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「海をおそれる少年」:勇者になった臆病者マファッツのおはなし

今回の旅noteの主人公は、ポリネシアの島に住む酋長の息子マファッツ。1941年にニューベリー賞を受賞した80年も前のお話です。子供の頃読んで今も大好きなお話を、ぜひ皆さんに知ってほしくてご紹介します。

海をおそれる少年」は講談社の世界の名作図書館31(1969刊)所収で、若き日の安野光雅が一度見たら忘れられない素晴らしい挿絵を描いています。

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あらすじ:ヒクエルという島にすむマファッツは、3歳のとき母と小舟で猟に出て嵐に会い、自分だけが生き残ります。その記憶がトラウマになり、海が怖くてたまりません。仲間が猟に出かけるときも浜に残り、「あんな奴はせいぜいもりでも作っているのが似合いさ」と陰口を言われ、酋長の息子なのに臆病者のレッテルを貼られて、のけ者扱いでした。

ある晩、マファッツは、自分は勇者になると決心して、親友のウリ(犬)を連れて海に出ていきます。

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大嵐に会い、やっとのことで流れ着いた無人島で、マファッツは暮らし始めます。勇者のしるしを身に着け、自作のカヌーを操って故郷に凱旋する日を夢見ながら・・・ ロビンソンクルーソーさながら、食べ物を調達し、家を作り、カヌーを作る木も、自分で作った道具で切り倒します。もう一羽の大切な友達、アホウドリのキビも姿を見せてくれます。

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無人島だと思っていた島は、じつは人食い人種が生贄を捧げる島でした。もうすぐ出発という日、とうとう人食い人種が儀式にやってきます。低く鳴り響く不気味な太鼓の音・・・ そして・・・・

マファッツは数々の困難を乗り越えて故郷にたどり着き、今も夜の焚火を囲んで語り継がれる勇者となったのでした。

解説によれば、著者のスペリーは船長をしていたおじいさんから、海の冒険譚を聞いて育ち、戦後、都会生活に飽き足らなくなってタヒチに渡り3年近く南海の島で過ごしたそうです。ボラボラ島では大酋長の家に泊めてもらっていたとか。だから、こんなに生き生きと情景を描けたのですね。

そして原題は「Call it courage」  後に学研から出版されたときは「それを勇気とよぼう」と原題にそった訳になっています。

<原書の画像:Wikipediaより>  著者がイラストも描いています。

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私は、マファッツが逃げるように島を出たことが心に残りました。勇者になりたい・・それは本心からの願いだったけど、実際は陰口に耐え切れず、いたたまれなくなって逃げるように海に出たのです。わ~っと叫びたくなるような、自分が何をやっているのかも分からないような無我夢中な心境だったかもしれません。でも、それが自分を変えることになった・・・逃げても良い、きっかけは何でも良い、ほんの少しだけ勇気を持って行動すれば成りたいものになれる。マファッツはそれを教えてくれました。

そして、犬のウリがサメの餌食になりかけたとき、あれほど恐ろしかった海に飛び込んで戦います。「おれ自身のためだったら、とてもあんなことはできなかったろう。ウリのためだからこそ、やれたんだ」 守るものを持っている強さと優しさも感じました。

ひと昔前(いや、もっと前? 笑)の子供向け文学全集は、錚々たる文筆家が編集委員や翻訳者に名を連ねていて、イラストも、びっくりするような著名人だったりします。子供時代に出会えて幸せでした。

<出版情報> 

 Call it courage :written and ill. by Armstrong Sperry.    Macmillan(1940) *published as The Boy Who Was Afraid in UK 

海をおそれる少年:飯島淳秀 訳   安野光雅 絵 講談社 少年少女世界文学全集17(1960) /  講談社:世界の名作図書館31(1969)

それを勇気とよぼう:久保田輝男 訳 梶鮎太 イラスト 学研 現代子ども図書館20(1974)