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『THE GUILTY/ギルティ』-多分ネタバレなし-

 劇場公開時に見られなかった話題作。ちょうど『[LIMIT]』や『ALONE』、あと『search/サーチ』あたりのソリッドシチュエーションものを何本か見て面白いなと思っていた時のはず。

 ソリッドシチュエーションものとは、たとえば主人公が密室に監禁されたりして、舞台となる空間が制限されるなかで展開していく物語のジャンルだ。外部との連絡の制限や身体的拘束、さらに時間的なプレッシャーなんかが加わることで切迫した状況が展開していく。希望と緊張、そして絶望とを行き来する登場人物の極大の感情が、見ているこちらにも伝播してひじょうに疲れる(褒めてる)。

 本作で観客が視点を共有するのは、事件当事者ではなく警察の緊急通報ダイヤルの受け手として働くアスガーだ。そこに、どうやら誘拐事件の被害者と思われる女性から電話がかかってくる。自分自身に降りかかる恐怖はないかわりに、アスガー自らは動くことが出来ず、通話と通話の間に当事者の身になにが起こっているのか知るすべがない。なかなかひねりのきいた制限が加わり、手をこまねいている時間のもどかしさと事態が動く際の緊張感とがより強調される佳作だ。
 最初の見どころは、やはり初動の対応のシーンだろう。緊急通報していると悟られてはならない被害者から巧みに状況を聞き出し、現場へとパスをつなぐ。なるほどと思わされる。プロっぽくてかっこいい。さらに被害者宅の安全を確認したさいの被害者の娘との会話では、そこにパッションが加わってじわじわと効いてくる。観客を感情的にアスガーの味方につけたうえで、なかなか進展しない現場の状況やあくまでクールな司令部に対するいら立ちへの誘導がうまい。そのうえでの叩きつけるような無力感と噴き上がる義憤が、アスガーをプロとして逸脱した行動に走らせるが……。
 気づきもしなかった小さな違和感の回収のしかたや、設定を駆使した展開上のトリックが光る。アッと言ってから打ちひしがれること数回を経て、クライマックスでは強いストレスからむしろ感情が凪になる。タイトルの「GUILTY」とは誰のことを指すのか。そもそも罪の在りかとは? やや哲学的・神学的な後者の問いについて若干麻痺した頭で考えながらラストシーンに向かうにつれて、やけに透き通って浄化されたような気分になる。そんな脚本だった。

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