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山梨山小屋逗留日記 一日目

【はじめに】
 山梨県某所に別荘こと山小屋がある。
私が8歳の時に完成し、関係者一同で宿泊し集合写真を撮った記憶がある。
それからも夏休みに親戚家族と一緒にお泊りをして遊園地に行ったりもしたが、高校生を最後に足を運んでいない思い出の場所。
 そんな私は数年前まで長らく社畜人生を送っていた。盆暮れ正月も土日もない生活に加え、直前までいつ休みが取れるかもわからない、勤労感謝の日は勤労できることに感謝する日だと言いながら仕事をしていた。『旅行』をするという概念を無理やりどこかに置いてきたまま生活をしていた矢先、持病となる線維筋痛症の発症や様々な事情が重なり、いろいろ割愛した結果、仕事を辞めた。
 しばらく何も手がつかず、だらだら床に転がってYouTubeで心霊系動画を視聴しながら寝落ちする日々が数か月続いた。
時間が一番の休息になるのか、二年くらい前から少しだけ自分の意思で活動できる時間が増えてきた。
 そんな折、老朽化した山小屋の修繕をする必要が出てきた。
別荘は管理事務所こそあるが、修繕は自前である。
業者に頼まずとも、幸い稼業的な意味で工具も技術もある家族が我が家にはいた。
 もちろん仕事のスケジュールの合間を縫っての作業だが、毎日暇な私は家族についていくことにした。
 これが数十年ぶり、昨年の夏から現在に至るまで数回に渡る山梨遠征の始まりだった。

【一日目】
 どうも水道管が破裂したらしい、行っても翌日の昼まで水が使えない。らしいので、夕方に出て山小屋には夜到着する予定となった。トイレは近所の公園のトイレを利用するということで納得した。
 水が出ない以上お風呂に入れない為、出発前にシャワーを浴びて準備万端で出発した。
 私は車に乗るのが好きだ、車酔いをしたことがないし、車が走り出して数分で心地よい眠りに落ちる自信がある。
運転する家族も心得たもので、会話がなくともお互い気にしない。カーステレオをラジオに切り替えて、ちょうどいい音量のトークやBGMが、電波の影響で頻繁に途切れ始めるとトンネルが多くなったのだと目をつぶっていてもわかる。
 ここで小休憩を取る。場所は『談合坂サービスエリア(下り)』で、食事や間食をする若さもないので実質トイレ休憩なのだが、私はぐるっと一周するのがルーティーンになっている。今まで立ち寄った中で一番空いていたかもしれない。うろうろしつつ、新商品をチェックしたり、趣味のご当地ちいかわキーホルダーを買ったりする。桔梗屋さんのコーナーでは新商品が増え、信玄餅のパッケージがサンリオキャラクターになっている。昨年は鬼滅の刃だった。流行は巡るのが早いのだ。
 次にパン屋さんへ移動すると、ほうとうを揚げたスナックが売られていた。ケチャップとマヨネーズが置いてあったので、しょっぱい系の食べ物らしい。
 家族は、スタバだけが急に混み始めてコーヒーを買う気が失せたとぼやきながら運転席に乗り込んだところで出発。
結局寝はしなかったのだが、高速道路の両側に広がる家屋を眺めながら、そこに住む人たちの生活を想像していた。最寄り駅はどこなのか、映画を見に行くにはどこへ行くのか、あそこにイオンがあったな、などとりとめのないことを考えていると、目の前に富士山が現れた。
 夏の登山者が確認できる富士山は見慣れていたけれど、春の入山禁止期間の富士山を望むのは初めてだった。頭にかぶる雪、青い裾野は荘厳で、綺麗だなと月並みな声が出た。
 やがて視界に富士急ハイランドのジェットコースターが見えてくるとゴールは近い、インターを出ると、そこは富士河口湖町である。
着いてまずは食材の買い出しの為、スーパー、ホームセンター、100均、衣類量販店が一つの敷地にまとまったモールに寄る、入り口に薪が積まれて売っているし、買っている人もいる。みんなどこでどんな風に薪をくべて、焚火の前でどんな話をするのだろう、火の発見は人間の文明を変えただけある。だが山小屋には暖炉がないし、後処理が嫌いな面倒くさがりは想像力だけで薪を買うことはない。
 スーパーに入るが水道が使えないので冷凍食品を中心に必要な食材を選んでいく。合間合間に楽しそうにお肉やアルコールを選ぶグループを観察するのが好きである。
普段買わないので気づかなかったが、最近の冷凍食品は種類豊富で美味しそうだ。あれもこれもと目移りしつつ数点選ぶ。
途中、スーパー内のパン屋コーナーにやたら巨大なメロンパンを見つけた。心惹かれたがさすがにやめた。
 買い出しを終えて、いざ山小屋へと向かう。カーブのきつい山道をうねうね走る、子供の頃はこの夜道が怖くて仕方なくてギャーギャー言って家族になだめられたものだが、年齢と共に感情が落ち着いたのか、ただ心霊系が好物になっただけなのか、怖いという感情はわかなくなった。ただ、たまに鹿が飛び出してくるので大人になった今ではそちらの方が怖い。
 別荘地の敷地に入り、しばらく走ると昨年夏ぶりの山小屋に辿り着いた。
まだ日は落ちておらず、荷物を運びこんでから山小屋周りを観察すると、富士桜がほころび始めて、足元ではふきのとうが群生していた。
 七分袖で行ったのだが場所が場所だけに気温が下がり肌寒さを感じる。吸い込む空気が美味しい。
家族はすでに石油ストーブの電源を入れていた。体育館に置くようなデカいやつだ。
 ところで、水道が使えないという話だったが、到着して蛇口をひねったところ水が出たのである。どうも直前に業者さんが直していてくれていたらしい。
夜中に公園トイレに行く動画でも撮ろうかなと呟いていたので、一安心しつつちょっと残念な気もする。
 ひとまずお湯を沸かし、買ってきた冷凍食品を各々適当に温めて夕食を済まし、お風呂に入ると家族は一足先に就寝してしまった。
 私はというと、ハンドメイド作家のようなものをやっているので、帰宅して数日後には大きなイベントが控えている為、夜中まで作品作りに励まなければならない。
ちょこちょこ作業して本日は私も就寝。

つづく


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