日本語の乱れの話

日本語の乱れって言うと「言葉は変化する」みたいな事を言う人が結構いるっぽいんですが、改良されていったり、簡略化されていったりするのとは別で、単純な間違いによる変化は「乱れ」だと思うんですよね。
例えば、秋葉原(あきはばら)は昔は秋葉原(あきばはら)と呼んでたんだけど、江戸っ子が言いづらくていつの間にか今のように呼ばれるようになった、みたいな話だと、(真偽はここでは置いといて)それは時代によって言いやすいように変化したんだなってのは分かる。
でも、エレベーターの事をエスカレーターって言うのは純粋に間違いだし、それを言う人がどれだけいてもそれは言葉の変化じゃなくて、知識が足りない人が増えたなぁってだけの話になってしまう。

で、最近気になっている間違いが
1.ネット上にはフリガナがないから読み書きを間違えている
2.音だけで知った言葉だから、聞き間違えている
の2パターン。
ちょっと例を挙げてみます。

1.ネット上にはフリガナがないから読み書きを間違えている(目での間違い)
一番わかり易いのは「コロナ禍」。
あれを「コロナ渦(うず)」だと思っている人がいっぱいいる。
TVでも「コロナか」って言ってるんだけど、たぶんコロナ渦(だと思っている物)とは違うものだと思っている。
恐らく「コロナ下」か「コロナ化」だと思ってるんじゃないだろうか。
これ、フリガナがついた物を目にすれば気付ける機会も増えると思うんですけど、ネットの文章ではフリガナがついていることは殆ど無いから気づけ無いままになってしまっている。
文字にした時に似たような漢字になり、声に出した時に全然違う音になるのがこのパターンです。

2.音だけで知った言葉だから、聞き間違えている(耳での間違い)
「延々と」を「永遠と」だと思っているパターン。
音で知って、使うシチュエーションは知っているから、ちゃんとハマる言葉が使われる場合が多く、それが間違いを気づきにくくしているような気がします。
文字にした時にぜんぜん違う漢字になり、声に出した時に似たような音になるのがこのパターン。

と、言うことで、最近はこういうのを見かけるとTwitterで検索して、どのぐらい使われているかを確認したり、メモったりするのが楽しくなってきています。

1のパターン(音にした時に全然違う音になる)
・コロナ禍→コロナ渦
・粋な計らい→枠(わく)な計らい
・進捗どうですか→進歩どうですか
・ショバ代→シャバ代
・やりがい搾取→やりがい摂取
・賛否両論→賛否両輪(さんぴりょうりん)

2のパターン(文字にした時に全然違う漢字になる)
・延々と→永遠と
・序章にすぎない→助走にすぎない
・物見遊山→物見胡散
・バラエティに富む→バラエティに飛ぶ
・少数精鋭→少数先鋭
・一応は→一様は
・賛否両論→賛美両論(さんびりょうろん)

更に訳の分からないものがある
こういったパターンを超えて更にハイブリット型とも言えるような「こいつは凄えぜ!」ってなったのがありましてた。
(たぶん)2019年末ぐらいにTwitterで指摘している方がいらっしゃって知ったのですが、「逸脱」と言う言葉が何だから分からない変化をしているんです。

【逸脱】
1.本筋からそれること。
2.あやまって抜かし落とすこと、抜けること。

なのですが、どうやら秀逸と混同してしまった人がいるらしい、と。
これが第2形態です。

【秀逸】
他にぬきんでてすぐれていること。そういうもの

「逸脱する」の文脈で「秀逸する」って書いている人が結構いる。
最近だと「秀逸する(または「秀逸するぎる」)」は誤用と分かった上でインターネットミームとして使っている人がかなりいるっぽくて埋もれてますけど、音も似てなきゃ、漢字もだいぶ違うって言う事態になっていました。

そうこうしている間に、「秀逸」が読めない人が出てきました。
第3形態の「秀免」派の人たちです。
そんな言葉、存在しませんからね(笑)
最初はこれもインターネットミーム的な物かと思ったんですが、普通に真面目な状況でも使っている人がいて「どうやら本気だぞ」と。
「逸脱」の意味で使っている人はあまりいなくて、「秀逸」の意味で使っている人が多いです。(「逸脱」からの流れではなさそうなのが残念な所ですが第3形態とさせていただきます)

で、更にこれを音で覚えて勘違いしちゃった人がいる。
そうです、第4形態の「秀面」派の誕生です。
実際にTVとかで使われる言葉じゃないですし、会話中にそうそう出てくる事も無いんで、恐らくは「秀逸」や「秀免」をネットで読んで「しゅうめん」という音として記憶して、いざ使おうとした時に「しゅうめん(なぜか変換できない)」ってなったんだと思います。
(追記:これ、いま読み直して気づいたけど、使ってる人は「秀でた面」って意味だと思ってるんじゃないかな。だとしたら、何周かして、それっぽい意味がついちゃってる。面白い。)

話がややこしすぎて「またお前の嘘だろ?」って思うかもしれないですが、ちょっと検索してみてください。
思っているよりも多くて愕然とすると思います。
https://twitter.com/search?q=until%3A2021-02-01%20%22%E7%A7%80%E9%9D%A2%22&src=typed_query&f=live

これ、何が面白かって、秀逸なんて言葉は、少し硬い言い回しだから、使っている人はみんな凄く真面目に書いているんですよね。
評価する側の視点(少し上)から「デザインが秀面」みたいな言葉を放っていることが多い。
その視点が高ければ高いほど「偉そうに書いてるけど、そんな言葉ねぇよ!間違ってるやつを更に間違ってるんだよ!」って感じがして面白い。
知らない事を間違うのはしょうがないんですんが、文体とのギャップが面白くて定期的に検索せずにはいられません。

ちなみに「秀逸」から「秀勉」に行った派閥の人もいるんですが、話が枝分かれするんで省きました。(更に言うと秀勉から秀弁に行った人もいます)
なんで「逸」だけそんなに読めない人多いんだろう。
そのうち「秀面」(しゅうめん)が「禿面」(ハゲづら)と融合する日も近いんじゃないかと期待しています。

【更に追記】
「言うだけ番長」って言葉が意味だけ残って「口だけ番長」になってる事象も類似品が無いか気になってます。
元ネタの「夕やけ番長」を知らない事で発生したんだと思いますが、最初っからそれで聞いた人は「番長」ってなんで付いたのか気にならないんだろうな。

【更に更に追記】
軽くバズった後日談として『「日本語の乱れの話」の話 』を書きました。
よかったら読んでやってください。
https://note.com/astral/n/n8a2911238709

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