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シンガポールの医学部の卒業試験

間違いなく人生最大の試験でした。ここに試験内容を書いてみようと思います。

特筆すべきことは、筆記試験ではなく、すべて実技試験(OSCE)スタイルだということです。試験は3日間かけて行われました。

1日目:手技(採血、導尿など)

10部屋あって、それぞれの部屋で手技を行います。制限時間は8分です。それぞれの部屋に模擬患者一名と試験官(医師または看護師)がいます。

今年出てきた手技は:①血ガス、②導尿(男性)、③PPE着脱(N95、フェイスシールド、ガウン、手袋)、④筋肉注射、⑤酸素投与(鼻カヌラとベンチュリーマスク)、⑥Wound Dressing(創部消毒とガーゼ交換)、⑦皮下注射、⑧静脈ルート確保と点滴組み立て、⑨心電図、そして最後に⑩血液培養でした。

それぞれの部屋での採点項目は、患者確認、手技の説明、インフォームドコンセント、手指衛生、手技のうまさ、安全管理(針をシャープスコンテナに捨てる、など)などになります。

過去には、静脈穿刺、導尿(女性)、マニュアル血圧測定も出たりしました。

2日目:身体診察

6部屋あって、それぞれの部屋で指示された器官系の身体診察をします。問診はなしで診察のみで診断を出し、プレゼンをします。実際の患者を連れてくる場合もあれば、模擬患者の場合もあります。制限時間は12分(診察8分+プレゼン&口頭試問4分)です。

診察のみのこの試験スタイルはどうやらイギリス系の医学部特有のものらしく、診察の一連の流れのYoutubeビデオを見つけたのでここに貼っておきます。

以下は、心血管系の身体診察のビデオです。

今年僕があたったケースは:

①心血管系:大動脈弁狭窄

Ejection systolic murmur + carotid radiationの徴候がある患者でした。僕はcarotid radiationが聞こえなかったので診断はaortic sclerosisとし、鑑別としてaortic stenosisを出して、なんとかセーフでした。ちなみに、aortic stenosisの場合のプレゼンのサンプルを貼っておきます。

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大体 診断 → 所見 → 合併症 → 病因 → 鑑別 → 要約 → 検査 → 治療 の順でプレゼンしていきます。

②神経系:脳卒中

右下肢に上位運動ニューロン徴候がある患者で、運動障害と感覚障害両方みられたので、Subcortical strokeというふうにプレゼンすれば正解でした。

③筋骨格系・神経系:腰椎椎間板ヘルニア

こちらは模擬患者でした。腰痛+右足痛が主訴の患者で、神経系の診察+Straight Leg Raiseなどをして、所見をプレゼンしました。

④内分泌系:甲状腺結節

甲状腺結節のある患者で、甲状腺結節のほかに、甲状腺機能亢進・低下症の徴候も探してまとめてプレゼンです。

僕が挙げた鑑別は:thyroid cyst, dominant cyst of multinodular goitre, thyroid cancerでした。

⑤消化器・泌尿器系:多発性嚢胞腎疾患 (APKD)

AVFには気づいていたものの、腎臓を触知できなかったので診断できずに爆死しました。

⑥呼吸器系:気管支拡張症

ばち指+右心症+吸気時のcrepitationsの徴候があるため、容易に気管支拡張症と診断(病因は恐らく線毛機能不全)できるはずが、右心症に気づけず、吸気時のcrepitationsよりも呼気時のrhonchiの音が大きかったためCOPDと診断。こちらも爆死。

3日目:問診+Communications

9部屋あって、5部屋は問診、4部屋はCommunicationsでした。こちらは全員模擬患者で、制限時間は身体診察と同じく12分(問診8分+プレゼン4分)

①72歳男性 主訴:息切れ

心筋梗塞を既往に持つ72歳男性、主訴は2ヶ月間続く息切れ、臥位で増悪、随伴症状に下肢の浮腫。容易にうっ血性心不全と診断。特に問題なし。

②38歳男性 主訴:胸痛

既往のない38歳男性、主訴は30分前から続く胸痛(pleuritic chest pain)。放散なし。恐らく気胸。喫煙歴もあるためとりあえず急性心筋梗塞も鑑別に上げた。特に問題なし。

③50歳女性 主訴:腹痛と黄疸

Charcot's triadがあったので上行性胆管炎でした。

④72歳女性 主訴:転倒

3日前からUTIと思われる症状+起立性低血圧と思われる症状+糖尿病でGlipizide服用。鑑別はUTI、起立性低血症、低血糖により転倒。

⑤38歳男性 主訴:発熱と発疹

近隣国からの出稼ぎ労働者でワクチン接種歴なし。3日前に発熱。オーグメンチン服用後に発疹。どうやら正解は麻疹だったようで、職業とワクチン接種歴を聞かなかったため爆死。僕が挙げた鑑別は:ウイルス性発疹、薬疹、伝染性単核球症でした。

⑥Communications:なかなか採血がうまくできずに腕にあざができた患者の娘が医師に怒鳴り込むというシナリオ。

患者の家族をなだめることができればOK

⑦Communications:てんかんの既往を持つ20代女性、抗てんかん薬を服用中断したため発作で入院。なぜ服用中断したのかを聞くというタスク。

妊娠希望のために自己判断で中断したそう。服用中断して発作を起こすと赤ちゃんに危ないよ〜的なことを言いつつ、神経内科と産婦人科の先生に相談してくださいねてきなことを言えばOK

⑧Communications:新しく糖尿病と診断された患者に病気や治療の説明をするタスク。

胃の裏に膵臓という臓器がありまして、ここでインスリンが作られて〜 糖尿病の患者はインスリンに対する反応が鈍くなるんですよ〜 てきな説明する。

⑨Communications:直腸がん、high anterior resection術後5日目の患者が腹痛を訴える → 上級医に報告というシナリオ。

部屋の中にあるカルテをみて、上級医に報告。SOAPがしっかりできればOK


という感じでした。何個か爆死した部屋がありましたが、なんとかパスできました。

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