日本では(でも)mRNAワクチンは超過死亡を抑制していた事を統計学的に証明した論文

■論文名■
2020年以降の日本における超過死亡率に対して、
mRNAワクチンの接種率は逆相関的に関連、
高齢化率は正相関的に関連する

The mRNA Vaccination Rate Is Negatively and the Proportion of Elderly Individuals Is Positively Associated With the Excess Mortality Rate After 2020 in Japan

PubMed PMID: 38371060

Cureusのサイト
https://www.cureus.com/articles/220425-the-mrna-vaccination-rate-is-negatively-and-the-proportion-of-elderly-individuals-is-positively-associated-with-the-excess-mortality-rate-after-2020-in-japan#!/

筆者:阿藤大(所属施設なし、独立した個人の研究者)、大阪府豊中市

■要旨
<背景>
日本におけるCOVID-19によるパンデミック中における、超過死亡に対するmRNAワクチンの影響度は明らかではない。当研究では超過死亡率の要因を、政府や研究機関から公表されているデータにより検証する。

<方法>
都道府県における超過死亡率を目的変数とし、mRNAワクチン接種率、高齢化率、対人口医師数、一人当たり医療費の対全国平均比、を説明変数として重回帰分析を行った。

<結果>
2021年7月から2023年4月末の期間において、超過死亡率の独立規定因子は次のとおりである:高齢化率(回帰係数B=0.0097, p<0.0001)と部分接種率(B=-0.0034, p=0.048)、もしくは高齢化率(回帰係数B=0.010, p<0.0001)と3回接種率(B=-0.0025, p=0.046)であった。ステップワイズ法による分析でも結果は本質的に同等だった。ただし、p値はより小さくなった。他の二つの指標は、超過死亡率とは関連しなかった。

<結論>
当期間の日本において、mRNAワクチンは、超過死亡率の低下と関連し、高齢化率は上昇と関連した。したがって、mRNAワクチン接種の積極推奨の政策は正当化される。

■序章
2020年の初頭からのCOVID-19パンデミックにより、世界各国が感染抑制のための政策を実施した。2020年終盤にはmRNAワクチンが開発され、アメリカから臨床導入された。日本では2021年の初頭よりハイリスクの個人と医療従事者を対象に接種が開始され、一般人には追って接種が開始された。各国の政策上の努力にかかわらず、2023年9月末の時点で、全世界におけるコロナの感染者数は約8億人、死者数は約7百万人に上った[1]。更に全世界では2020年以降ですでに死亡率の上昇も見られた[2]。

日本では他の先進国と比較し、COVID-19の人口あたり死亡者数が抑制されていた[1]。ワクチン接種率やマスクの着用推奨等、政策への国民の順守率が良好だったことが最大の要因と考えられる。一方、日本では超過死亡率については、2020年は若干低下したが、2021年以降で若干の上昇を見せた[3,4]。

超過死亡率が上昇傾向となった主たる理由は、医療切迫による他疾患での対応力の低下と考えられている[5,6]。特に脆弱な高齢者が、医療資源の限界により、恩恵を受けられれずに死亡したケースが増加したため、かもしれなかった。この状況は都道府県により差が見られた。しかし、医療切迫は客観的評価が困難なため、この影響による超過死亡率に対する数値的な評価は困難である。ゆえに当研究では、各都道府県における医療切迫による影響を、高齢者率で代替する。他、医療指標としての人口あたり医師数、一人当たり医療費、そして、ワクチン接種率とあわせて説明変数とし、超過死亡率の要因を検討した。

■方法
<データと評価期間>
評価期間を2つに分けて検討した。一つは2020年初頭から2023年4月末まで。もう一つは2021年7月以降から2023年4月末までの約2年間である。このように分ける理由は2020年では超過死亡率が低下傾向だったため[3]、2021年以降のリバウンドとの合算の影響を考察する為である。更にmRNAワクチンの接種が2021年初頭から開始され、超過死亡の増加傾向が2021年後半から見られたため、仮にその影響を受けるとすれば、直接受けるはずである、この期間を別途検討する必要がある。

都道府県の高齢化率は、2022年10月末の人口動態統計を基にした[7]。高齢者を65歳以上と定義し、全人口で除した。人口は超過死亡率の計算にも使用した。

都道府県の超過死亡数は、exdeaths-japan.orgから入手した[8]。2023年4月30日時点での数値を使用した。この日を期限としたのは、感染状況が落ち着いている事と、COVID-19の政策上の変更が同年5月より行われたためである。都道府県で期間内に観測された死亡数と、予測値を入手した。

超過死亡率(%)は次の式で計算した。

100 x(A-B)/ P

ここで、
Aは各都道府県における、該当期間で観測された死亡数、
Bは各都道府県における、該当期間で予想された死亡数、
Pは各都道府県の人口である。

都道府県のワクチン接種率は札幌医科大学が提供するサイトから入手した[9]。2023年4月30日時点の数値を使用した。この日で区切る理由は、上述と同様である。用いた接種率について、部分接種率は最低一度は接種した事を意味する数値であるため、当数値を第一に使用した。また、ブースター接種したという観点では、3回接種率を代表値として解析に使用した。更に、4回接種率も使用し重回帰分析により検討した(理由は統計解析の項目で説明)。

対人口医師数(10万人あたり)は医療指標の一指標として使用した。厚生労働省サイトから入手し2020年度の数値を使用した[10]。一人当たり医療費(全国平均への比)も医療指標と各都道府県の経済力の代替指標として使用した。こちらも厚生労働省サイトから入手した[11]。なお後者は、COVID-19のパンデミック前後で、変化する可能性を考慮し、2019年度の数値を使用した。

<統計解析>
解析にはEZR Version 1.61を使用した[12]。各指標は平均値と標準偏差を算出した。各指標の相関をピアソンの積率相関係数で算出した。目的変数である超過死亡率に対する、他の指標との相関係数を全て算出した。ワクチン接種率同士の相関も算出した。それらの相関値を確認のうえ、超過死亡率を目的変数とする重回帰分析を行った。説明変数の候補として接種率、高齢化率、対人口医師数、一人当たり医療費対全国平均、を全て重回帰分析のモデルに投入した。重回帰モデルでは、ステップワイズ法(AIC法、赤池情報量規準)による評価も追加して行った。

重回帰分析においては、検討期間とワクチン接種率を各々2パターンに分けて行った。それは次のとおりである。

期間:2020年1月初日~2023年4月30日、2021年7月1日~2023年4月30日
接種率:部分接種率もしくは3回接種率

接種率を個別に分けて解析するのは、重回帰分析に同時に投入すると相殺しあう為である。それぞれの相関が高い為である(結果の項目で表記)。

更に、結果の項で詳しく述べるが、4回接種率においては、2021年7月以降で、超過死亡率と弱い正相関(有意ではない)を示した為、この分も別途解析した。

p値<0.05において、統計学的に有意とした(両側)。

<倫理に関する宣誓>
日本では個人情報を特定できない統計データで研究を行う際には、制約はない。当研究は公的に明らかになっている統計値のみで行った。よって倫理審査は免除される。しかしながら、筆者は倫理観を踏まえたうえで、当研究にあたった。

■結果
都道府県の各指標を表1に示す。超過死亡率(全期間)は0.14±0.034%、超過死亡率(2021年7月以降)は0.16±0.039%、高齢化率は31.49±3.06%、部分接種率は79.30±3.47%、3回接種率は70.88±4.92%、一人当たり医師数は199.7±35.0人(人口10万人あたり)、一人当たり医療費は1.05±0.10、だった。

超過死亡率に対する各指標の相関値を表2に示す。全期間においては、部分接種率が有意な負の相関を示した。高齢化率、対人口医師数、一人当たり医療費、が有意な正の相関を示した。

2021年7月以降の超過死亡率に対しては、部分接種率、3回接種率、ともに有意な相関を示さなかった。ただし3回接種率は有意ではなくとも正の方向であった(r=0.079; p=0.60)。4回接種率も同様に(r=0.17; p=0.24)、有意ではなくとも正の相関を示した。更には高齢化率が中程度の相関を示した(r=0.62; p<0.001)。

対人口医師数と一人当たり医療費は、各々の期間での超過死亡率に対して、中程度の相関を示した(r=0.39~0.49; all p<0.01)。

ワクチンの各接種率における相関を表3に示す。それぞれが高い相関を示した。

3回接種率および4回接種率は、高齢化率と中程度の相関を示した(各々r=0.57, r=0.68; 共にp<0.001)。人口当たり医師数と、一人当たり医療費は、中等度の相関を示した(r=0.55; p<0.001)。

全期間における、超過死亡率に対する重回帰分析の結果を表4に示す。ワクチン接種率が負の規定因子、高齢化率が正の規定因子となった。部分接種率はB=-0.0047,p<0.004、高齢化率がB=0.0062,p<0.003、3回接種率の場合はB=-0.0037,p<0.002、高齢化率がB=0.0068,p<0.002であった。

2021年7月以降での、超過死亡率に対する重回帰分析の結果を表5に示す。結果は全期間と同様であった。部分接種率はB=-0.0034, p=0.048、高齢化率がB=0.0098, p<0.001、3回接種率の場合はB=-0.0025,p=0.046、高齢化率がB=0.010,p<0.001 であった。

4回接種率を使用した場合の結果を表5に示す。4回接種率はB=-0.0024, p=0.040、高齢化率がB=0.011, p<0.001であった。

更に、表4と5では、赤池情報量基準によるステップワイズ法でも、結果は本質的に変わらない事も示されている。しかしながら、有意確率が更に小さくなった。

全ての重回帰分析において、対人口当たり医師数、一人当たり医療費対全国比は、いずれも有意な説明変数とはならなかった。更には、医師数や医療費を各1つ、もしくは投入しない場合でも、重回帰分析の結果は本質的に変わらなかった(データ表示なし)

■考察
知りうる範囲、当研究は、日本でのCOVID-19によるパンデミック以降、超過死亡率に対して、mRNAワクチン接種率が低下、高齢化率が上昇の独立規定因子であることを示した最初の発表である。分析では一貫して高齢化率が強い関連性を示し、mRNAワクチン接種率がそれに続いた。

2021年7月以降、超過死亡率に対して、3回接種率と4回接種率が、ピアソン相関分析では有意ではない正相関を示した。それは高齢者が若年中年者と比較しリスクが高い事が背景としてあり、結果としての高齢者の接種率上昇があるためと推測される。

医師数と一人当たり医療費は超過死亡率に対する説明因子とはならなかった。その理由は、日本における社会的制約や医療切迫が衣裳システムを崩壊させた、結果としての超過死亡の増加と考えられる。

今回の結果から、全期間で考えると、ワクチン部分接種率が1%上昇すると、超過死亡率は約0.005%低下し、人口10万人あたり5人の死亡を抑制していた事になる。2021年7月以降では人口10万人に対しては3人の死亡を抑制していた事になるだろう。

全期間の分析では、ワクチン接種率と高齢化率による、超過死亡への影響度に顕著な差は見られなかった。一方2021年7月以降では、高齢化率に対してワクチン接種率の寄与が若干弱まり、一方高齢化率の影響が顕著となった。それはAICによるステップワイズ法で明確だった。これらは超過死亡がより増加した時期では、ワクチン接種の効果を大きく超えて、医療切迫の影響が高齢者により大きく影響した事を示唆している[4,5]。

今回の結果は既存の報告と整合する[13~16]。mRNAワクチンの最初の有効性の報告は、イスラエルから始まった[16]。その後、ワクチンの流行株の変異があったが、一定の有効性は維持されてきた[14,15,17,18]。更には、メタ解析も含めた複数の研究において、ワクチン接種が、COVID-19関連だけでなく、総死亡も抑制する事が報告された[13~15]。

Mendoza-Canoらは、世界中の超過死亡率とワクチン接種率の負の相関を示した[13]。当研究は日本の各都道府県のデータを用い、類似する結果を示した、ワクチン接種率と超過死亡率との逆相関である。

今回の検討は、客観性が高い日本の政府および研究機関からの集計データによるもので、既存のワクチン有効性の研究結果を更にサポートする事にもなる。

COVID-19やmRNAワクチンの有効性に関する、様々な誤情報が世界中で拡散した。この問題について、JAMAネットワークがデマを発信する医師の分析を報告していた[19]。米国では特にSNSのエックス(旧ツイッター)での発信が多かった。これは日本でも同様であった。特にツイッターを中心とし、頻繁に嘘情報が見られた。それによる一般人への健康被害や、政府や医療者の信用棄損は深刻であった。

当研究は、mRNAワクチン接種が超過死亡を低減した事を証明した。当内容が、ワクチンの効果の客観的な説明や、一般人への訴求の一助になれば幸いである。

当研究には強みと限界がある。当研究では客観性の高い数値を使用し分析し、かつ重回帰分析で複数のパターンで、結果を確認した事は強みである。よって統計の精度としては一定の信頼性を得られている。限界の一つとしては、当研究はあくまでも相関の検証であり、因果関係の証明をするものではない。更に、超過死亡に対する重回帰分析のモデルの説明力が最高で約50%であり、未確定要因の約50%の大半は医療切迫が占めていると推測される。しかしながら、mRNAワクチン接種が感染予防のみならず、結果としての超過死亡の抑制に寄与する事や、高齢化率が超過死亡率上昇の主要因、と想定する事には合理性がある。

■結論
2020年以降の日本でのCOVID-19のパンデミック期間において、mRNAワクチン接種率は超過死亡を抑制する独立規定因子であった。そして高齢化率が超過死亡増加の独立規定因子であった。

<この日本語訳を読んで頂いた方への補足>
■利益相反
筆者は当研究に関わる利益相反を有さない。筆者、阿藤大は、組織から独立し、かつ個人の研究者である。そして当研究は、日本国憲法で保障される学問の自由(第23条)、ならびに最高法規(第98条)に則り行った。


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