社に勤めていると思うと、足がすくみました。

最初の1週間ほどは社員さんに付いて仕事の説明を受けました。初めて使う大きな電卓、びっくりするほどの大きな数字、そしてきらびやかに着飾った社員さんたち。十人ほどの小さなチームでしたが、それまでいた業界新聞社とは違うきらびやかさがありました。大きな金額を扱うので、一円の違いでも何度も計算し直し、それでも合わなければクライアントさんに電話をかけて確認します。月の終わりは決算期で、とても忙しくなると言われました。そう言われて注意して見てみると、朝出勤すると時間前に着いても社員さんたちは全員席についていて、すでにしばらく働いているような感じです。最初の一週間は定時の五時半に帰らせてもらえましたが、他の人たちは派遣も含め誰も席を立つ様子がありません。

少ししてからわかったのは、社員は朝七時くらいには来て働き始め、八時過ぎたらみんなでタイムカードを押しに行き、夜も七時か八時にはタイムカードを押して、また席に着き夜の十時過ぎまで働くということでした。時には十一時過ぎになることもあると聞きました。そして土曜は部長が来るので、おつきあいで何人かの社員は有意で来ているということでした。

「なんなんだ一体。。。」
と思うのは、会社員の父を持たない私だけでしょうか。教えてくれた若い派遣さんによると、派遣は七時半ごろになると社員さんからお許しが出て帰るのだそうですが、彼女は怖くてその前に帰ったことはないということでした。

たくさんの残業と休日出勤で皆さん稼ぎはいいのでしょう。毎週のように新しい服や綺麗なアクセサリーをつけて来ていましたが、そんなに働いていて一体誰かに見せる時間はあるのでしょうか。十人の女性社員と部長だけの小さな部屋で着飾っている理由って一体。。。私の頭の中ははてなマークだらけになっていましたが、私はある決心をしました。

幸い私と一緒に入った派遣の方がチームのスピードに合わず、社員さんたちから厳しい視線を浴びていました。私は割と要領よくこなせてしまっていたので、私へのガードが緩かったことも幸いしていたのですが、一週間ほど経ち少しずつ残業も伸びつつあるというある日、私は部長の席に帰る挨拶をするため近づきました。
「今日もご苦労さんね」という部長。

「お疲れ様でした。あの、ちょっと個人的なことなのですが、私勉強したいことがあって夜間クラスに通っています。みなさんが毎日一生懸命頑張っている中申し訳ないのですが、クラスに間に合うように会社を出なくてはなりません。でもギリギリ六時半に出れば間に合うので、それまでは戦力になるよう全力で頑張ります」

小さな部屋でしたから、社員さんも派遣さんもみんな私の話を聞いていたことは間違いありません。部長は「そりゃあ大変。ご苦労さん」と言って了解してくれました。そして私はその会社にいた一年弱の間、毎日六時半にはきっちり退社し、ジムに行ったり、英会話教室に行ったりしました。でも、勤務時間はタバコ休憩もせず(吸いませんけど)かなりみっちり働いたと自負しています。その代わり毎週綺麗な服も指輪も買えませんでしたが、私は幸せでした。社員さんも私の仕事に特に文句もなかったようで、私は「派遣とは交わらない」と言われていた社員さんたちとも軽い冗談を言い合えるようになりました。だからきっとwin-winだったと信じています。

そのあと仲良くなった派遣の若い人と何度か休日会った時に、「羨ましいです」と言われました。そうかもしれません。でもその時の私にとって、たくさんの服やアクセサリーはあまり意味のないことで、ジムに行ったり映画を見たりして自分の心や身体に肥やしを与える方が重要だったんだなあと、20代の私を褒めてあげたい気持ちになります。

『せかいいちおいしいスープ』の作者紹介:

マーシャ・ブラウン(Marcia Brown)
1918年アメリカニューヨーク州ロチェスター生まれ。1954年に「シンデレラ―ちいさいガラスのくつのはなし」(福音館書店刊)でコールデコット賞を受賞。1961年「むかしねずみが」(童話館出版刊)、1983年「影ぼっこ」(ほるぷ出版刊)で3度のコールデコット賞を受賞。


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