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新宿

初めて新宿に来た日のことはよく覚えている。
高校生の頃で、東京に越した友達に会うために深夜バスに乗ったのだ。
ひとりで東京へ行くのも深夜バスに乗るのも初めてだったので、車中は興奮もあって一睡もできず、そのまま朝6時くらいの新宿へポンと放り出された。
いくらなんでも、その時間から友達を訪ねるわけにもいかないので、寝不足でぼんやりしたままブラブラ歩いて靖国通り沿い、歌舞伎町の対面の辺りで牛丼を食った。
開いてる店でぼくが入れそうなのはそこしかなかったのだ。

店内は満員だった。
若い人から年寄りまで、女性も男性も、よくわからない人もごちゃごちゃになって無言で牛丼を食っていた。
アウェイ感が半端ない。
ぼくを見るなり、すっくと立ち上がった労務者風のおじさんの後に席を取り、腹が減っていたから大盛りとみそ汁を頼んだ。

40年くらい前の歌舞伎町は今のヤバさとはちょっと種類が違うヤバさがあって、早朝ともなると、そこから生還してきた猛者が辺りにはうじゃうじゃいた。

そんな雰囲気の中でお上りさん丸出しの高校生がひとりで牛丼を食うというのは、なかなか勇気の要る行動だと思うが、お上りさんゆえの怖いもの知らずさで無事食い終えて、外に出ると梅雨時のむわっとした空気が、酒や香水、あるいは小便や吐瀉物なんかの匂いと混じって、肌や鼻腔の奥にこびりつくようだった。

社会人になってからは仕事で6丁目にあった「日清パワーステーション」に行ったり、コマ劇場の地下にあった映画館で映画を観たり。

最初の印象が強烈だったせいか、あまりいいイメージがない場所である。
渋谷、池袋もそうだ。
ぼくにはあまり繁華街が合わないようだ。

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