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外で使うピンセットについて・・・

こんにちは!
AtelierΦの根津です

皆さん、この記事を読んで下さっている方の中には、標本を作っている方もいらっしゃるかと思います。
勿論、標本製作の際にもピンセットは使うのですが・・・

今回は、その標本の材料を採集する際に使うピンセットの話を書こうと思います。

たかがピンセット、されどピンセット

ピンセットと一言で言っても様々な形と用途が有ります。
数百円で購入できる物も有れば、数千円する物も有ります。では、何が違うのかと言う事ですが・・・

材質の違い。

ピンセットの材質として一般的なものにステンレスが有ります。ステンレス鋼と一言で言っても様々な物が有り、元は鋼にクロム、ニッケル等の金属を混ぜる事によって錆びにくくしています。混ぜる金属の種類や割合によって、熱処理(焼き入れ、焼き戻し等)に向く物や、耐錆に特化したもの、加工しやすい物などが出来上がります。

最近では、チタン製の物等も有り、強度や耐腐食性も良く軽量なので携帯するのには便利ですが比較的高価になってしまいます。

この他にも電気を通さない樹脂製のものや、セラミック製の物、磁化しない黄銅合金(真鍮)物も有りますが、野外で使う用途としてはステンレス製の物で十分かと思います。

作り方の違い。

ただ板を二つに曲げただけで有れば楽に短時間で作る事が出来ますが、削ったり溶接をしたりすれば工程が増える分、価格も高くなってしまいます。例えば、掴む際の力を極力少なくする事によって力加減がしやすい物等では、接合部分の肉厚が薄く出来ていたりしますし、先端が細い物では、先端強度を出す為に熱処理が加えられていたりします。

接合部分の板厚が薄く加工されている物

精度の違い

同じ材質、同じ作り方で有っても、製品として作る際にどうしても個体差が出来てしまいます。その個体差が少なく、精密に出来ているものはやはり高価になります。

用途の違い

例えば、沢山の人が使う一般的な物で有れば、生産数も多く価格も安くなります。しかし、用途が限られ、それほど使う人も居ない様な物では、価格も高くなってしまいます。

以上の様な事から、ピンセットの中でも様々な金額の物が有るのです。

では、どの様な物を採集に使えば良いのかという事ですが・・・

その環境や、対象物によってかなり変わってきます。当たり前の話ですが、10センチ大の毬栗を拾うのに長さ12センチ位のピンセットでは掴めませんよね?
逆に、1センチに満たない川虫を掴む際、30センチも有るピンセットでは潰してしまったり、力の加減が難しかったりもしますよね。
その様な事から、その時、その場所、その環境で変えていく必要が有ります。

そもそも何故ピンセットを使うの?


そんなピンセットですが、何故使うのかを昆虫採集やビーチコーミングなどを行う前提として考えてみましょう。

1、              有毒生物・・・これは書かなくても分かると思いますが、毒にやられない為ですね。攻撃範囲や、有毒部分を考えた長さが必要になります。勿論しっかりと保持出来る事も大前提です。

2、              狭い場所や、穴から引き抜きたい→採集の際、木の洞や岩の隙間等、指では入る事の出来ない隙間から追い出したり引き抜いたりする際に使用します。

3、              混ざった物の中から的確にピックアップしたい→例えば、ごちゃっと混ざったドングリの中から、虫穴が開いている物だけをピックアップしたい場合や砂利の中から小さい貝をピックアップしたい時等もピンセットが必要になってきます。

4、              死体等衛生的でないもの→素手では扱いたくないけれど回収しないといけない物等を掴む際も必要になってきます。勿論、使用後のピンセットを持ち帰る際も気を付けて取り扱います。

5、              軍手、手袋を外したくない→フィールドで作業する際、いちいち手袋を外したくないけれど、細かい作業がしたい。咄嗟に捕まえたい時等の場合にもピンセットが活躍します。

6、              水の中に手を入れたくない→冬場の冷水や、撮影機材を扱う際、手を濡らしたくないけれど、水中の物を掴みたい時にもピンセットを使います。

ざっくりですが、その様な事を考えて用意していくと良いと思います。

有毒生物

極力距離を置きたいのである程度長目でしっかり保持できる形が無難です。大型のムカデなどは掴んだ際にピンセットに絡みついて登って来る事も有りますし、ハチ等は飛んできて刺される事も有ります。その点を考えて用意します。

狭い場所

ピンセットでなくても針金や引っ掛ける道具を自作するのも有りです。サブ的な位置づけで、用意していなかった際等に使う感じかと思います。狭い場所に無理やり入れる事も考え、そこそこ強度の有る物を用意する方が良いです。

ピックアップ

対象の物のサイズに合ったピンセットを用意する様にします。小さな物用に用意するピンセットは精度の良い先の細い物が良いですが、フィールドに持ち出す際には、先端を体に刺したり、ぶつけて折ったりしない様に注意が必要です。画像の様に眼鏡ケース等を改造して運搬するのも良いと思います。

眼鏡ケースを利用した運搬容器(必要に応じてスポンジゴム等で押さえる部分を製作します。)

不衛生な物

使用したら密閉出来る袋等に入れて持ち帰り消毒する様にします。用途から考えて、そんなに金額の高い物でなくて良いと思います。

手袋を付けたまま使用

咄嗟に使ったりする事を考えると15~25センチ程度でしっかり保持できる先端形状の物が無難かと思います。携帯する際には、画像の様な物で身に着けるか、ベルト等に差しておくと良いかと思います。

水の中

これも極力長い方が良いと思います、形状は環境によって変わってきますが好みの物を選んで良いと思います。

どんな形が有るの?

形ですが、画像の様にピンセットの形状にも色々あります。

全体的には、ストレート型、先曲がり型、ルーチェ型等が有ります。使用する環境や、好みで選んで頂くのが良いと思います。細い穴の中から引っ張り出す際には、ルーチェ型が使用しやすく、先端の角度を寝かせたい場合等は先曲がり型かルーチェ型の方が使用しやすいです。

ルーチェ型
寝かせて使用しやすい
細い穴などの作業は、持ち手が邪魔にならずに視認しながら使用できる。

先端の形状

内側面の形状は画像の通りです。何もないツルっとしている物、滑り止め加工がしてある物、滑り止めが綾目の物、ドベーキー鉗子等が有ります。

対象物を傷付けたくない場合は滑り止めの無い物を、しっかり保持したい場合は滑り止めの有る物やドベーキー鉗子等を使う様にします。

滑り止め付き
滑り止め(綾目)付き
ドベーキー鉗子
ドベーキー鉗子
ドベーキー鉗子の嚙み合わせ
鉤有り

厚さ

厚さですが、厚ければ厚い程、剛性が良くなり変形しにくくなります。逆に薄い(細い)と狭い所には入りますが変形しやすくなります。接合部分が厚いと、掴む力が必要になります。ピンセットを数多く使う場合、この部分が結構重要になり、厚いと使っていくうちに使い手に疲労が出ます。なので、本体の厚みと接合部の薄さを確認し、出来れば実際に使用してみて選ぶと良いと思います。

熱処理

先端部分に、焼き入れを行っている物も有ります。焼き入れを行っているので硬くなっており変形しにくいのですが、逆に無理に力を入れると折れてしまう為、細い物等は注意が必要です。先端のみを硬くする意味合いでは、タングステン合金等をチップ状にしてロウ付けしてある物も有ります。滑り止め部分が硬い為、硬い鉱物や金属などに使用していても摩耗しにくい利点が有ります。

タングステン合金のチップが付いている物(画像は持針器)

鉗子でも良いのでは?

ピンセットと比べ、力強く把握出来て、バネの力が無い鉗子ならば、作業によってはピンセット以上に活躍すると思います。また、鉗子の中には把握した状態で保持できる物や持針器なども有ります。ただし、ピンセットと比較して重さも出てしまうので野外で使う際には考える必要が有ります。

麦粒鉗子
持針器

フィールドへ持っていくために…

という事で、実際に選んでフィールドに行くのですが・・・

ここで一つ、フィールドあるあるを!
そう、恐怖の妖怪「ピンセット隠し」が出るのです。(笑)
大体、腰ベルトやリュック等に差して歩いていると気づいたら無くなっている!?

なんて事が結構あるのです。滑落しかけた際に落としてしまったり、落ち葉の中や砂の中に埋もれてしまったり・・・
勿論、何処かに置き忘れる事だってあるでしょう。これが、自分の部屋なら見つけられる確率は高いですが、野外なら絶望的です。

なので、ピンセットのケツに穴を開けてしまいましょう。
勿論ステンレス鋼ですので、簡単には開かないのですが、気合を入れれば開かなくもないです。
注意する点は、接合部分のスポット溶接部分に穴を開けない事。
(強度が下がって、最悪2枚の板バネになってしまいます。)

接合部分(スポット溶接で結合後、研磨されている)

穴を開けたら、二重リングを取り付けます。
(丸カンだと、気づかないうちに開いて外れる可能性が有ります。)
そこに紐を通してカラビナで装備に付ければもう安心!!(笑)

リングを通した状態(穴開けは、溶接位置を考えて極力端の方に開けます。)

あとは、転んだ際にピンセットが曲がったり自分に刺さったりする危険性が有るので塩ビ管などに入れて携帯すると良いです。
自分は、画像の様な米軍の発煙筒入れを加工して使用しています。

塩ビのパイプにキャップを付けた状態
キャップの脇には水抜き用の穴を開けています。
発煙筒入れに塩ビのパイプをセットした状態

ちなみに、ピンセットと共に折れ尺も入るので撮影や調査にも便利です。(こちら、穴あきピンセットと共にネットでの販売も少数ですが行いますので、加工が面倒くさいって言う方はよろしくお願いいたします。)


折れ尺、ピンセット、マジックを収納した状態
カラビナ等でランヤードを取り付け、ピンセットに連結しています。ピンセットを取り外すのも楽です。
ランヤードのテンションが気になる場合は画像の様にパラコードの物でも良いです。

もし、需要があるのなら、また装備品シリーズ書きたいと思います。

それではまた!


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