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米国労働市場を通して眺める新型コロナウイルスの影響 (1)

 新型コロナウイルスが世界に蔓延している。各国ではその対策に日々追われる状況が続いています。各国の状況や対応は様々でその実情はいまだに鮮明なものとはなっていません。

その意味でも急速に感染者数世界一となってしまった米国ついて、労働市場の状況を通して新型コロナウイルス禍にある経済の姿を眺めてみたいと思います。

〇 リーマン・ショック後に積み上げてきた就業者が一瞬にして消滅

 米国で新型コロナウイルスの感染者の急増が始まったのは3月中旬からと伝えられています。これを裏付けるように、米国の就業者の水位は図1に示されるように、3月から一転下落、4月には前月比2054万人減の1億3105万人となった。
 この就業者水準は比較される08年2月以降に経験したリーマン・ショック時の最低水準に迫るものであり、それも4月1ヶ月分の下落で引き起こされた強烈な減少である。

就業者

図1 米国:非農業就業者数の推移(季節調整、万人)

 図2はリーマン・ショック前の08年2月から対前月増減人数を累積したものである。10年3月にリーマン・ショック前のピーク時から865万人減少し、その後反転、14年3月に元の水準に戻ったことを示している。調整期間は実に6年間である。

 この流れで至近時点を眺めると、20年2月に1406万人に達した後減少に転じ、同4月にはマイナス736万人に下落している。14年3月以降積み上げてきた就業者が一瞬にして消滅し、さらに10年3月に記録したリーマン・ショック時の最低水準に残り129万人に迫る落ち込みである。過去6年間積み上げてきた就業者が簡単に消滅したことを意味する。

就業者類話

図2 米国:就業者の推移(季節調整、08年2月以降対前月増減、万人)

 同様な形で民間部門の就業者の推移を眺めたのが、図3(第二次産業)と図4(サービス業)である。 第二次産業(鉱業、建設業、製造業)は近年建設業がリーマン・ショック前のピークを上回ってきたが、製造業の就業者はピーク時の水準を回復できておらず、その状況下で新型コロナウイルスの影響を受けた姿が観察される。

 他方、就業者拡大を牽引してきたサービス業も新型コロナウイルスの影響を大きく受け、20年2月に1445万人まで積み上げた就業者は4月にはマイナス354万人へと急減している。

米国:第二次産業就業者の推移

図3 米国:第二次産業就業者の推移(季節調整、08年2月以降対前月増減、万人)

米国:サービス業就業者の推移

図4 米国:サービス業就業者の推移(季節調整、08年2月以降対前月増減、万人)

 2054万人という4月の急激な就業者の減少に対して、その8割程度が一時的な休職、休業によるものということが報告されている。現在の外出規制やロックダウンなどの規制が緩和されれば復職が早いということを喧伝したいということであろう。

 2054万人の8割は1643万人となり、この就業者が規制緩和で早期に復職したとすると、4月時点の就業者の減少は411万人程度となる。これまで毎月の就業者増加数が20万人を超える景気拡大とされてきたことを考慮すると、411万人の減少を解消するには21か月程度必要である。

他方、新型コロナウイルスの影響を受ける前(2020年3月)の積み上げられた就業者1406万人が一時的な休職、休業によるものだと想定すると、4月時点での就業者の減少人数は648万人となり、5月以降景気拡大がつづいたとしても648万人の減少幅を解消するには約32ヶ月必要である。

 これら単純な計算が示唆するのは、5月から急速な景気拡大が継続しても、新型コロナによる就業者の減少を解消し以前の就業者水準に戻るには、少なくとも21~32ヶ月(2~3年間)必要ということである。この場合は2次、3次感染が起こらないことが前提であり、就業者の落ち込み解消に必要な期間は長期化する可能性も高い。


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