島立美術館ヨコスカ西海岸

「片岡昌アトリエ・島立美術館ヨコスカ西海岸」より、開廊日や展示についてお知らせします。

島立美術館ヨコスカ西海岸

「片岡昌アトリエ・島立美術館ヨコスカ西海岸」より、開廊日や展示についてお知らせします。

最近の記事

島日和<ひょうたん島後記>

       3-2024   池田良 窓辺いっぱいに、様々なプリズムが吊り下げられて、キラキラ輝いている。 部屋の中は虹の洪水。木漏れ日のように揺れて降り注ぐ、虹のシャワー。 「素晴らしいでしょ、しかもデジタルアートじゃない。だから光の音が聞こえますよ」 そう言って、くるりさんは笑った。 僕には光の音は聞こえないけれど。でも、その、虹の輝きのゆらめきが、音楽のようにリズムを刻んでいる。 僕も部屋の天井に好きなものを色々吊り下げているが、こんなに力強い雰囲気を作り上げては

    • 島日和<ひょうたん島後記>

             2-2024   池田良 神様のお引越しの日。 神官たちは、声で包む。見えない(見てはいけない)神様を。 この世界は思い込みで回っているらしいから、宗教は究極のエンターテインメント。 島のはじっこ。半島とつながるあたりにあるソレイユの丘は、なだらかで遮るもののない広い大草原で、いつも四方八方から風が吹き抜け、四季折々の花が咲き乱れている。 今はその一面が水仙の花に埋めつくされ、甘い匂いに僕たちはうっとりと呆然自失。 そんな丘に縄文遺跡の痕跡が発見されたのは

      • 島日和<ひょうたん島後記>

                1-2024   池田良 宝物の隠し場所は美しい所でなくてはいけない。 でなければ、どこに隠したのか、分からなくなってしまうから。 僕は今までに、どこに隠したのか、分からなくなってしまった宝物が色々ある。 その中には、心無い人がうっかり持って行ってしまったものもあるけれど、ほとんどは、僕が自分で隠した場所が分からなくなっているのだ。 宝物はどれも、僕にとってはとても大切なものなので、僕は、この広い地球の上でぽつんとひとり、途方に暮れて立ちつくす。 まれに

        • 島日和<ひょうたん島後記>

                 12-2023   池田良 12月になると、その寒さと暗さに正比例するように、皆が明かりマニアになる。 薄暗くなると草の中に埋もれた家々に明かりが灯り、そのそれぞれの家の存在が明らかになるこの島でも、人々がテラスや庭にも可愛らしい明りを色々飾って楽しんでいる。 冬の乾燥した空気は透き通っているから、ことさら明かりをキラキラと輝かせる。   入り江に泊まっているクルーズ船も、この季節は色とりどりの明かりを身にまとって、いつもよりも華やかなたたずまい。 「夢のよ

        島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 11-2023   池田良 ここはどこなのだろう。 大都会の真ん中の、きらびやかな人々が行きかう雑踏から、ほんの少しずれた横道の突き当り。 道行く人も少ない通りにぼうっと佇むそのビルの入り口を、僕は見つけた。 新聞の片隅に小さく紹介されていた、古いビルの中のその店。「地球儀屋」 その名前と、なんだかよく分からない紹介文に好奇心を刺激されて、僕はそこに書いてあった住所を頼りに店を探し歩いた。 都会の真ん中の、大きな駅のそばの、有名なビルの裏と書いてあるんだから

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                   10-2023   池田良 「君って、呼吸がかなり浅いですよねえ」 そう言ってキツネは、斜めに僕を見て薄ら笑い。 十三夜のお月見の宴に、僕は招待されて、キツネの家へと出かけて行った。 手土産は、酔えないクラフトビール。 巣穴の入り口のような野趣のある可愛らしい玄関から、くねくねと長く続く外廊下には、おもむきのある屋根があって、両側には朱塗りの低い欄干も付いている。 「以前に伺った時は、妹さんのお嫁入りの時だったかしら。もう何年も昔」 僕がそう言うと、キ

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 9-2023   池田良 もう夏も終わりだというのに、まだ空気はもわもわと暑くて、台風が送り込む大量の水蒸気が島を包み込み、その暑い湯気の中で皆は声もなくひっそりと呼吸を繰り返す。 遥か南方の海上に渦を巻く台風の匂いがもうかなり強く漂っている。 僕は乾燥に弱くて、冬になると息をするのもつらくなある時もあり、湿度百パーセントの時は、まるでキノコか苔のようにうっとりと夢見心地になるのだが、いくらおしめりな日が好きと言っても限度というものがあるもの。 こんなにぐし

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                   8-2023  池田良 ネコの家の一番奥、日の当たらない小さな書斎の棚の上に、古びたバンドネオンが、ひっそりと置かれてある。 ネコは昔、バンドネオン奏者だったそうで、音楽家たちと楽団を組んでは、街から街へと汽車を乗り継いで、旅をしていたそうだ。 「貧しい楽団だったけれど、楽しい旅の日々でしたよ。いろいろな所で演奏してね。港町の大きなデパートの片隅の小さな会場とか、雪国の古い造り酒屋の主人が始めた、ハイカラなビアレストランとか、セロ弾きの少年紳士と仲良くな

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                  7ー2023    池田良 ずいぶん長い間、雨が降り続いた。 こんなにたくさんの水をいったい何処にためておけるのだろうかと、僕たちは空を見上げてはため息をつくばかり。 ネコは雨の日はあまり外にも行けず、いらいらとした様子で部屋の中をぐるぐる歩き回り、長椅子に座ってパズルをしている僕の頭の上をぴょんぴょんと飛び越えてみたりして気を紛らわせていた。 久しぶりに晴れた朝。ようやく雨のシーズンが終わったのだろうか、それともほんの中休み? 庭の草は雨の残りの露をたっ

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                  6-2023   池田良 小さな明かりを、家の中にも外にも、あちらこちらにたくさん灯している。 雨の降り続く暗い日々には。 それが優しく、心を温めてくれるから。その温かさが、気持ちをゆったりゆたかにしてくれるから。 小さな明かりは可愛らしく輝いて、僕の心を楽しい方へと導いてくれる美しい力がある。 ・・・でも、それは本当に深く寂しい時には、より悲しい方へと心を引きずり込む、ほの暗い力でもあるのだけれど・・・ 僕は今はもう、ずっと上手に小さな楽しみを身にまと

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                    5-2023   池田良 地面の下の世界は、どろどろと揺れながら移動している流動体なのだろうか。 たくさんの球根たちが、庭の土の中をその年の気分で、あちらに行ったりこちらに行ったり。去年とは違う場所で、爆発するように咲き誇ってみたり、知らんぷりで葉も出さなかったり。 僕の庭は今年、フリージアの花の群生で、むせかえるような色と香り。 こんなにたくさんの球根がどこから移動してきたのだろう。それとも今まで、何年も何十年もぐっすりと眠り続けていたのだろうか。

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 4-2023   池田良 電子レンジが壊れてしまってから、もう何か月。 掃除機もあまりの吸い込みの悪さに使っていない。ケイタイも、「そんなに電話に出ないなら必要ないでしょ」と、ネコに契約を解除されてからそのままだし・・・。 それでも僕は困らないのだ。持っているのが当然のようなものたちが僕にはなくても。僕は楽しく暮らせている。 蒸し器からはいい匂いの湯気がしゅわしゅわと上がって台所をやさしく包み込み、かわいい刺繍の箒は音もなく部屋を清める。ケイタイがなくて待ち合

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 3-2023   池田良 空気の中に、色々な花の匂いが混然一体となって溢れている。 なかでも抜きんでて強いそれは沈丁花。 広場いっぱいにたくさんの花や木の苗が並んで、食べ物や雑貨の屋台も一緒に、どこからともなく花市がやってきたのだ。 ずいぶん久しぶりのような気がする。 「この前花市が来たのはもう7,8年くらい前じゃないの?」 そう言ってネコは、花の苗の間をしゃなりしゃなりと歩き回る。 「・・・やっぱり、野の花の匂いよりきつい」 島の人達は、春の暖かさと花々

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                   2-2023   池田良 カーテンの向こうが仄かに白くなってくる明け方に、僕はうとうとと、眠りと覚醒のあいだをさまよい、夢を創造しているような時を過ごす。 それは、鈍く光る古い金屏風の前を、揺れる蝋燭の明かりを手にゆっくりと進んで行くときの浮遊感。事実ではない幼い頃の思い出。他人がのぞき込んでいる僕の日々。僕が作り上げた僕の過去。 子供の頃の思い出は、甘くて苦い丸薬の味がする。 子供は大人よりも工夫のない、むき出しの感情表現をしてしまうから、僕は、小さ

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 1-2023   池田良 冬の幸せは暖かいものに包まれる幸せ。 陽だまり、熱いオフロ、スープ、ストーブ、ふわふわ毛布。暖かい毛布は、敷き毛布にも掛け毛布にもして、その間に挟まって僕は冬眠をする。何だかミノ虫みたいと、ちょっとひとり笑いして。 この暖かさがあれば、分厚い雲が心に重くのしかかる、雪が降り止まない日々でも、嵐のような北風が嬌声を上げて庭を走り回る日々でも、ぬくぬくと幸せに包まれて高みの見物をしていられる。 勝手にやってくれ。吹雪でも破壊でも争いでも

          島日和<ひょうたん島後記>

          島日和<ひょうたん島後記>

                 12-2022   池田良 僕はネコと一緒にいることがとても心地いい。 僕は、ネコに特別これといった魅力を認識できないのだけれど、その穏やかな呼吸が一緒にいて心地よく、僕の呼吸と、合っているような気がするのだ。 だからなんだかんだ言ったって、僕はきっとずっとネコと一緒にいるのだと思う。 たとえ嵐のようなつむじ風に巻き込まれて、どこか知らないところへ飛んで行ってしまったとしても、いつでも、やっぱりネコのいるこの島へ戻ってくるのだ。 ・・・もしかしたら、ここにい

          島日和<ひょうたん島後記>