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「PERFECT DAYS」からの問い


こんにちは。パーソナルコーチをしている近藤あつこです。今日は先日観に行った「PERFECT DAYS」があまりにも素晴らしかったので、noteに書いてみることにしました。このタイトルにしたのは、私の感想だけに留まらず、コーチとしての「問い」も書いてみようと思ったからです。それにより、更にこの作品を通じて、自分にとってのPERFECT DAYSとは?を考え、より作品を身近に感じて頂けたらと思っています。散りばめた問いも一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

1.あらすじ

こんなふうに生きていけたなら

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く
平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を
生きていた。

同じ時間に目覚め、同じように支度をし、
同じように働いた。

その毎日は同じことの繰り返しに
見えるかもしれないが、
同じ日は1日としてなく、
男は毎日を新しい日として生きていた。

その生き方は美しくすらあった。
男は木々を愛していた。

木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
それが男の過去を小さく揺らした。

公式サイトより

この映画は、主人公の平山の日常を描いた作品です。スカイツリーが見える小さなアパートで一人暮らしの日常を切り取った映画の中では、特に大きな事件や出来事が起こるわけではありません。淡々と続いていく平山の生活を、観客は見続けることになります。

キラキラした女子のルーティーン動画とは真逆と言っていい中年男性の全くキラキラしていないルーティーン。それだけ聞くと、そんな映画の何が面白いのかと、そんな気持ちにもなる方も中にはいるはず。

そこには、面白いとは違う圧倒的な味わい深さがあります。観客一人ひとり、この映画を見終わって持ち帰るものは違うと思いますが、見終わってからも、じわじわと味わうことが出来る作品です。今日は、この映画の味わい深さを、5つの切り口から書いてみます。

以下、ネタバレを含みますので、映画を見てから読みたい方はここまででお願いします。


2.繰り返される日常の中で大切にしたいもの


平山の生活は、毎日とても規則正しく描かれています。外から聞こえてくる掃き掃除の音で目を覚まし、布団を畳んで、前の日の夜に読んだ本の最終頁を確認する。植木に水をやり、髭を剃り、作業着を着る。玄関前に綺麗に並べられた小銭入れや鍵をポケットに入れて、一歩外に出れば、少し笑みを浮かべて天気を確認する。

トイレ掃除の仕事は、手際良く、小さい箇所も丁寧に行う。昼には、神社のベンチに座り、木々を眺めながら食事をする。仕事が終わったら、銭湯に行き、ゆったり湯船に浸かり、自分の体も綺麗に洗う。行きつけのご飯処に行って、帰宅後は、古本屋で買った本を読んで、寝る。

平山の家の中は、華やかさは無いものの、自分が生きていく上で必要なものがある状態です。そんな家からは、平山が、自分が何を大事にしたいのか、どんなことに価値を置いているのかを自分自身が分かっている人であることが伝わってきます。

過度に新しいものを求めることはなく、今持っているものを丁寧に扱う姿勢からは、削ぎ落とされた美しさが滲み出ています。継続する毎日、それが人生そのものだとしたら、この丁寧な所作と削ぎ落とされた美しさ自体が平山の人生そのものと言えるでしょう。

<問い>
・日常の中で、何を大切にしたいですか?
・どんな価値観を持っていて、それを生活の中に取り入れていますか?


3.さまざまな感情とその奥にある願い

この映画のハイライト、観た人の印象に強く残るシーンは、最後に車を運転しながらアップになる平山の表情という方も多いはずです。

口角を上げて笑顔だった最初の表情からからは、嬉しさや喜び、そして、次第に、悲しみ、寂しさ、後悔なのかやるせ無さなのか、様々な感情が涙と共に色々なものが溢れ出てくるシーンでした。

感情は、一括りには出来ないもの、色んな感情が同居している、そんなことを改めて感じたシーンでもありました。それ位、私たちは常に複雑なものを持ちながら生きている。それは、平山という人物だけではなく、全ての人に共通することです。

私たちは、色んな感情を持っているし、持っていていい。そしてその感情の奥には、必ず、その人の「願い」があります。平山自身にも、深い願いを感じました。この映画の最後は、美しい朝日のシーンで終わります。その朝日からは、どんな状態であっても、朝は来る。「願い」という希望を持ち続けようというメッセージを受け取りました。

<問い>
・あなたの中には今、どんな感情がありますか?
・その感情の奥には、どんな願いがあるのでしょうか?

4.分断とつながり

平山は、寡黙で、決して社交的なタイプでもありません。トイレの清掃員という仕事柄、時に冷たい対応をされることもあります。そこにいるのにいない「無きもの」として、触れるのも避けられる「汚いもの」として扱われることが、日常では起こっています。そこには明らかな分断があります。

平山は、嫌な顔をせずに、それを淡々と受け入れていますが、そんな日常の中でも、つながりを感じるシーンが大切に描写されています。子どもが小さく振ってくれたバイバイの挨拶、顔を見たことも無い同士の不思議なゲームのやり取り、昼食を食べる時に隣にいつも座っている女性とのぎこちない挨拶など、些細な関わりの中からも、決してひとりで生きているのではないことを思い出せてくれるシーンがあります。

スナックのママの元夫でがんで余命が少ない男との会話もその一つ。「影は、重なり合うと濃くなるんですかね。 結局なにもわからないまま、おわっちゃうなあ」と呟く男に、影を重ね合わせ、「濃くなってますよ!変わらないなんて、そんなバカなことはないですよ!」と感情のこもった口調からは、平山の心の叫びが伝わって来ました。

<問い>
・どんなつながりの中で生きていますか?
・つながりを感じることに、どんな意味がありますか?

5.今、この瞬間を生きる

姪っ子のニコとの会話の中で、平山がニコにいう「今度は今度。今は今」というセリフ。一瞬一瞬の今に居続けることを大事にしている平山の生き様を感じます。

平山の同僚である若い青年のタカシは平山に問います。「どうせ、すぐ汚くなってしまうのに、なんでそんなに綺麗にするんすか?」と。先のことを考えたら汚れること位、勿論分かっている平山が、今この瞬間に自分の出来る最善を尽くす姿勢からは、プロフェッショナル感を感じずにはいられません。

天気が毎日変わる様に、神社で見る木々が毎日違う。自分が撮った木漏れ日の写真がどれも違う。私たちは、全く違う「今」に居続けている

映画の中で、一つ象徴的なシーンが、田中泯さんが演じるホームレスの踊りです。あの踊りも、どれ一つとして同じではなく、その瞬間に創造されるもの。平山が、目を細めながら眺めてる表情は、とても印象的です。そこには、今に居続けてる彼への敬意の念があるのでしょう。

<問い>
・今にいるために、できることは何ですか?
・この瞬間を生きたら、どんな可能性が広がりそうですか?

6.あなたにとっての「PERFECT DAY」とは?

映画のキャッチコピーは、<こんなふうに生きていけたら>。どんな風に生きていきたいか、どんな毎日を過ごしたいかは、一人ひとり違うもの。一人ひとりの「PERFECT DAY」も違います。

人生には色んなことが起き続けます。楽しいことだけでは決してない。後悔もやるせないことも、自分ではどうしようも無いことも起こるでしょう。それでも、毎日は続いていく。

一番最後の象徴的なラストの5分間。平山の選んだ一曲は、ニーナ・シモンのFeeling Good。この曲に沢山のメッセージが込めらていることを、私達は、平山の表情から体感することが出来ます。

It’s a new dawn
It’s a new day
It’s a new life for me
And I’m feelin’ good

映画の中でも流れるリード・ルーが歌う「Perfect Day」の歌詞も同様です。

どんな日であったとしても「ああ、なんて完璧な一日だろう」と思い、一期一会の人とのつながりを感じながら、自分の命を生かしていけたら。何があっても、どんなことが起こっても、そんな風に捉えることができたら、最強だと思うのです。そんなPERFECT DAYの積み重ねが、PERFECT DAYSになっていく。

どんな捉え方をするか、何を選択するかも自分次第。何かが足りない、今のままではだめだと欠乏感や不足感を強く感じている人にこそ観ていただきたい作品です。

捉え方次第で、人生はどれだけでも豊かになる。そんなことをこの作品を通じて改めて教えてもらいました。

<問い>
・あなたにとっての「PERFECT DAY」は何ですか?

7.最後は、田中泯さんのインタビュー

最後は、この映画の美しさと素晴らしさを表現し尽くしていると感じた田中泯さんのインタビュー動画で締めたいと思います。

きっと、ずっと心に残り続ける作品。

今、この時に、映画館に行けたこと、この映画を観れたこと、このnoteを書けていること、あなたがここまで読んでくださったこと。どれも全て当たり前のことじゃない。奇跡の様な連続の結果なのだと思っています。

一つたりとも同じことはない。
私たちは一瞬一瞬を生き続けている。

その美しさと尊さを、
改めて思い出すことが出来た作品でした。

読んでいただき、ありがとうございました。


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