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娘、クラシックのコンサートに行く(GW)

元々、長いこと静かに座っていないといけないクラシックの演奏会に幼児は向いていない。鬼門と言ってもいい。大体のとこ未就学児入場不可ですし。
わが家の娘は今1歳と11ヶ月。
ごりごりに未就学。
なもんで、自然と親の方も音楽から足が遠のく。
子連れOKのコンサートで「こんな渋い選曲こども聴くか!?」みたいなやつあるけど、あれ親のためのものでもあるんでしょうね。「小さい頃から本物に触れさせて…」みたいなありがたいお説もあるんじゃろうけど、少なくとも今回はたぶん娘よりわたしの方がかなり嬉しかったと思う。
美術館、博物館、水族館や動物園にいたるまでとにかくなにごとも事前予約制、人数制限要の昨今。
演劇や音楽も、来場者はきっちり身元を控えて連絡先まで主催に共有して会場に入る。まだまだ、団員の身内だけとか、後援会の皆さまだけご招待とか、入れる人数を絞って絞って、小さくしか発表できない・しない団体も多い。
演者さんたちにとってはたまったもんじゃないこの状況がわれわれ親子の不意のラッキーにつながった。
楽器をやってる友人から「ほとんど身内の招待客しか入れないし、ちっちゃいホールで親子室もあるからおいでよ!」って、演奏会にご招待いただいてしまったのです。娘と。

初めての親子室。
防音の色ガラスが座席の前面にはめ込んであって、頭上にスピーカーが3つ並んで設置してある。ホール内に広がる音を摂取するんじゃなく、ステージ前のマイクが拾う音をここに直に引いてきてるっぽい。現場で生放送を見てる感じ。不思議だ。
夫に確認してもらったが、外(一般の座席)からはこちらが見えづらくなっているらしい。
(写真にもちょっと映ってますが、親子室からはほとんど違和感がない。ガラスの向こうに人が立つと、あれ? ちょっと暗いな? と思うくらい)
そのまま会話を試みたが、お互いの声は全然聴こえなかった。
子どもがちょっと騒いでも大丈夫っぽい。振動は外に伝わっちゃうからどたばた騒いだらダメだよとは注意書きがあったけど。
いやこの部屋考えた人絶対もっと感謝されるべきだしノーベル平和賞とかとってほしい。わたしが知らんだけでとってる? 誰の功績? 個人的にハムとか贈っていい?

親子室、正直予想の1000倍頼もしい。が、怖かったので近くの書店で新品のシールブックを買ってから行った。
娘は椅子から降りたり、また上ったり。機嫌よさげにしていたが、開演ベルが鳴って客席の電気が落ちると隣の席のわたしにひしっと抱きついて一言「こわい…」と言った。
「大丈夫だよ~、ほら、色んな楽器の人いるよ。見てごら」
「ニンニン!!!?!?!?」

What's ニンニン

どうやらステージ上のみなさんの衣装がみんな黒×黒だったのが忍者に見えたらしい。言うやいなやわたしからぱっと離れて今度はガラスに張り付かんばかりに前のめりだ。
そりゃーこんな大勢ニンニンおったらかぶりつきだわ。
そうこうしてる内にコンミスさんが調弦に出てきてぺこりとお辞儀をした。娘もつられてぺこっと頭を下げる。かわいい。
指揮者が袖から出てきて会場がわっと拍手であふれると、娘もなにがなんだかわからないまま小さなおててをぱちぱち鳴らした。そうそう。大事だここの空気読み力は。
音楽は好きだけど詳しい訳でもない。クラシックもそう知らない。
スタートは知らん歌劇の序曲だった。
はじまりはじまり~!! と言わんばかりににぎやかな旋律、リズム、管も弦も大騒ぎで歌っている。のを見て、娘は「ワァ~! ちょうちょ!」と言った。ちょ、ちょうちょ!?
「ちょうちょ、ちょうちょ」と指さす先を辿るとどうやら指揮者の手があちこちに指示を出す様がひらひら舞う蝶の手遊びに見えたらしい。詩的~。
「ジャーン!」と音がぶつかるとこでは耳を押さえて「み、耳…!」とちょっと叫んでいた。色んな音が聴こえてびっくりしたらしい。

Twitterでもnoteでも何回か書いているが、わが家の娘は片耳に欠損がある。欠けてる方の耳には難聴も。
なのでこういう時、無邪気さへの愛としっかり両耳を触って聴こえている意思表示をしたことへの驚きと喜び、驚いてしまう自分へのかなしみなんかがごちゃっとないまぜになって、この時は久しぶりの音楽に触れてる時間だったのであらゆる感情が濁流になってうっかり息ができなくなりそうだった。
娘は2曲目のモーツァルトが始まる頃にはだいぶ落ち着いて(というか飽きて)、「さっき買ったシールブックをくれ」とわたしのバッグを探り始めた。いいけども。大人しくしてくれるなら万々歳だけども。余裕じゃんなんか。
勝手にぺたぺたやっている娘を構いつつステージを見る。なんとまあ手の込んだ時間だろう。こんだけの人がいっこの音楽のために集まって楽譜読んで、息を吹き込み、弦を揺らし、音を合わせ…まじでわたしにはひとつもできないことを何ヶ月も積み重ねて今のこの時間をつくっている。
出産してからこっち、こんな風に手の込んだ美しいものを浴びたのは久しぶりだ。子どもと一緒に部屋まで用意してもらって、貴族かなんかか?
(たまたまこの日の親子室利用がわれわれだけだっただけです)
贅沢させてもらったなあと思う。アンコールまでしっかり聴いて帰ってきた。
招待してくれた彼女には、「コロナ禍なので差し入れ不可」とのことで、当日は挨拶だけ。後日なにか贈り物をしようと思う。
いや~…よかったなあ。
帰りの車内で娘に「どうだった?」と聞いたら、忍者のジェスチャーとキメ顔付きで「ニンニン!!」と返ってきた。
きみそんな忍者好きだったっけ? 

・五線譜を知らぬ白玉トゥララララ

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