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【コランダ地方で輝く君へ】まとめ 🔥トニ/🐉ホォロン/🐍フロー/⛄ミユキ
「ゴマ! 『あばれる』」 ヴァオオオ! ノアが怒気を孕んだ声で命じるや否や、ボールから出てきた恐竜が咆哮を上げる。ガチゴラスはオレのブーバーン・ヘーゼルに向かって突進してきた。 「ガチゴラスか……!」 オレは思わず唇を噛んだ。ほのおタイプのヘーゼルにとって、いわ・ドラゴンタイプのガチゴラスは相性が悪いポケモンだ。いくらヘーゼルがバトル上手といっても、どこまで相手を止められるものかわからない……だけど、だからといって降参するわけにはいかない。 「迎え撃てヘーゼル!
「ジラーチはどんな願いでも叶えてくれる言い伝えがあるんだって! ナナちゃんにも、何か叶えてほしい願い事ってある?」 アッ君は、にっこり笑って私に尋ねた。 七年前の面影を残す、アッ君の笑顔。目尻を下げて八重歯をちょっと見せる笑い方は、子どもの頃から変わらないと思う。 でも――どうしてだろう。昔と変わらない笑顔のはずなのに、アッ君が何だか苦しそうに見えるのは。大人になった分、顔つきが変わったから? 眼鏡をかけているから? 声が低くなったから? それとも――ジラーチという
それは、少し前のトライポカロンから見かけるようになった。 すべてのパフォーマンス、審査、表彰を終えた後。ポケモンパフォーマー達は優勝を競いあうライバルから、互いの健闘を労いあう同志に戻る。その日もオレや出演者のプリンセス達は、控え室で大会中の演出について話に花を咲かせながら、各々の変身を解いていた。 すると、コンコンとスタッフが扉を叩く。「失礼します」の一声とともに、彼女はオレ達パフォーマー宛てにファンから届いたプレゼントや、関係者からの差し入れを運び込んできてくれた。
夜のとばりが降りてなお、冷めやらぬ初夏の風。ところどころ修理の行き届いていない壁や窓の隙間から、それが吹き込んで肌をしっとりと撫でていく。 オルカは夜風を肩で切るようにしながら、割れた常夜灯の魔法ガラスの代わりに星明りを頼りとして、誰もいない廊下を歩いていた。 すっかり通いなれたある一室の前で止まる。最低限必要な開閉ができるまでには直された扉を、その馬鹿力で壊さないよう――それと近隣の戦闘員達を起こさないよう、いつもの彼からは考えられないほどの微力で数度叩いた。そして、
十数年前。熱砂の国の何処かにある蜥蜴人《リザードマン》の集落で、少年達が戦士の訓練を受けていた。 灼熱の炎天下でも機敏に動くリザードマンの家からは、国を守るための戦士が多く輩出される。この集落の少年達もまた、自分の得意な武器を見つけて戦えるようになるべく、退役した自分達の父や祖父から教えを受けているのだ。 青空の下、滑らかな鱗を煌めかせて木剣を振る戦士の卵達。しかしその中でひとりだけ、鱗の代わりに髪を振り乱す子どもがいた。鱗のない前半身の肌は日射に焼かれて黒く、汗がびっ
「ナジュームいる? いた」 地底の国にある友人の工房に入るなり、アッスーナは口を開いた。来客に顔を上げたナジュームが「アッスーナか」と商人の姿を確認する。 「どうした、何か入り用か」 「ん~、まあせっかく来たし何か持って行かせてよ。あと宣伝されたからそれを流しに来た」 「宣伝? 何の」 「劇団」 アッスーナは勝手知ったるとばかりに工房の端にあった椅子に腰掛け、両手を広げて朗々と語りだす。 「『さあさあ皆様お立合い! 六国を渡り歩いて幾星霜、喜劇も悲劇もお任せあ
ここはヘルヘイムの森。リフィアタウンを抜けてエリューズシティに向かう途中の地を覆う、うっそうとした森だ。 タマザラシ(と思われているが実際はパウワウ)のタマちゃんと、クッカ・ムナで偶然手に入れたタマゴを連れてのんびりした旅を続けているミユキ。彼は旅路でエリューズシティを訪れ、とあるイベントに出くわした。 「ふぁふぁ……この付けひげ、ちょっくらむずむずするだなあ」 ぱう せっかくなのでイベントに参加することにしたミユキがレンタルショップで借りたのは、黒い付けひげとハ
ぱちりと両目を開けたら、自室の照明と目が合った。 「………?」 見慣れているはずの景色なのに、一瞬、ここがどこかわからなくて混乱する。先ほどまで自分は青空の下にいたはずで――いや、青空だったろうか。そもそも外にいただろうか、いや、そんなことはない。 ――あっ、夢か。 違和感の正体がわかるとともに、やっと混乱が解けた。起き上がって伸びをすれば、身体の重みが確かにこここそが現実の世界であることを証明してくれる。夢の内容は記憶からどんどん抜け落ちるので、こだわらず脳の処理
――旧オーストラリア大陸の端のどこかにて。 青い空の下を湿った風が吹き抜ける。どこまでも広がる空から太陽の光が燦々と降り注ぎ、果てなく広がる大地を温める。雲の動きは少し早いくらいで、まだ雨もしばらく降らないだろう。新都心では十二月は冬の月だったが、ここ旧オーストラリア大陸では夏真っ盛りだ。 太古の人類の誰かが住んでいたかもしれない廃墟の骨組みに、海の底から何とか持ち込まれたブルーシートを被せて作られた掘っ立て小屋。その北側、ちょうど日差しを避けられる建物の陰で、簡素な
遠くの方から聞こえるような微かな喧騒で、テッカの耳がぴくりと動いた。 意識がふわりと浮いて上がる。目の前が暗かったので瞼を開けた。どうやら自分は眠っていたらしい。頬には固い机の感触がぺったり貼りついていた。剥がすように身を起こすと、 『起きた?』 机を挟んだ向こう側で、ミライカが頬杖をついて笑っていた。 「……? ミイちゃん……?」 テッカは何度か瞬きをする。自分の今までいた状況と、今いる状況が頭の中でぼんやりしていた。 「あれ……? <女王>は? EBEは……?
ビーッビーッと警告音が鳴り響く。同時にEBEの群れで覆われていた上方が、ぬうっとさらに深い影で塗り潰された。せっかく微かに見えていた太陽の光も遮られる。 『海面付近に巨大敵性反応あり! ――海に侵入してきます』 第三大隊の誰かが入れたオペレーションで、テッカドンは上を仰いだまま構えた。テッカは背中に伝う汗を感じながら、ごくりと唾を飲み込む。隣のミライカの雰囲気も引き締まった。 『おいでなすったね』 「うん。……<女王>しゃんのお出ましったい」 ざぶり、と影が海面を
今まで空だと思って見上げていた空間は、人工の太陽によって照らされていた。突き抜けるように青くて、層によって淀んでいたり澄んでいたりの差はあれど空気は軽くて、何より明るかった。 だからテッカは知らなかった。空だと思っていた空間の向こう側――新都心の外殻シェルターの向こう側の海の中が、黒くて重くて、暗いことを。 新しいテッカドンの腕は、以前のものとは違って四本とも同時に動かせるようになっていた。四つの腕で海水の塊をかき分け、ノアに貼りつくEBEを引き剥がす。上の左腕で頭部を
「……ミ、イ……ちゃん?」 炎谷テッカの乾いた呟きに、名刀ミライカがふっと笑った次の瞬間、 ガイン! 「あだ!」 テッカは文字通り飛び上がって頭をコクピットの天井にぶつけた。テッカドンがノアから出撃する前のオート操縦だったのが幸いだ。危うく前進が止まり、他隊員や機動隊全体に大迷惑をかけるところだった。慌ててコクピットに座り直すテッカだが、その丸く剥いた目は隣の席を凝視したまま。 『おいおい、作戦前からケガ作ってんじゃないよ』 ミライカはコクピットに戻るテッカを
その日の第五層には、霧雨が降っていた。 排気ガスで汚れた空気中にじっとりとした細かな水滴が漂って、その臭いを天井のついた第五層の空間に閉じ込めてしまう。風もないので不快な湿度が立ち込めていた。 空は濃い灰色だ。その正体がガスか煙か、はたまた人口の雲かの区別など誰にもつかない。第五層の人間にとって、そんな区別などどうでもいい。空の向こうに超大量の塩水の塊があることも、たぶん気にしている者はいなかろう。 テッカは剥き出しになった大きな下水道の、高架下の入口にいた。泥の上を
「オッケー! 僕、飲み物買ってくるからナナちゃんとろっくんは席に座って待ってて〜!」 そう言うが早いか、アッくんは黒いコートを翻して注文口に向かってしまった。 「ア、アッくん……!」 反射的に呼び止めようとして、でもアッくんがその前に注文の列に並んでしまったから、私の声が萎む。彼に背中を向けられてしまうと、つい『待って』と言いそうになるのは、昔からの癖だろうか。 本当は一緒に並びたかったし、その間もお話したかったけれど、しょうがない。せっかくアッくんが並んでくれたの
ここはリフィアタウン。緑の森が一面を覆う山々の合間に位置する町。澄んだ空気と草木の青い匂いに混じって、今は花と屋台に並ぶ甘いものの香りが広がっている。この町は「クッカ・ムナ」と呼ばれるお祭りの真っ最中だ。 雪の町フィンブルタウンから出たことのなかったミユキは、初めて目の当たりにする陽気で暖かな花の祭りの雰囲気に圧倒されてばかりだった。 「ええと、どっちさ行ったらいいんだべ……あっ、ご、ごめんなさい! またぶつかっちまった。あれ、さっきと何か景色が違う……?」 色とりど