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米国労働市場を通して眺める新型コロナウイルスの影響 (2)

〇 新型コロナウイルスの影響3月から始まり、4月一挙に露呈

 新型コロナウイルス感染禍に陥った経済がどのような影響を受けてきているのか産業別就業者の推移で眺めてみよう。表1は、2020年2月から4月にかけての産業別就業者の推移を前月比増減(万人)と前年比(%)で表したものである。
 最初に気付くことは就業者の前月比増減は3月から始まっているが、前年比でみると3月は全体、第ニ次産業、サービス業、そして政府部門もプラスを維持している。しかし、4月には一挙にマイナスに転じている。とくに民間部門は2桁の落ち込みを記録している。新型コロナウイルスの影響が4月に急激なインパクトを露呈したことがわかる。その影響はサービス業に強く表れており、第ニ次産業の1.5倍の落ち込みである。

表1 産業別就業者の推移

産業別就業者の推移

〇 4月、前年比で2桁の落ち込みを示す第ニ次産業

 鉱業は3月以降減少幅を拡大、4月時点では前年比でみて第ニ次産業平均を上回る落ち込みを示している。ただし、シェール・ガス・オイルに関連する原油・オイル採掘部門は4月時点でも前年を3%程度上回る水準を維持している。しかし、原油価格の大幅な下落が先行きのシェール関連の就業を維持できるか不透明である。
 建設業、製造業全体の動きは3月に前月より1桁程度の減少にとどまっていたが、4月には2桁の大幅な減少となっている。前年比でも4月は建設業、耐久製造業が11%を上回る下落を記録している。非耐久財製造業はそれでも10%を下回る落ち込みと耐久財に対して若干落ち込みは少ない。

〇 レジャー、小売りなど第二次産業以上の落ち込みを示すサービス業

 サービス業の就業者は第ニ次産業と同じような推移をしているが、その減少幅、前年比は第ニ次産業を大きく上回っている。リーマン・ショック時と比べてサービス業に就業者減少のしわ寄せが重くのしかかっているのが読み取れる。
 サービス業を個別に眺めると、大きな影響を示しているのはレジャー産業であり、それに小売業が続く。

 レジャー産業でもレストラン・飲み屋などが唯一3月から大きな減少をはじめ、4月は前月比549万人の減少、前年比では約47%の落ち込みを記録している。それに続くのはホテルなど宿泊業、美術館、博物館、娯楽施設などで働く就業者で、同じく3月から下落を始め、4月に落ち込みが鮮明となっている。とくに美術館、博物館など娯楽施設の4月の前年比は54%に迫る急激な低下を示し、4月時点で全産業中前年比最大の落ち込みとなっている。
 小売業もレジャー産業とほぼ同じ動きをしている。4月は3月から211万人縮小し、前年比ではマイナス13%を上回っている。

 新型コロナウイルスに直結する医療・介護の就業者は、3月前月より若干の減少を示しながらも前年比ではプラスを維持していたが、4月には前月より209万人減少し、前年比もマイナス8%を上回る下落となっている。非常に気になる数字である。

 外出制限やロックダウンの中で、人やモノの移動という点から運輸、倉庫業を眺めると、3月以降前月比では就業者数が減少を示してきているが、前年比では4月までプラスで推移している。生活必需品などの流通は維持されているようである。

 休校などの拡大が報告される中、教育について眺めると2月以降、月を経るごとに徐々に減少幅を拡大し、やはり4月に2桁の減少幅となっている。前年比では約1割の減少。教育については、州及び地方政府が施す公立教育がある。それらの動きを眺めると、前月比で州政府が3月から、地方政府は4月から減少を始めている。民間教育、すなわち私立の教育を含めて眺めると、高等教育の現場での人員調整が早く動き出していることが分かる。

〇 教育、それ以外の政府部門の調整は民間より軽微

 政府部門の教育については既に観察したが、教育以外の就業者については民間と比べ軽微である。連邦政府の郵便事業に関わる就業者も3、4月前年比でマイナス2%程度で推移しており、現時点では軽微な下落にとどまっている。ただし、リーマン・ショック時にも見られたように、不況の影響は民間に遅れて政府部門に現れ、その調整期間も長期にわたる可能性が高いことを理解しておく必要がある。

〇 パート・タイム就業者でも急減

 失業率のベースとなる「家計調査」ベースで正社員( Full-Time)とパート・タイム(就業時間週35時間以下)の就業者を眺めると、前年比で20年3月から両者とも下落に転じ、4月には正社員が1549万人、パートが784万人と急激にその減少幅を拡大している。

 この動きをリーマン・ショック時と比較すると、今回、正社員の落ち込みが急激でかつその落ち込み幅が格段に大きいことに加え、パート就業者も前年比で大きくマイナスになっている。

 リーマン・ショック時の就業者の下落過程では正社員の落ち込みの中でパートに切り替えて人手不足を補う姿が見られたが、今回の4月までの動きではそのような配慮も許さない急激な人員カットが展開していることが浮かび上がる。

Full-Time,パートタイム就業者の推移

図1 Full-Time,パートタイム就業者の推移(前年比増減、万人)

〇 急上昇したサービス部門の1人当たり所得

 産業別に就業者の推移を眺めてきたが、合わせて各産業別の1人当たり所得( Full-Time, 週給)も眺めてみよう。

 明確に示されているのは、20年3月前年比で第ニ次産業、サービス産業の就業者1人当たり所得は鈍化を示した後、4月には第ニ次産業就業者1人当たり所得はマイナスに下落する一方で、サービス産業は前年比9%近くへと急増している。結果的に、民間部門全体の伸びは7%を上回る水準にまで上昇している。民間部門全体、サービス業ともに4月単別の伸びは2006年の統計開始以来最高の伸びで、共に過去の伸びの約2倍である。

 リーマン・ショック時においても、Full-Time就業者が大きく減少する中でも、第ニ次産業、サービス業とも1人当たり所得の伸びはプラスを維持してきており、就業者縮小圧力の下でも優良人材の確保を行ってきたという姿が観察される。
 しかし、20年4月の第ニ次産業のマイナスの伸びは、非耐久財製造以外の鉱業、建設、耐久財製造で観察されており、新型コロナウイルスによる急激で大規模な操業停止に追い込まれた結果とみられる。その観点からもリーマン・ショック時とは比べようもない急激な一斉休業が実行されたということである。パートで代替していく時間もないということであろう。

 サービス業の高い伸びは、特に小売業で観察され、2月3月の4%台の伸びから4月は8%台へと倍増している。この背景には新型コロナウイルスが猛威をふるう前から進展していたネット販売への技術投資があると考えられ、それがさらなる優良人材の確保となっていると判断する。通信販売業者であるアマゾンは、パート・スタッフも多いと思われるが5000人規模の配送バックヤードの人員を集めているというニュースも伝えられている。

 専門、情報、金融・不動産も高い伸びを示しており、優良人材確保の動きから所得の伸びに反映していると考えられる。半面、新型コロナウイルスの影響が身近な運輸・倉庫、教育・医療・介護、レジャーなどの産業では伸びは弱い。

1人当たり所得の推移

図2 1人当たり所得の推移( Full-Time,週給、前年比、%)

表2 産業別1人当たり所得の推移( Full-Time,週給、前年比、%)

産業別1人当たり所得の推移


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