見出し画像

綿矢りさになれなかった僕は【創作メルティングポット#07】

ずっと絶対的な才能に憧れていた。

僕がはじめて小説を書いたのは小学3年生のときだった。これまで特に長い話を書いたわけでも、取り立てて大きな賞に入賞したことがあるわけでもないけれど、それから15年にわたってずっと小説を書いてきた。

僕が一番熱心に小説を書いていたのは高校生から大学1年生くらいにかけてのことだった。そのとき、僕には明確な目標があった。

それが、綿矢りさだ。

綿矢りさは、1984年生まれの小説家である。高校在学中の17歳のときに「インストール」で文藝賞を受賞し、早稲田大学在学中の19歳のときに「蹴りたい背中」で芥川賞を受賞した。僕の永遠の憧れの人だ、

僕がはじめて彼女の作品を読んだのは中学生の頃だった。ほとんど誰も手をつけていない学級文庫の一冊に『蹴りたい背中』が並んでいた。僕はその印象的な表紙とタイトルに惹かれて、何となく手に取ってみたのだった。

その本を数ページ読んだだけで、僕の中に衝撃が走った。これまで読んだどんな小説よりも面白いと思った。そして彼女が、最年少の19歳で芥川賞を受賞したということを知り、僕は少し焦りもした。当時、僕は15歳。芥川賞を受賞した彼女とは5歳も年齢が違わなかった。

もちろん、自分が綿矢りさの記録を更新できると思っていたわけではない。しかし僕の中で、「19歳までに、どれだけ何者になれるか」という一つの基準ができてしまった。

その体験から10年が経った。僕は25歳になり、大した受賞歴を残しているわけでもなければ、そもそも長い小説をほとんど書けていない。綿矢りさになれなかった僕は、これからどうするのかを考えなければならない時期に来ている。

自分で小説を書くことの限界は、実は大学生の頃から考えていた。僕は日本文学を専攻していたので、研究の分野で文学史に名を残せるのではないかとも思ったけれど、どうやらそういう方面の才能も情熱もなさそうだった。

それでは、僕はどうやったら文学史や文芸の営みに爪痕を残すことができるか。思えば、大学に入学してしばらく経った後は、そんなことばかり考えていた。

そんな活動のうちの一つが「140字小説」だった。

140字小説は文字通り140字で書く小説のことだ。これは小説を書いたことのある人なら分かると思うのだが、小説をWeb上に公開したところでほとんど読まれない。イラストなどであればTwitterに投稿するとたくさんのいいねが付いたりもするが、小説のリンクを投下したところで、そもそもそのリンクを踏んでくれる人が少ない。

それを打開するために始めたのが140字小説だった。僕が書き始めたのは5年ほど前からだが、その前にもたくさんの人が書いている。

140字小説を書いて、結果的に普通に小説を書いていた頃よりもたくさんの反応をもらえるようになった。そして、僕はその状況におおよそ満足もしていた。

しかし、140字小説に対する疑念みたいなものもずっと拭えずにいた。最初は140字の中でちゃんと物語があるような小説を書いていたのだが、2〜3年くらい書いていくうちに、だんだんと140字小説の中の物語性みたいなものは消えていってしまった。いわゆる「詩」みたいなものに自分の文章が変化してきていた。そしてそうしたときに、この140字という枠に一体どういう意味があるのだろう、と考えはじめるようになった。

そんなときに出会ったのが創作メルティングポットの活動だった。当時はそんな名前があるわけではなかったけれど、主にインターネットを主戦場として文章を書いたりしている人たちが、小説をそれぞれで書こうとしている。その試みが面白いと思った。

僕は文章を書くのが好きだし、インターネットにもたくさんの文章を放ってきたけれど、職業ライターではない。だからこそ、ちゃんと仕事として文章を書いたことがある人たちに憧れを持っていた。そんな人たちに一緒に文学フリマで本を出すときに、一体何をやったら良いのか……。

僕は文学フリマに出店するのは初めてではない。大学時代の先輩たちと作ったサークルで一緒に本を作っており、これまでに東京・大阪・福岡と合計で10回ほどは参加しているのではないかと思う。その本の中では、ほとんど短編小説を書いていた。

だから、今回も同じものを作るわけにはいかないなと思った。創作メルティングポットでの活動として、自分の中で新たな挑戦をしてみたかった。

そこで、僕は今回「詩集」を作ることにした。これまで140字小説をやってきたような方法で。その書き方でずっと延長していったら、一体どこまでいけるのだろうか。

今回の詩は、5000字以上の文字列を途切れることなく書き連ねている。そしてそれらは、はじめから読んでも、おわりから読んでも、途中から読んでも構わない。元来、僕が書いている140字小説はそういう雰囲気のものだったし、今回の作品でもそれは守ったつもりだ。

綿矢りさにはなれなかったけれど、僕は僕で文芸に何かしらの爪痕を残していきたい。この詩集がその野望のための端緒となるのか、特に何にもならずに終わっていくのかはわからないけれど、まずはこの本を手に取っていただいた人に楽しんでいただければと思う。


========
(以下、冒頭を少しだけ公開します!)

君の涙が乾いてしまう前に、私が永久にいなくなれば悲しいことは何も顕在化せずにすんだはずだ。柔らかい青春は黄色い薔薇みたいで、夜空が自殺する権利を永遠に奪い去る。帰り道の電車の中で君に好きだと伝えてしまったこと、連続する思い出のどの地点でも後悔しているよ。五月の線香花火。私のいのちに時速があることに驚いていたね。部屋の隅で偶然見つけた三年前の汚い走り書きを捨てられずにいる。三角形になる君の瞳がおかしくて、泣いてしまうまで笑っていた。そよ風と刺し違えるくらいの勇気しかないじゃないか。運命なんて瑣末なものに手篭めにされるほど、君はつまらない子どもだったんだね。諦めたわけじゃなくて、夢に見放されてしまったんだろう。魔法が砕けて雫になって、黄色い月に照らされた憶測が幼い二人を台無しにした。

↑というようなことを書き連ねています、よろしくお願いいたします!

ここから先は

0字

¥ 100

サポートすると、僕がハートランドビールを飲み、これからも自我を保つのに役立てさせていただきます!