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米国:予想上回る回復示すも、不透明感払拭できず(4) = ウイルス再燃と財政支援の中弛みで、不透明感高まる =

                                                                                        2020年11月18日

 今回はレポート(2)で眺めた米国民間消費支出について、労働市場面から眺める。

〇 民間消費支出改善の下でも、労働力人口は改善せず

 7-9月期改善を示した民間消費支出であるが、この動きを労働市場の動きから眺めてみよう。図1は就業者と失業者を合わせたもの、すなわち労働力人口の推移である。図は前年比増加寄与度でしめしているが、今年10-12月期の数値は10月単月のものである。

労働力人口[2717]

図1. 労働力人口の推移(前年比増加寄与度、%)

 この図から分かるように、4-6月期就業者が急激で大幅な下落を示す一方、失業者もそれに対応するように急激で大幅な増加を示している。

 民間消費支出が回復を示した7-9月期には就業者の減少幅が縮小すると同時に、失業者の増加幅も縮小している。10月もこの傾向が継続している姿が示されている。

 問題は就業者と失業者を合わせた労働力人口の推移である。就業者減少幅の縮小、失業者増加幅の減少が進展する中で、労働力人口は4-6月期以降減少幅が縮小してきていない。

 この動きの意味するところは、就業者、失業者の改善は限られた人たちの間で起こっているということである。すなわち、急激な労働市場の悪化で労働市場から退出させられた人達が未だ取り残されているということである。

 民間消費支出の改善はこのような状況で起こっているのである。

〇 コロナ・ウイルス禍の下、多くの「取り残された人々」生み出す

 労働力人口も含めた労働市場の推移を表1で眺めてみよう。表1では、労働力人口に学生など非労働力人口を含めたものを経済人口として示し、前年比増加寄与度で表している。

表1. 労働市場の推移(前年比増加寄与度、%)

労働市場(表)[2719]

 労働力人口の推移を眺めると、今年4-6月期1.8%減、7-9月期1.3%減と0.5%ポイント減少幅が縮小している。その内訳を眺めると、就業者が7.5%減から4.5%減と3.0%ポイント減少幅が縮小し、失業者は5.7%増から3.2%増へと2.5%ポイント増加幅が縮小している。10月について眺めると、就業者が1.1%ポイント減少幅を縮小する一方、失業者が1.2%ポイント増加幅が縮小し、結果的に労働力人口が0.1%ポイント悪化している。

 この流れから見えてくることは、就業者の減少と失業者の減少とがほぼ同じで、結果的に労働力人口に大きな改善がみられていない点である。

 これを裏付けるように、労働参加率は4-6月期に60.8%で底を打ったが、その後の上昇は限定的な推移となっている。

 すなわち、労働市場に参入する割合が大きく上昇しない状況で、就業者と失業者のキャッチボールが起こっているという姿である。

 問題は、このような状況が経済人口の安定した伸びの下で起こっているということである。すなわち、非労働力人口が減少していないことを意味している。

 非労働力人口は4-6月期2.2%増、7-9月期1.8%増、そして10月も1.8%増であり、依然として高い伸びを示している。コロナ・ウイルス感染拡大により労働市場から退出させられた多くの人達が、未だ労働市場に復帰することさえ許されない状況を示唆している。

 非労働力人口全てが労働市場に参加することが完全雇用とはいわない。しかし、非労働力人口の中で職を求めている人たちを含めた潜在失業率を計算すると、4-6月期17.1%、7-9月期12.8%となる。7-9月期でみても公表された失業率8.8%より4.0%ポイントも高い。10月においても、潜在失業率は10.6%へと更に低下するが、公表失業率より依然4.0%ポイント高い。

 このようにコロナ・ウイルス禍において多くの「取り残された人々」が生み出されている。これは所得格差を一段と広げる要因であり、コロナ後を考えても社会経済活動の活性化に大きな足かせとなる。

〇 コロナ・ウイルス再燃の下、個人所得を支えた経常移転に中弛み

 表2は経常移転の対個人所得に対する前年比増加寄与度である。

表2. 経常移転の推移(対個人所得、前年比増加寄与度、%)

経常移転(表)[2718]

 失業者や労働市場から退出させられた人々などに対する経常移転の受け取りが、個人所得の高い伸びを生み出していることは既に眺めてきた。

 とくに大きく寄与してきたのは失業者保険給付である。失業者保険給付は、個人所得に対する寄与度でみて、4-6月期5.7%、7-9月期4.0%と高い伸びを示している。但し、月次で眺めると、失業者の増加幅縮小から、8月以降大きく低下、9月には1.8%の個人所得押上に止まった。

 他方、経常移転の「Others(その他)」に計上されている「給与保護プログラム」は総額2兆ドル規模で4月から開始されてきたが、4-6月期個人所得に対する寄与度で7.3%と大きな伸びを示した。7-9月期には1.8%とその勢いが大きく鈍化している。月次で眺めると、8月には1.2%まで低下、9月に2.6%に回復したが低い伸びである。

 以前のレポートでもお示ししたが、このプログラムは中小企業を軸に企業や事業所が支払う従業員の給与を優先的に助成し、雇用維持を目的としている。従来の「経済安定化装置」である「失業者保険給付」は失業後の給付であるのに対し、このプログラムは失業を抑制する目的で創設されたものであり、政府が積極的に中小企業の雇用確保に乗り出したという施策である。

 また、このプログラムの活用をさらに促すため、6月初旬に上院で「プログラム」の修正案が下院に続き可決され。しかし、実績をながめると、非労働力人口の増加も含め、その運用が不十分である。

 議会で財政支援が議論されてきたが調整がつかないまま大統領選に入り、その大統領選や上院選挙についても共和党、民主党が対立している現在、有効な支援策策定が遅れ、財政支援に中弛みが出そうである。

 現時点で米国のコロナ・ウイルス新規感染者が1日18万人を超えたという報道が出てきており、ロックダウンの再開が叫ばれる状態にある。

 他方、コロナ・ウイルス・ワクチンの早期実施も視野に入ってきたといわれるが、ワクチンが早期に実施されたとしてもコロナ以前に戻るには1年は必要ではないだろうか。

 コロナ・ウイルス拡大阻止に全力を注ぐ必要があるが、その裏側で「取り残された人々」の存在を常に配慮した「選択と集中」による迅速で持続的な財政施策が急務である。

 7-9月期回復の姿を示した米国であるが、コロナ・ウイルス再燃と財政支援の中弛みから、先行きに大きな不透明感が漂う。

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