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カラスのジュ-ル (中)#創作大賞2022


庭で猛禽類に襲われ片目を失ったジュ-ル。

奇跡的に一命をとりとめ回復期に入った。

足指も痛めてしまったジュ-ルは、枝にとまることができないため、いつも寝ていたカーヴではなく、家の玄関の中でしばらく様子を見ることに。
ここはガラス戸付きのドアがあり、中の様子がよく見える。

2日後、奇跡的に足指が治り
外でいっしょに過ごす

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思うように開かないくちばしを必死に開けて
食べようとするジュ-ル
まだ「がぁぁ-」と鳴くことができないでいる


この日から、ジュ-ルは、いつものようにキッチンのテラスで過ごすようになるが、まだ体力がないのか、隅っこでじっとしたままで、動くことができない様子。

窓際でまったく動かないジュ-ル
同じ場所に、2時間も3時間もずっとそのまま。
元気がない。
そして、窓の向こう側にいる私をじっと見つめ続けている。

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片目になったジュ-ル。見える方の左目をやっと半分だけ開けてじっと動かない。体力がまだないのか、襲われてた時のショックからか…。

話しかけながらジュ-ルを肩に乗せてみると

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くちばしが少ししか開かないものの、喉からジュ-ルの鳴き声が聞こえてきた。まるで、猫が猫撫で声をだすような甘え声。

今までも、猫撫で声ならぬ、カラス撫で声をだしてコミュニケーションをとろうとしたことがあり、何かを訴えている様子。

ジュ-ル、なんだか、ボサボサ。
首がまだ動かせず、毛繕いができないから。



この翌日


「がぁ-、がぁ-、がぁ-」


ジュ-ルの鳴き声が。



それが私には、ジュ-ルが

「ぼく、生きるよ! おがぁさん!」と

言ってくれたような気がしてならなかった。

いや、きっと、そう言ってくれたんだ。


まだ自由に飛び回れないジュ-ルは
いつもおがぁさんといっしょ。

大好きな腕にとまったままウトウトすることも。

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うとうとジュ-ルから1週間後
劇的に元気を取り戻す
食欲も出できて

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ミルクに浸した全粒粉パンを完食後
大好きなスイカも食べちゃう


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もうすっかり大人顔だね。瞳がグレ-になった



猛禽類に襲われて傷を負う前までは、カーヴで夜を過ごしていたジュ-ル。事件をきっかけに玄関で狭いスペースでの生活になる。
これは外敵から守るためで、いつ、またカ-ヴへ戻してやるのがいいのか考えあぐねていた。

この時はまだ、この玄関での生活が悪い方向へといってしまうことに気づくことができなかった。


これまでずっとジュ-ルと過ごしてきた私。
でも1日だけ留守にしたことがあった。
その日、ジュ-ルは1日中狭いスペースで過ごすことになり、その結果、今までにない感情をむき出しにしたジュ-ルと接することに。

留守をした翌朝、ジュ-ルを玄関から出してやると、いつもと違う鳴き声が。

そう、ジュ-ルは怒っていた。

怒りの声。

そして、手乗りしてこない。怒ってる。

しばらくして、やっと手にに乗ってくると、くちばしで私の腕の皮膚をキュウっと、つまむようにして

つねった!

「痛いっ、ジュ-ル、やめてっ!」と言ってもやめない。

やめないどころか、何回もやる。

そして、文句を言うようにに鳴き続けた。

そして、この、くちばしでのつねりは、夕方まで続くこととなった。

夜になり、玄関スペースへ連れて行く頃にはやっと機嫌をなおしてくれたのですが…。

その翌日、またしても私は1日中、家を空けなければならなくなり、
ジュ-ルは、再び狭い玄関スペースでの1日を過ごすことになった。

留守番ジュ-ル。

私が帰った次の日、結果はどうなるか、読者のみなさまは、もうおわかりですね。


つねり攻撃再発。


ジュ-ル、怒ってる…。



【ジュ-ルの家出】


その日の夕方、ジュ-ルは姿を消してしまった。

ジュ-ルは何処かへ行ってしまった。

庭じゅう、どこを探してもいない、夜になっても戻らない。


戻らなかった。


次の日も


そして、その次の日も。


私は、大事にしなければいけないものを、おろそかにしてしまった。

動物といえども、尊重すべきものをしなかった。

ジュ-ルとの『信頼』『絆』を失ってしまった。



ジュ-ルがいなくなり、悲しかった。

ジュ-ルは、狭いところに閉じ込められたのが嫌だったし、自由になりたかったんだ。私のしたことが許せなくて、それで出て行ったんだ。


巣から落ちたヒナだったジュ-ルを保護してからずっと思っていたこと、

それは、いつかジュ-ルを野生に戻してやること。

だから、こんな形での、追い出すような形になってしまったけど、もしかしたら、これがジュ-ルのためにはよかったのかもしれない、と思い始めていた。


すると、ジュ-ルが姿を消してから3日目の昼頃、


ジュ-ルが!!!


キッチンの窓ぎわで声も出さずに、私達家族を見つめていた。

戻ってきてくれた。

そして、すぐに私の肩に舞い降りて来た。


お腹が空いているだろうと、あげたご飯は二口だけ食べて、あとは私に寄り添ってくる。そう、ご飯のためだけにここに帰ってきたんじゃない。

私、私達家族に、また会いにきてくれたんだ。

ジュ-ルは、自分の生きる場所を自分で選んだんだ。

そう思った。


ありがとう、ジュ-ル。

ずっと、ずっと野生に戻さなきゃって思っていたけど、それは違う。

選ぶのは、きみ、ジュ-ル自身なんだね。



【憎めないジュ-ル】


家出事件の後、夜は外敵から守るため、ジュ-ルを元のカ-ヴで過ごせるようにした。もう狭い玄関スペースは卒業。

3日間の冒険をしたジュ-ルは、1週間後にまた1日のプチ家出をした。
そして、徐々に外の世界を知るようになったジュ-ルは、夜、カーヴに入るのを嫌がるようになっていった。

こうして8月に入ると1日中を外で自由に暮らすようになっていったジュ-ル。夜、天敵に襲われないことを祈りつつ、暮らしてゆく私達家族であった。

8月上旬頃、木にとまるジュ-ル。
夜はもっと高い木にとまり眠りにつくのであろう。

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1日中自由に飛び回り、遊ぶ。そして、捕食もするようになり、自分で餌をさがすことができるようになった。

相変わらず、大好きな全粒粉パンを食べるけれど、実はジュ-ルは草食系。

その証拠に

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家庭菜園のズッキーニを突っついて食べるように。

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ズッキーニを小さく切ってあげると上手に足で押さえながら食べる。
この写真ではジュ-ルの右目がつぶれているのがよくわかる。でも片目でも飛んでいる虫を捕食したり、土の中のミミズ見つけて食べたり、不自由なく飛ぶこともできる。

それから、お腹がいっぱいだと、餌を隠しておいて後から食べることも自然にできるようになる。

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餌を秘密の場所にかくす。

隙間や穴に餌をグッと押し込むようにする。そして、数分後、数時間後に食べる。

餌を隠した場所をちゃんと覚えていられる記憶力があるのだ。

この食べ物を隠す技は、お腹がいっぱいの時。

食べ物が足りない時は、手乗りをしてきて、私の指を、くちばしではさんで、「パンが足りないよ-、もっとちょうだい!」と催促する。

この【はさむ】行為は、まったく痛くない。イヌの【甘噛み】みたいな感じ。

この辺りに住むジュ-ルと同じ種類のカラスは、草食系で、広い農地や牧草で穀物や虫を食べて生きている。日本のハシブトガラスのように、ごみを漁らない。個人の野菜畑を荒らすということも聞いたことがない。

野で生きて、山で暮らす、そんなカラス達。

ジュ-ルも野生に帰ることができたら、きっと、そのように暮らしていくのだろう。



【カラスの行水】


夏になり感じたことがある。

それは、ジュ-ルの足指の体温の変化。

カラスも暑い日には、体に体温がこもるらしく、私の手や腕、肩にとまった時に、それを感じる。

ポ-ジングをするジュ-ルの足指

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この足指が温かくなったり、冷たくなったりする。

野生のカラスは、体にいる寄生虫や、汚れを落とすために砂浴びや水辺で水浴びをするそう。それで、ジュ-ルのために青いミニプ-ルを用意した。

プールのふちにとまって気持ちよさそうに
水浴びをするようにジュ-ル

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この間2分ほど。やはり短い
まさにカラスの行水


そして、日当たりのよいところで毛繕い

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「わぁ、ぼくボサボサだぁ」

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まだ羽がぬれているから バサバサッとして

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「あ-、さっぱりした」

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きれいになったよ



つづく


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