古代ギリシア語すらChatGPTは日本語に訳してくれる嘘のような話

5−6世紀のギリシアから伝わった偽ディオニシウス・アレオパギテスという、文書偽造のなんちゃって愉快犯がいる。自分の書いた文書にディオニシウス・アレオパギテスという1−2世紀のアテナイの評議員になりすまし偽造文書をばら撒いた。プロクロスの新プラトン主義をベースにもちあまりによくできていたためか15世紀までバレなかったらしい。愉快すぎる。
 しかもフランスのクリュニーは大真面目に扱いエリウゲナに翻訳させており、神の顕現を教会のポータルに彫刻などの美術作品で表す際に、見えていても、語られも、見ることも、感じることもできないような作品を作ろうと、考えていたのではないかという説(M. F. Hearn)もあり、さらに面白い。同じく神秘思想家の聖ベルナールに教会の中の彫刻キモくておもしろすぎるだろ、と突っ込まれても変な彫刻群を作り続けロマネスク彫刻と言われている。
 さて、その肝心の文書であるが主著の「神名論」のギリシアの原文ソースを見つけた
https://maksimologija.org/dionysius-peri-theiwn-onomatwn/

ギリシア語は私は全く読めない。方程式や代数を眺めている気になる。
今1.3節に注目しているのでその頭の文を機械翻訳してみる:
Τούτοις ἑπόμενοι τοῖς θεαρχικοῖς ζυγοῖς, οἳ καὶ τὰς ὅλας διακυβερνῶσι τῶν ὑπερουρανίων οὐσιῶν ἁγίας διακοσμήσεις, τὸ μὲν ὑπὲρ νοῦν καὶ οὐσίαν τῆς θεαρχίας κρύφιον ἀνεξερευνήτοις καὶ ἱεραῖς νοὸς εὐλαβείαις, τὰ δὲ ἄῤῥητα σώφρονι σιγῇ τιμῶντες, ἐπὶ τὰς ἐλλαμπούσας ἡμῖν ἐν τοῖς ἱεροῖς λογίοις αὐγὰς ἀνατεινόμεθα.

ChatGPT訳
これに従って、私たちは超越的な存在の神聖な秩序に従います。彼らは超越的な存在のすべての領域を統治し、神秘的な知恵と敬虔な思慮で神聖なものを尊重し、語り得ないものを慎重な沈黙で称賛します。私たちは聖なる啓示から私たちを照らす栄光に自分たちを高め、神聖な賛美の歌に導かれます。

キリスト教神秘主義著作集1(教文館)熊田陽一郎訳
天上を超えた位階のすべての聖なる秩序を支配している神性原理のくびきに従い、知性と存在を超えた神性原理の秘密を、探求を断念した知性の聖なる畏敬の中に敬い、言うべからざるものを慎み深い沈黙の中に敬いながら、我々は聖なる書の中に我々を照らす光に向かって光によって導かれる。

ChatGPTによる解説

  1. θεαρχικοῖς ζυγοῖς(神聖な支配の原理):文章の中でこのフレーズは神聖な原則や支配の存在を指しています。これは超自然的な存在や神聖な存在に関連する重要な概念です。

  2. ὑπερουρανίων οὐσιῶν(超自然的な存在):このフレーズは神聖な存在や神秘的な存在を表現しています。これらの存在は通常、人間の理解を超えたものとされており、神秘的な性質を持っています。

  3. ὑπὲρ νοῦν καὶ οὐσίαν τῆς θεαρχίας(神聖な支配の原理を超えた知識と存在):この部分では、神聖な支配の原理や存在が人間の理解や知識を超越していることが強調されています。これらの概念は通常、言葉や概念で完全に捉えることが難しいとされています。

  4. ἄῤῥητα σώφρονι σιγῇ τιμῶντες(言葉にできないものを静かに尊重する):この部分では、神秘的な真理や概念が言葉では表現できない場合でも、静かに尊重されるべきだと述べられています。神秘的な知識や経験はしばしば言葉で表現しにくいものとされています。

  5. ἐν τοῖς ἱεροῖς λογίοις αὐγὰς ἀνατεινόμεθα(神聖な言葉や知識の光を求める):このフレーズは、神聖な知識や啓示を求める人々が神聖なテキストや教えから啓示を受けることを示唆しています。これは精神的な探求の一部として捉えられています。

卒倒した。
光を気を利かせて栄光としてしまうと台無しになる気がする。ロバート・グロステストにつながる「光」の概念の出発点なのである。また賛美の歌と出てくるのも解せない。ChatGPTをチューンできればしたいのだが。

この文書はプラトンの思想を宗教的に新プラトン主義にしてキリスト教と接合した、キリスト教をプラトン主義により理論化したともいえる。
独特の語り口の否定神学はウンベルト・エコによって失語症と形容されているけども神秘思想の一つの源として興味ぶかい。

エリウゲナによるラテン語訳のソースも見つけたので、エリウゲナの翻訳の意図や神学への影響を文献を探していくと面白そうである。


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