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性善説に、幸あれ。

見えない人とともに。

お話を聞いたのです。シビックハッカーの関治之さんに。
この9月からデジタル庁でも働かれている関さんは、Code for Japanを立ち上げた立役者。現在シビックテックのトップランナーとして鋭意その推進に邁進されていますが、エンジニアとしてインターネットの進化と並走しながらソフトウェアやシステムの開発等に携わられていた関さんがそもそもなぜCode for Japanを生みだすことになったのか、その端緒は2011年の東日本大震災にさかのぼります。未曽有の激甚災害に情報が錯綜する混乱の中、地震発生のわずか4時間後に立ち上がった「sinsai.info」というクライシスマッピングサイト。250人の協力者が一度も顔を合わすことなくリリースされたこのサイトに、避難所の開設や救援物資の流通をはじめ、人々が必要とするライフライン情報が位置とともに日々共有されていきました。こういう話を聞くとエンジニアの皆さんへのリスペクトで涙が出ます。それは単なる敬意だけでなく、日常的に疑いたくなる人間の本質としての性善説を信じ直すことができるから。フィルターバブルの発生やテックジャイアントによる格差拡大で“技術は本当に人を幸せにするのだろうか?”と、技術者としてのアイデンティティがぐらつくこともあった関さんは、その責任者を務める中で、技術をちゃんと活用すれば社会に意義ある確かな価値を生み出すことができるという想いを新たにします。そして、「震災までは社会課題解決なんて全く考えていなかった」、という言葉が逆説的に伝えてくれる想いの強さが、2013年のCode for Japan設立へと結実するのです。


オープンだからこそ、できること。

そんなCode for Japanは、ビジョン/ミッションとして「ともに考え、ともにつくる社会」/「オープンにつながり、社会をアップデートする」という旗印を掲げています。現在も渦中にある東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトは彼らによって提供されているのですが、どういう遺伝子の元にこのサイトが作られているかと言うと、githubという共有サイトにオープンソース化され、わずか3週間で224名のエンジニアが750件の改善提案を投げかけ、671件が取り入れられています。当然レスポンシブで正確、グラフィカルで明快。もちろんこの扉はずっと開いているので、常により良くなり続けるのです、共創による善意のエンジンで。何て素晴らしいことでしょう。僕は川崎市民なのですが、残念ながら川崎市のWEBサイトは致命的にわかりにくい。都のサイトと比べるとその差は多摩川を越えるだけでは済まず、感覚的には知りたい情報にさっとスマホでアクセスできるのが前者とすれば、後者はピーヒョロヒョロと鳴く声だけで拉致あかず電話したらばたらい回しという落差。川崎の一市民は、欽ちゃんの如く思う訳です。「なんで、そーなるの?」と。関さんはわかりやすい例示をしてくれます。“伽藍とバザール”というお話。大聖堂と市場を比べてるのですが、何の象徴かというと官と民の違いでもあって、トップダウンで人々の“税”を尽くした硬直な作り方とボトムアップで人々の知恵を尽くした柔軟な作り方の違いとも言えるかもしれません。その上で日本には自治体が1,741もあるのですが、それぞれ伽藍を作ろうとしている、と。・・・・・なんてこったい。


正しさでなく、楽しさを。

これは日々市民の暮らしを良くしたいと全国各地の役場で働かれている公務員の皆さんが悪いのではありません。悠久の世から人は“境”を作りたがりますが、その境が悪いのです。必要悪と言えるかもしれませんが、その境を超えるのに概念としてインターネットは大きな価値を発揮し続けているし、比喩的に言わずともそこから生まれる新たなシビリゼーションの在り方や思想が明るく未来を照らしています。そんな光を燦々と放っている、Code for Japan。さまざまな社会のテーマに人が境なく集まる“場”をつくって、プロジェクト化して課題解決や価値創出の実践をして、そこで得られた知恵や方法論をオープンに共有していく。このサイクルを回していくことで、社会的な知的資本がコモンとして蓄積していく。う~ん、素敵。心の根っこにポジティブな波動砲を打たれたかのようにシビれます。科学者の考え方と等しいな、と。証明された公理は、人類の公器なのです。ニュース見て、政府に文句言ってる場合じゃない。本当の民主主義って、こういうことじゃないか、と思っていたら関さんが「参加型熟議民主主義」という言葉を教えてくれました。そこで本当に大切になるのが対話なんだ、と。そして正しいことでなく、楽しいことが大事なんだ、と。共創、そしてクリエイティブ。美大で学ぶ僕らはまだまだ汗をかかなきゃいけないなと思ってやまないわけです、なぜならできることがたくさんあるから。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第9回/関治之さんの講義を聞いて 2021/9/6

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