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【絵本レビュー】 『えんまのはいしゃ』

作者:くすのきしげのり
絵:二見正直
出版社:偕成社
発行日:2011年11月

『えんまのはいしゃ』のあらすじ:

ほらふき歯医者とえんま様の愉快なお話
「将棋ばかりして怠けていたな!」いいかげんな治療をえんま様に怒られた「てんか一のはいしゃ」のお話。痛くて笑っちゃう絵本です。

『えんまのはいしゃ』を読んだ感想:

とんちとか頭の回転が早いと救われることも多いなあと、改めて思った絵本ですが、鬼たちのナイーブさに癒されるお話でもあります。読んだ後に「今日はを磨こうと思う人」と聞いたら、大きい子達はほぼ全員迷わず手を挙げていたのも微笑ましかったです。

私は6歳から数年前まで同じ「子供歯科」に通っていました。始まりは単に地元の歯医者だったからなのですが、大学を卒業しても、海外に引っ越しても帰国のたびに通っていました。子供の時は「歯を抜きたがる怖い先生」という印象だったのですが、大人になってから行くと先生は実は旅行好きということを知り、毎回今いる国と先生の旅行体験話で盛り上がったりしました。

私は顎が小さいのだそうで、子供の時にも「あなたのね、歯は全部生えそろわないから、前の見えるところだけでも綺麗にしましょうね」と行くたびに言われ、ある時期は1ヶ月に1回は歯を抜かれました。「はーい口閉じないでー」と言われても、しばらく開けていると口が攣って来てピクピクします。そうするとアシスタントの人が来て口にジャッキのようなものを入れられます。口は震えず楽だけど、今度は顎が外れそうにコキコキ音がして来ます。先生の計画としては、大人の歯が生えてくる時に隣の歯を抜いてスペースを作り、新しい歯がまっすぐ生えて来るようにして、奥はガタガタでもいいでしょう、ということだったようです。その時の先生は自信満々に「あなたはね、スペースないから親知らずも生えて来ないわよ」と言っていましたが、見事に3本生えて、あんなに痛い思いをして抜かれた前歯が押されて凸凹になってしまいました。先生、あの自信はどこから引っ張り出して来たんですか。

高校の終わり頃引っ越しをして、歯医者に行くのに一時間半はかかるということでようやく大人の歯医者にグレードアップしたのですが、使う機械は大き過ぎて口に入りきらないし、入れたところで口の奥が見えない。なので詰め物はしっかり入らずポロポロ落ちて、2週間ごとに直しに行く始末。結局元の子供歯科に逆戻りしました。その時大人は私くらいで、スリッパは保護者用のもの、診察台からは足がはみ出てブラブラしているという状態でした。先生は荒いんですけどね、悔しいことに腕は良かったです。

2年前に帰国した時に、さて歯医者を予約と思いメールをしましたが1週間経っても返事が来ません。母に頼んで電話をしてもらったのですが、「誰も出ない」とのこと。そのあとも何回は電話したそうなのですが、ある日「誰かが受話器を取ったけど何も言わずに切られた」と言うではありませんか。母と私は勝手な想像を巡らせました。「倒産かな」「いや、先生病気とか」「亡くなったんじゃないの?」

そうこうしているうちに母が歯医者の近くへ行く用事ができました。その日母からの連絡で、歯医者が閉まっているということがわかりました。ただ入り口に「休院」とだけ書いてあって、その理由はわからないというのです。なんとまあ、謎めいたこと。仕方なく私は地元の歯医者をもう一度探すことにしました。改めて見ると母の家の周りは歯医者だらけ。あるところには向かい合って一軒ずつあります。私は最近できた大きめの歯医者へ行くことにしました。

まず入ってびっくりしたのは待合室に子供用のスクリーンがあることです。そして治療するのは全て個室。私が通されたのは子供の遊ぶスペースがある診察室で、天井と遊ぶスペースにモニターがあり、子供向けアニメがつけてあります。そこに住んでしまいたいと思えるほどのおしゃれな空間です。されに驚いたのは、先生もアシスタントの人もすごく気を遣ってくれることです。「痛みは我慢せずに言ってくださいね」と言われた時は涙が出るかと思いました。「治療が痛むかもしれないから麻酔を打ちますね」と言われた時、私は子供歯科の先生が畳でも縫うようにブスブスと針を突き刺して来たことを思い出し身体に力が入ったのですが、なんと「は〜い、ちょっとチクっとします」と先生に言われ実際「チクっ」で済んだのには拍子抜けしてしまいました。歯医者ってこんなでしたっけ?この新しい歯医者に比べると、人生の大半を費やしたあの子供歯科はまるで石器時代の歯医者でした。

ああ、それにしても子供歯科の先生、どうしたんでしょう。私は今の歯医者のハイテクさと優しさに味をしめてしまったのでもう行かないと思いますが、それでもお世話になったあの先生がちょっときになるのです。

『えんまのはいしゃ』の作者紹介:

くすのきしげのり
1961年徳島県生まれ。鳴門市在住。小学校教諭、鳴門市立図書館副館長などを経て、現在は、児童文学を中心とする創作活動と講演活動を続けている。絵本『おこだでませんように』(小学館)が、2009年に全国青少年読書感想文コンクール課題図書に、2011年にはIBBY(国際児童図書評議会)障害児図書資料センターが発行する推薦本リストに選出される。同作品で第2回JBBY賞バリアフリー部門受賞。また、『ふくびき』(小学館)、『ともだちやもんな,ぼくら』(えほんの杜)と共に第3回ようちえん絵本大賞を受賞する。その他の絵本に『もぐらのサンディ』シリーズ①~④(岩崎書店)、『あたたかい木』(佼成出版社)、『えんまのはいしゃ』(偕成社)、『みずいろのマフラー』(童心社)、『ええところ』(学研)、『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)など多くの作品がある。


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