Hさんが亡くなった日。
昼間、インカムでスタッフから流れた言葉。
「Oナース、Hさんのお部屋まで来ていただけませんか。Hさんが息をしてないんです」
Hさんが亡くなった。
一週間ほど前から不穏な気配があり、いつ逝っても不思議ではなかった。
ナース他サ責やホーム長がばたばたと駆けつけ、Hさんのご家族に連絡が取られた。
私がこのホームに来てから二人目だ。
先日看取りの名目で病院から戻って来たKさんの奥様が亡くなったばかりで、そういうとき何故か不幸は続くものだ。
逝かれた方が寂しくて仲間を呼ぶのだろうか。
仕事を終えて事務室に行ったとき、サ責と話す機会があり。
そのときサ責が「Hさんに会ってきたら?」と言ってくださった。優しいサ責だ。
仕事を全て片付けて退勤した足で、Hさんの部屋へ向かう。
先程流れたインカムで、Hさんのご家族は午後7時ごろ到着予定だというから、まだご家族はいらしてないはずだ。
Hさんの部屋の前に立ったとき、微かに誰かの話し声がしたような気がした。
あれっ?ご家族がもう来てた?
それともスタッフの誰かかな?
と思ったが、私はひと呼吸おいて静かにドアをノックした。
「Hさん、失礼します」
明るい照明の点いた部屋には誰もいなかった。
そっと入ってベットのそばに立つ。
Hさんは、いつものベットに質感のない身体で横たわっていた。
いつも曲げていた足が真っ直ぐになっている。
眠っている顔は、見慣れたHさんの寝顔だ。
薄く唇を開き、寝とぼけている顔。
だけど一目でわかる、その顔の白さ、、、
Hさんは逝ったのだ
思わず涙が込み上げてきた。
「Hさん、今までありがとう。
お疲れ様でした。
あちらでゆっくり休んでください」
そして深く頭を下げて退室した。
後になって思った
あの話し声はなんだったのだろう?
あのときは隣の部屋か廊下で誰かが話していたのが聞こえただけかと思ったが、
Hさんの部屋を出た廊下は誰もおらず。しんとしていた。
もしかしたら…
と思ったが、なんでもあり得ることだから。
穀雨に相応しいそぼ降る雨の日
曇天の中、Hさんは旅立たれた。
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